Dream | ナノ

Dream

ColdStar

ヒトリノ夜

なんでも明日から他所の支部の偉いさんが極東支部に視察にやってくるのだという……藍音からその話を聞かされたのは、第二部隊からの支援要請に応えて出撃したミッションからの帰途の軍用車の中でのことだった。

「そんなわけで明日は早朝から出迎えに同行した上で顔合わせをして、会議に出て、他にも色々。一日拘束されることになりそうだ」

はあ、と大きくため息をついた藍音の表情はなんとも面倒そうだ。
藍音のため息に呼応したように、正面に座っていたタツミまで一緒になってため息をつく。

「新型と旧型が混在する部隊に於いての戦闘における作戦の立て方だとか、オールラウンダーだけど中途半端になりがちな新型を部隊長の立場でどう運用すべきかとか……そんなの俺もまだ分かってないって。まぁ、夜は接待食事会ってことで美味いもん食わせてもらえるらしいから辛抱するけどさ」
「互いに、明日は長い一日になりそうだな」

藍音が短くぽつりと呟いたところで、軍用車はアナグラの前へと到着する。
車を降り、藍音がエントランスで報酬受け取りあれこれと手続きを済ませるのを待って、一緒にエレベーターに乗り込んだ。

「とにかく、そう言う訳だから私は今日はとっとと帰ってさっさと寝るつもりだ」
「……そうか」
「流石に他所の支部のお偉方との会議の途中で居眠りをするわけにはいかないからな」

心配してるのはそこなのか、と言ってやろうかとも思ったが……そんなくだらない揶揄をする必要もないだろうと思いながら言葉を止めた。

「ついでに、タツミも言ってたが明日は食事会があって夜は遅くなるから私を待ってる必要はない」

それだけを言ってエレベーターを降りると藍音は真っ直ぐに突き当たりの自分の部屋へと向かっていった――俺はただその背中を見ているだけだったが、すぐに自分の部屋へと戻ると……何をする気にもなれず、ごろりとベッドに横たわった。

シングルサイズのこのベッドが広いなんてことがあるわけがないのに、何故か……藍音が隣にいないだけで妙に広く感じられる。
ふたり分の重さを支えるには頼りないように感じられていたベッドが、今日はしっかりと俺の身体を支えている。これが当たり前のはずなのに、何故だか妙にむなしいと思ってしまっている自分がいた。
そもそもが毎晩同じベッドで寝ているわけじゃない。翌日早朝から出撃するからゆっくり寝たい、と別々に寝る事だって割と頻繁にある。
ただ明日は……同じアナグラの中にいるというのに、一日藍音から離れていないといけないし思う存分触れることもできない。
依存してるなんて言われても多分否定してただろうけど、今の俺にはそれを100パーセント否定する事なんてどうにも出来そうにない……
自然と左側を……藍音のスペースを空けてベッドに横たわってる自分に気付いて、不意に自嘲の笑みを零した。
一緒に夜を過ごすときは大体、俺の左側でしっかりと俺にしがみついて眠る藍音の姿を思い出して胸になんだかぽっかりと穴が開いたような不思議な感覚を覚える。
たったこれだけの事で寂しいと思ってるなんて……まるで、俺が俺じゃなくなったみたいな不思議な感覚。
だが俺を変えたのは藍音――そう考えれば、何故かそんなに悪くもないなんて思えてしまう俺は相当に重症なんだろう。

「……明日もこの調子か……明後日、だな」

明後日。
明後日の夜なら、藍音の時間を俺だけのものに出来る――普段よりもなんとなく冷たく感じるベッドに身を横たえたまま、俺はゆっくりと目を閉じた。
気付けばこんなにも藍音を必要としている自分の存在を改めて噛み締めながら。

――何が問題かって、そんな自分が割と好きだと思っちまってることなのかも知れないが。

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