やっと仕事が終わり、永塚とともに特別棟から去った。
永塚には別れ際、「夏休みだからって、ゲームのやりすぎはだめですよ」と言ったら、「…一日三時間にする」という会話をした。…永塚財閥の跡取りだったよな?コイツ。日本の未来が心配だぜ、まったく。

俺は夏休みに入って、一度も開いてなかった自身の携帯を起動すると、その通知の数のえぐさに目が飛び出そうになる。

メールだけで1000件、電話が500…
送り主を確認すると、母さんからが異常に多く、それに負けないくらいのチームのメンバーからも送られている。

チームのメンバーからのは返信しないと、後が怖い。
…あとで返信しよう。

面倒臭いことは後回しにして母さんにリダイヤルする。この人も面倒臭いんだけど。
しばらくコールを鳴らすと、母さんが電話にでた。

『…ミツ?』
「母さん?ごめんね、連絡遅くなって」
『いいいのよ、ミツも忙しいんでしょう?』
「…あれ、機嫌良いね。怒ってないの?」
『んー?ふふ、わかる?…確かにちょっと拗ねてたんの。でも、雅弘さんが、デートに連れてってくれたから』
「あー、そうなんだ」

俺の両親は、俺が幼いころに離婚しており、俺が中学三年の時に再婚した。その相手が母の言う「雅弘さん」だ。
俺からしたら、ただの仕事に狂った中年オヤジなんだが。どうやら母にはベタ惚れらしい。親の惚気を聞くのは、かなりHPが擦り減るが母さんが幸せならまあいいだろう。

『じゃあ、家で待っているわね。』
「うん、後で」

そう言って電話を切ると、なんだかどっと疲れた気がする、いや、これから疲れるんだけど。
俺はこの学園で「比呂」と名乗っているが、それは母の旧姓だ。戸籍上は違う。
しかし、俺はこの苗字を一生背負う気はない。まだ弟はいないが、いずれできるだろう。

そんな固っ苦しいもんを望んで身に着ける気はなかった。

………あの家に帰るのか。俺はそう思うと足が重くて重くて、帰れそうになかった。


***

俺が、しぶしぶと校門をでてタクシーに乗り込もうとした瞬間、着信が鳴る。

登録されていない番号だったために、少し警戒してでる。
「…はい」

『………ヒロ?』
「…もしかして、ムタ?」

その声は、チームのメンバーのムタで、そういえば最近会ってなかったな、と思い出す。

『…』
「あー…もしかして、怒ってる?」

コイツは自分でいうのもなんだが、俺が大好きマンで、俺がまだチームにいた時は、いつもべったりだった。…あ、もしかして、俺がムタと会ったのって、俺が失踪した以来…?

『…』

怒ってらっしゃる…
「ムタ…、ごめんな…」
『別にいい』
「…?」
『声、聴けたから』

そこでブッと電話を切られた。と思ったらまた電話がかかってくる。

『ってめ!!なに勝手に切ってんだよ!!』
電話の奥で喧嘩をするあいつらについ笑ってしまう。
「その声、もしかしてタツミか?」
『ヒロ、てめえ俺ら拾っといて勝手に消えてんじゃねえぞ!!』
「あらら、なんか怒ってら『キレてんだよ!!!!』…はい」
『つうかてめえ、あん時中坊だったんかよ!!』
「えっ?あ、あぁうん…」
『…見えねえっつうの…』

そう言われてしまえば、俺は何も返せないのであはは…と笑うしかない。

『いいか、この携帯番号は俺だかんな!!登録しとけよ!!!』

そう言って、ブツッ!!!と電話切ったタツミに俺はこの夏休みにたまり場いくのが怖くなる。実は溜まり場に顔を出したのはあの一回きりで行けていなかったが、あの時いたのはユキさんや薫さんを慕って集まった人たちばかりだったから、俺を弟みたいに扱う人達の方が多かった。…だがあの時いなかったメンツは、うん、まあ…

「ご機嫌とらなきゃなあ…」

本当に自分で言いたくはないが、俺のこと大好きマン達なのである。




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