朝から調子が悪く、次の講義の教室の後ろの方に座り、机に突っ伏する。
「月影〜、おはよ」
俺の健やかなる睡眠を邪魔するのは一人しかいない。そもそも、俺に話しかけてくる奴など限られているのだ。

柔和な笑みに、甘いルックス。そして、なによりコイツはα。船津 草馬(フナツ ソウマ)。同じゼミで、勝手に俺に付いてくる奴。

一回生の時は、俺はコイツに付きまとわれていたのだが、もう諦めた。
顔を上げると同時に、睨みを効かせると船津は、苦笑いを浮かべ、「ごめんごめん」と言いながら隣に座ってくる。

「どったの、体調悪そうじゃん」
「…そう見えんなら、話しかけんな」

俺の機嫌の悪さから悟ったのか、大人しく教科書を鞄から取り出し始める船津。しかし、毎度思うのがコイツに俺がΩであるということがバレていないのが、不思議でならないということ。うなじには、もちろん噛み跡があるが、リキッドファンデーションとパウダーで誤魔化すことができる。これは、朝にアキさんがしてくれる。アキさん曰く、「サクがΩだと知っているのは俺だけでいい」だそうだ。嬉しい独占欲だこって。
まあ、めんどくさい日は、タートルネックとかを着ていくし、そもそもΩとしての性が薄いので、並大抵の人間ではわからないのだろう。

「あ」

教室の前の方を見て、声を発した船津に習い、そちらを向くとそこには正真正銘、俺の番であるアキさんと…

「あの人、ホント目立つよなあ…最近、変な噂立ってなかったのは、あの隣にいる”運命の番”って奴のおかげか…?」

そこには、昨晩俺の下でアンアン喘いでいた俺の番。と、かなり距離があるというのに、こちらまでフェロモンを飛ばしまくる、Ω。かわいらしい外見に、低めの身長。
相手をしてもらえないためか、目をうるうるさせて歩幅の広いアキさんに必死についていく。
どこを切り取っても、二人はお似合いで、正真正銘のαとΩ、思い合う番のように見える。

そういえば、この授業は二年か三年で受ける授業だったから、コマが決まった時にアキさんが喜んでいたような…。俺達がコマ被ったところで、話せる環境にないんだけれど。

「…でも、あれだな。昼田サン、すごい嫌そうな顔してんのな…
あの人くらいになれば、運命の番ですら鬱陶しいのかな…?」

顎に手を当て、二人を観察し始めた船津の頭をひっぱたいて「そんなじろじろ見んな、失礼だろ」と言う。へらへらと笑って「はいはい」と返す船津に少しばかりイラッときたが、面倒ごとには巻き込まれたくないので、無視をする。

この大学で、俺とアキさんの関係を知る奴はいないし、俺がΩということすら、誰も知らない。いや、俺はべつに隠していないのだ。すべては、皆の思い込みと、アキさんの願い。
俺自身は、別にバレようがなにしようが構わないのだ。
確かに、少し面倒なことになりそうだけれど。

冷たい態度に耐えかねたのか、思いっきり抱き着いたΩを面倒くさそうに見遣るアキさん。
俺がその様子を眺めていたら、アキさんと目が合ってしまった。
「あ、やべ」と自然に目を逸らしたが、彼は焦ってΩを引き剥がそうとする。…別にいいのに。アンタが今晩、俺に組み敷かれることになるだけなのだから。

少しだけそちらに視線を寄せると、Ωの彼と目が合った。合ってしまった。
彼は、こちらをじっと見て、視線を逸らさない。

きっと、これは面倒臭いことになるな…

俺の第六感が告げている。こちらまで、漂ってくる強いΩの匂いに俺までくらくらしてくる。
アキさん…よくこれに耐えてるな…なんて、思いつつ俺はまた机に突っ伏した。
船津が、心配そうに声を掛けてくるけれど俺はそれを総スカンし、夢の世界にダイブしようとする。

「月影…!おい!」
小声だが、鋭い声で名前を呼ばれて顔を上げる。すると、船津が険しい顔をして、口と鼻を覆っていた。

「…月影、お前もう、帰れ」
「え?」
「俺以外の奴に見つかる前に帰れ…
俺が送ってやりたいけど、多分襲っちまう」

そう言われ、船津が言っている内容がやっと頭に入ってきた。

「…なんで」

番がいるのに、フェロモンがでる、というのはおかしい。確かに、この体調の悪さはもう少しで発情期もだからだ。それでも、他のαにはこのフェロモンというのはわからないはずなのに…

思わずうなじを指でなぞった。

アキさん…



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