シキが幼児化した、まったくもってこの一文のみでは理解しかねるが、急いで連絡があったトーカ団長の執務室へと向かう。執務室の手前で乱れた息を整えて、ノックをする。
 いつものように返事のない団長に構わず、扉を開ける。
「団長…シキがどうしたって……」

 そこには、ワイシャツに包まった五歳くらいの男の子が部屋の隅で虚空を見つめている。その2、3m先で怖い顔をした団長が突っ立っているという異様な光景が広がっていた。

 「……団長」
「何も言うな」
「もしかして、小さい子供が苦手とか」

 珍しく黙り込んだ団長に、俺はこれ以上追及することをやめる。俺は男の子へと近づいて、ひょいと抱き上げた。
「…! おま! そんな大胆な…!」
「いや団長怖がりすぎですって、この子全然泣かない良い子じゃないですか」

 滅多に見れない団長の姿の脳内は爆笑している。
「ぼく、いくつ?」
「ごさい」
手のひらをパーにしてみせる、サラサラの黒髪と大きなクリクリとした黒瞳を輝かせている男の子。
「おなまえは?」
「しののめ しきです!」

 にっこりと笑った表情はまさに太陽だ。…今のシキじゃ想像もつかないほどに、良い笑顔だぞ…。
「お名前言えて偉いね、どこから来たの?」
「んと、んーわかんない…」
「そっか…俺のことは知ってる?」
「おじちゃんのこと? わかんなぁい」
「そっかー」
参った。どうしてこんな状況になってしまったのかもわからない上に、団長は全くと言っていいほど使い物にならない。
「でも、あのおじちゃんは知ってるよー」
そう言って、チビシキが指指したのは…トーカ団長。
「え、知ってるの?」
「うん! かめんらいだー!」
『かめんらいだー』がなにかはわからないが、これは僥倖。知らないおじちゃんよりも、知ってる?かめんらいだーの方が良いだろう。そう思い、団長にチビシキを差し出すと、身体ごとひょいと避けた。
「なッ! 団長、いい加減にしてくださいよ」
「いや俺が持ったら絶対に握りつぶす」
「…はあ、そんなんじゃシキに呆れられますよ。ねえ、シキ?」
チビシキは一瞬ハテナを浮かべたが、「うん!」と元気いっぱいに答えた。
はい、とチビシキを差し出すと恐る恐る抱き上げた団長にチビシキはきゃっきゃっと喜びだした。俺はその様子に一安心し、執務室からでていく。
「お前どこ行くんだよ」
「ちょっとシキをどうするか、ニイロさんに聞いてくるんで! ちゃんとシキのおもりしてくださいよ」
絶望を浮かべた団長に苦笑いをしながら、ニイロさんの元へと急ぐ。

 どうやらうちの団長は、隊長のことになると表情豊かになるようだ。





 触れば、簡単に潰れてしまいそうな柔い身体が今自分の腕の中にいる。
「…こわいかお」
そう言って、ぺたりと顔に触れてきたチビに仕返しだ、と頬を柔くつねると「いたい!」と怒られた。全くもって加減がわからん。
 この顔を綺麗だと言ったのはお前だろう、シキ。怖いなんて言うんじゃねえよ。

 「お前はいつ戻るんだ」
「…?」
「早く戻ってこい」

 今度は痛い、と言われないようにゆっくり、優しく抱きしめる。体温の高さは眠気を誘う。早く戻ってこい、シキ。





 ニイロさんを引き連れて戻ってきた執務室。陽の光が当たる場所で、元に戻ったシキとトーカ団長が抱き合って眠っている。ニイロさんと顔を見合わせ、苦笑いをし、執務室から退散する。

 今度はシキから「トーカがチビになってる!」と連絡が来るのは数時間後の話。




【作者コメント】
投票&リクエストありがとうございました!
トーカが子供が怖いのはどう力の制御をしたらいいかわからないからですね…
恐ろしや。ちなみに、幼児化トーカはシキに抱っこされながら、後ろにいるセイとかに腹立つ顔してますね。シキに見えない感じで。

セイはいつも巻き込まれて、被害者だわ…


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