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連載主とマルコ
2011/03/21 23:40
『それから、ちょっと怪我人が出たから少し遅れそうだ』
「そうかい。まあ、ゆっくりで構わないよい」
『ありがとよ。それで、そっちはどうだ?』
「こっちは変わりねぇよい。あぁ…。お前がいねぇおかげで静かでいい」
『ンだと、このやろう!』
「うるせェよい。まあ、気をつけて帰ってこい」
『あぁ、じゃ、皆によろしくな』
ガチャン、と電伝虫の背中に受話器を置いて、深くため息をつく。
サッチの声の調子からして、怪我人はあまり重傷ではなさそうだが心配なものは心配だな、と思いながらおれは横を向いた。
「悪かったな、チビ助」
読み聞かせの途中だったのに、遠征中のサッチから連絡が入ったということで連絡室に駆け込んでしまったおれの後をついてきたチビ助にそう謝った。
しかしチビ助は電伝虫を凝視したまま、ピクリともしない。
「チビ助?」
「これ、なに?」
恐る恐るといった感じで、電伝虫を指差した。
「なんだ。知らねぇのかい?」
こっくりと頷くチビ助に苦笑して、電伝虫をぽんぽん撫でた。そういえば、チビ助の前で電伝虫を使うのは初めてだったような気がする。チビ助の故郷は見た限りでは田舎っぽかったし、家に電伝虫なんていなかったんだろう。
「電伝虫っつってよい。あーまあ、遠くにいる奴と話しができんだよい。さっきのはサッチだ。お前も聞いてただろ?」
「さわってへいき?」
「ああ」
チビ助は指先で、ちょんちょんっと電伝虫を突く。電伝虫はなんだか迷惑そうに薄目を開いてチビ助をちらりと見たが、それ以外特に反応も返さずされるがままになっている。
さすがそれなりの年数この白ひげ海賊団の船に乗っているだけのことはあるな、なんて妙な感心をしていると、チビ助に裾を引かれた。
「ん?」
「なまえはー?」
「名前?」
そういえば、名前なんて考えていなかった。だいたい、ペットというわけでもないから名前なんて必要ない気がする。
「あー…ねぇよい」
「ないの?」
「ああ。なんなら、チビ助が決めていいよい」
何気なくそう言うと、チビ助は一瞬きょとんとしてから、パァアアッと光り輝くような笑顔を見せた。
「いいの?」
「あ、ああ」
まさかここまでいい反応が返ってくるとは思っていなかった。
「じゃあねー!じゃあねー!うーん…でんこ!」
「それ…は、よい…」
それは、ありなんだろうか…。
というか、まずこいつはメスなんだろうか…。
いろいろとツッコミどころが多過ぎるネーミングセンスに、おれはあえてスルーを選択させてもらおう。
「でんこ!でんこ!」
何度も嬉しそうに呼ぶチビ助を微笑ましく思った。
数日後、電伝虫の首には『でんこ』と書かれたネームプレートがぶら下がっていた。
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