Dream | ナノ

Dream

ColdStar

Love Song

最近こうやって、シオの部屋でシオと藍音と3人で過ごす時間が増えた気がする。
いつの頃から、と聞かれれば多分……シオが服を着せられるのを嫌がって家出した後くらいから、か。
あの一件以降、俺は自分の中にあったシオへの拒絶感が薄らいでいるのを感じていた。化け物だなんだと言いながら俺とこいつは良く似ている――
そして。
藍音はそれを、俺とシオが似ているという事も全てひっくるめた上で俺たちの近くにいようとし続けていた。
今日もこうやって、シオに音楽を聴かせてやっていたら藍音がシオの部屋を訪ねてきて、余った素材をシオに渡しながら……何を言うでもなく、そのまま3人でシオのベッドに並んで腰掛けている。
ただ、黙ってはいるのに藍音の視線はもの言いたげに俺を捕らえていた。
……今までだったらきっと、それを無視していたんだろう。だがこうして……藍音とも一緒に過ごす時間が増えてからは、なんとなくその視線に、その言葉の裏に、藍音が隠している感情が気になるようになっていた。
きっと藍音と出会う前の俺だったら考えもしなかったこと……だが、何故だろうか。こうやって一緒に過ごす時間が増えるうちに、藍音が俺に向けている感情の正体が妙に気にかかるようになっていた。
俺に分かるのは、藍音が必要以上に俺に執着しているという事だけ。だが、その理由は俺には理解できなかった。本人に尋ねてみても「自分でも良く分からない」なんてはぐらかされるだけで。
……自分のことさえも分からないのは俺だって同じだから、それははぐらかしてるわけじゃなくて本当に分かっていないだけなのかもしれなかったが。
そんな事を踏まえてみても、やっぱり今藍音が俺とシオに向けている視線の意味が気にならないわけじゃなく。

「……どうしたんだ」
「いや、考えていた事があるんだ――ソーマ、変わったな」

急に何を、と考えた事がそのまま口に出ていたらしい。
俺の言葉を聞いた藍音は俺から視線を外し、ぽつりぽつりと言葉を重ね始めた。

「シオが来てからソーマは変わった。今のソーマを見ているとはっきりそう思う」
「下らんことを」
「ソーマには下らないだろうな。だけど……それが嬉しいし、本音を言えば少し悔しい」

言葉を紡ぎながら、藍音の手はシオの頭を撫でる。それに嬉しそうに笑いながら、シオは今流れている曲に合わせてゆらゆらと身体を揺らしていた。
俺と藍音の間に流れている空気になんて、音楽を聴きながら楽しそうにしているシオは全く気付いていないんだろう。
俺は……藍音が吐いた「悔しい」と言う言葉の意味が汲み取れず、俺はただ藍音を見ていることしか出来なかった。きっと今の俺は相当にマヌケな面してるんだろうな、なんてことが頭の片隅を過ぎる。
本当に、藍音の言葉からは何も読み取れない。こいつが俺にどんな感情を抱いているのか、何を思って俺の近くにいるのか。俺が変わったことの何が嬉しくて何が悔しいって言うのか……そんな事を考えながら俺はただ藍音を見ていることしか出来ない。
やがて、一度外されたはずの視線が再び俺の方へ戻ってくる――

「私にはソーマを変えられなかった。ソーマが変わったことは嬉しいが、そう考えると少し悔しい……なんてな。少し勝手な言い分だった」

それだけ言い切ると藍音の視線は再び俺から逃げる。
藍音の手は相変わらずシオの頭に添えられていて、その髪を優しく撫でている――
ああ、そうか。
藍音のその姿を見ていると、俺の中にひとつ……ぼんやりとしたままだった答えがひとつだけ、はっきりとその姿を現していた。

「……変えただろ、お前も」

俺が考え方を変えた裏にシオの存在があるのは否定できない。だが、俺がシオの存在を――ひいては、それとよく似た俺自身の存在を否定しなくていいのかもしれないと思えるようになった影には間違いなく藍音の存在があった。
死神でも化け物でもないとはっきりと言い切って、しつこいと怒る気すらなくすほどに「俺」と言う存在を「俺」として受け入れた藍音がいたから、俺は――なんて。

「今、何か言ったか」
「なんでもない」

藍音から視線を反らしたまま、片方だけつけたイヤフォンから聞こえてくる曲に耳を傾ける。
シオがさっきから小さな声で歌い続けているこの曲――それは昔の俺がどうしても好きになれなかった優しいラブソング。
……何故だろう。今はこの曲がとても心に響いていた。
俺が今まで目を背け続けてきたものをそのまま形にしたような、奇麗事しかなくてそれでもどこか甘い言葉が俺の心の中で何かを訴えかける。
自分の中にある感情が形にならないまま俺は……シオの小さな歌声に耳を傾けるように目を閉じた藍音の顔をちらりと横目で窺う。

 ――……藍音。

声には出せないままその名を心の中だけで呼んでいた。それしか俺には出来そうになかった、から。


後から考えれば俺は多分、この段階でとっくに藍音に心を奪われていたんだと思う。
俺も藍音も互いに自分の感情にはっきりとした答えを見つけられていなかっただけで、きっと――

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