Dream | ナノ

Dream

ColdStar

スクールデイズ

「え、タツミさんこの写真どこから手に入れて来たんですか!?」
「士官学校で教官やってる知り合いから回ってきた。俺も見て驚いたけどな」
「前に、神機使いになる前は何してたのか聞いても教えてくれなかったが……これは流石に予想外だった」

少々厄介なミッションを無事に終え、私と第一部隊の面々がアナグラに戻ってくるとエントランスではタツミを中心にして第二部隊の面々が何やら楽しそうに会話をしている。
その気配を感じたのかブレンダンが顔を上げ、すぐにテーブルの上に置いてあった紙をくるりと裏返して笑顔を作ってみせた。

「お帰り。なんか揃いも揃って疲れた顔してるな」
「大型のアラガミから挟み撃ちに遭って、コウタが4、5回ほど吹っ飛ばされたんですよ。そのたびに藍音さんとソーマが交互に救援に走って私はそれをフォローして、大変だったんですから」
「ちょ、言うなってアリサ!」

アリサが事の次第を話してみせてコウタが慌てたように腕を振り回し、その様子にその場にいた一行の間に笑いが巻き起こる。
だがそこで拗ねたような表情を浮かべていたコウタが何かを思いついたようにその場にいた3人の方へと向き直った。

「ところで、そっちは何してたんだ?随分盛り上がってたみたいだったけど」
「え?ああ……」

その瞬間、タツミが一瞬だけ私の方をちらりと見て……少し思案する。そのまま、ブレンダン、カノンと順番に視線を送ってから思いついたように手を叩いた。

「よし、コウタとアリサだけこっち来い」

呼ばれた2人は首をかしげながら第二部隊の面々の方へと歩み寄っていく。取り残された形になる私とソーマは顔を見合わせ、互いに首を捻ることしかできなかった……が。

「え、ちょ、嘘だろなんだこの写真!?合成かなんか!?」
「いや、そうじゃないんだ。とある筋から入手したんだけど間違いなく本物」
「え……な、なんか……ええ、えええ?」

驚きの声を上げたコウタとアリサの視線が、揃って私の方に向かっている……それは気のせいでもなんでもなく、確かにこの2人の驚きの眼差しの先にいるのは私だ。
一体何を見て、何故私を見て驚いているのか……それが想像できず、私は呼ばれていないのを承知の上でそちらに歩み寄った。

「一体何の話をしているんだ」
「あー、いやその……藍音にはちょっと見せられないとでも言うか」
「いいから見せろ」

ブレンダンが再び裏返したその写真をひったくるように手に取り、表に向けて……絶句するしかなかった。

「な、な……んで、これが……ここに」
「どうした藍音」

絶句した私の背後に感じるのはとてもよく知ったソーマの気配。私は慌てたように写真を裏返してテーブルに置きなおした。
これは、これだけはソーマに見られるわけには行かない。だが慌てていたせいか、手の勢いでテーブルに置いたはずの写真はひらりと舞い飛んで……表を向いたまま、テーブルの下へ。

「あ……」

慌てて手を伸ばすよりも先にソーマがその写真を拾い上げ、中身を見て……これまた驚いたように、写真と私を見比べている。

「……藍音……だな」
「それもまさかの、フェンリル士官学校付属高校の制服姿の藍音さんです。更に言うなら右手に腕輪があるので、なんと神機使いになった後の写真ですよこれ」

確かめるようにカノンがそういって微笑みを浮かべる……重ねて確認する必要がどこにあると言うんだ、全く。
私は慌ててソーマの手から写真を引ったくり、今度こそ見えないように裏返してテーブルの上に置きなおした。
そう、写真に写っていたのは紛れもなく私。それも、人に見つからないようこっそりと休暇を取って出席してきたFWC付属高校の卒業式のときの写真だった。

「もう一度聞くが何で……その、なんでそれがここにあるんだ……」
「俺の知り合いで士官学校の教官やってる奴とこないだ飯食ってたんだけど、『この前卒業した生徒が在学中から神機使いになってえらく活躍してるって噂を聞いたが本当か』って言ってこの写真くれた」
「うん、状況を整理するとつまり藍音は……神機使いになるまでは、それどころか神機使いになった後もまだ高校生だった、ってこと?」

駄目押しのようにコウタが一言……どうして皆改めて念を押したがるんだ。
いっそ消えてしまいたい。この制服姿をアナグラで他人に見られることになるなんて考えてもいなかった……逃げ出したくなる衝動を抑えて半ば自棄になりながら言葉を繋ぐ。

「……神機使いの適合試験にパスする前の日まで普通にFWC付属高校の3年生だったがそれがどうかしたか?ついでに言うと神機使いになってから学校には行っていないが通信で授業は受けて単位もしっかり取得して、任務の合間にそうやって卒業式にも出てきたがそれが何か問題でもあるのか?」
「……落ち着け、藍音」

自分でも感情が昂ぶると思うがままに言葉を連ねてしまう癖があるのは分かっているが、私以上にそれを理解しているのであろうソーマが私の肩に触れる。
だがこんなものが見つかって動揺しないわけがないのをソーマは分かっているんだろうか。
深く深くため息をついた私に、フォローするようにタツミが言葉を重ねる。

「まあ、神機使いの適合試験を受けるのは十代の若い子が多いし、ちょっと違うけどリッカは高校生の時からフェンリルのエンジニアだったわけだし、表には出してなくても学校に通いながら神機使いやってる奴がいてもおかしかないよな」
「ですよね。藍音さんは年齢の割に落ち着いてるからつい最近まで高校生だったって言うのもにわかには信じられませんでしたけど」

カノンの一言になんだか胃が痛くなってくる……自分だって、よく言えば年の割りに落ち着いている……悪く言えば考え方が老け込んでいる自覚があるから、つい最近まで高校生だった事実を知られればこういう反応になるのが分かっていたから隠していたのに。
前支部長は当然知っていたし、休暇を取るに当たって事情を説明する必要があったからツバキさんには話していたが絶対に誰にも言わないで欲しいと重ねて念を押していたから誰にも知られなくて済むと思っていたのに。
こうなってしまっては多分、アナグラの人間が須らくこのことを知る日もそう遠くはないだろう……そう考えると急に頭が痛くなってきて、私は再び深く深くため息をついた。
そんな私を、ソファに座ったままのブレンダンが不思議そうに見上げている。

「でも、そこまで必死に隠さなくていいだろう。何も恥ずかしいことじゃない」
「アナグラの人間は『神機使い』の私しか知らないんだ、今更『高校生』だった私の姿を見られるなんて恥ずかしいに決まってるだろう」
「まあ、確かに驚きはしましたけど、士官学校の付属高校なんですよね?だったら別に、今の藍音さんは実際に士官になってるわけだから別に恥じるようなこともないような気が……」

小さく笑みを浮かべながら呟かれたアリサの言葉にそれはそうだが、と答えを返しはするものの。
確かに子供の頃から神機使いに憧れ、いつか神機使いとして活躍できるようにとフェンリル関連の学校を受験したと言う過去に間違いはないのだが、そんな幼い考えだった過去の私のことまで見抜かれた気がしてやはりそれはそれで恥ずかしいものがあるのだった。

「けどまぁ……本人が嫌がってる話を無理やり広げるのは確かによくないな」

コウタからはカレルやシュンとセットで極東支部3バカトリオ、なんて言われはするけれどこういう気遣いは本当にありがたい。私は心の中だけでタツミに感謝の言葉を述べて、逃げるようにエレベーターに乗り込んだのだった。
ひとまず、その場にいた人間は「あいつがそこまで嫌がるならあまりそのことには触れないで置いてやろう」と言うことで話がまとまったらしく、そのことをそれ以降他の人間に言われることもなかった……わけではあるが……

「なんでこの写真がソーマの部屋にあるんだ……」
「これ以上出回らないように俺が預かってるだけだ」
「だったら態々壁に貼るな」
「藍音が制服姿を写真じゃなくて直に見せてくれるってんなら片付けてやる」

なんてやり取りが後日私とソーマの間でなされることになるのを、その時の私はまだ知らない。

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