Dream | ナノ

Dream

ColdStar

ハルオミ×怜那

--2015.01.15追加分--

++男のロマン
何処から入手して来たのか、ハルオミが並べた様々な衣装に視線を落として怜那は頭を抱える。
「これをどうしろって?」
「どうするかは任せるさ。だがレイ、ここにある衣装には男のロマンって奴が詰まってるんだ。分かってくれるな?」
分かりたくもないわよ、と言うのはなんだか可哀想な気さえしてくる。

++幸せになれなくてもいい
もう幸せになるなんて諦めた。
そう口にするのはハルオミであることも、怜那であることもある。
互いに望む人が隣にいないことを忘れるように側にいるからこそ望まなくなった幸せ。
「ひとりぼっちじゃないって思える分まだマシよね」
その日は怜那が口にした言葉はただの強がりだとハルオミは知っている。

++笑ってくれる?
怜那がこんな表情をしていることは珍しくも何ともない。
昔は自分もこうだったのだろうか、なんてことを思いながらハルオミはその額に氷を満たしたグラスを軽くぶつける。
「何よ?」
「一杯付き合えよ」
酔わせれば怜那はひとときだけでも笑顔を取り戻すだろうか、流石に本人に聞くことは出来ないけれど。

++言うと思った
新しく揃えた服は実際に着てみると少し露出度が高い。
怜那自身は別にそれを恥ずかしがるようなことはない。ただ……
「気にする必要なんかないだろ?これを着て出撃すれば一緒に行く男達の士気アップすること間違いなしだ」
「言うと思った」
手放しで褒められるのは照れ臭くて答えはつい素っ気なくなる。

++優先順位
「無理して時間作らなくて良かったのに」
「ハルさんにはそこそこお世話になってるし」
そこそこかよ、と呟く声は聞越えなかったかのように足を進める。
「ま、フライアに行く用がないならハルさんを優先してもいいとは思ってるし」
怜那にとっての「最優先」を知っているハルオミはそれ以上何も言わない。

++例えばって言ってるでしょ
「例えばだけどね。ハルさんが見てみたい服を何でも着てあげるって言ったら何て言う?」
ふと思いついたように口にして……ハルオミのニヤけた顔に一歩後ずさった。
「なんて顔してんの、例えばって言ってるでしょ!」
普段の恩返しのつもりではあったが出した言葉を即後悔しようとは流石に思わなかった。

++愛ならここに
「目の前にいる人を愛するってこと、忘れちゃった気がするわ」
「俺もだよ」
ハルオミは胸のロケットに指先で触れる。
触発されるように、怜那もポケットに忍ばせたロミオのバッジに触れた。
「愛ならここに、ずっとあるのに」
「目の前には表れてくれないんだよなあ」
ふたりの瞳は同じ寂しさを宿している。

++添い寝してあげようか?
ラウンジでグラスを片手にため息を吐く怜那の姿も随分見慣れたものだ――苦笑いを浮かべながらハルオミは怜那の隣に腰を掛ける。
「お嬢さん、寂しいならお兄さんが添い寝してやろうか?」
「……手つきがいまいち信頼できないんだけど」
流石に声をかけるのと同時に腰を抱いたのはやりすぎだったらしい。

++いつも傍に君がいて
ロミオの事を想って前に進めなくなった時、傍はいつもハルオミがいた。
こうして、進むことが正しいのか分からなくなりかけた瞬間にも。
「ねえ、ハルさん」
「どうした?」
「あたしの行く道が間違ってても傍にいてくれる?」
「ああ、間違いそうになったら引き戻してやるよ」
その言葉は不思議と頼もしい。

++包んであげる
怜那の傍にいると決めたのは、ケイトを喪ったばかりの頃の自分とあまりにも重なったから。
あの時の自分の傍にいてほしかった存在をきっと怜那も求めていると思ったから――
「ただの俺の身勝手だけど、お前がそれを必要とするなら俺が包んでいてやるから」
眠る怜那の髪を撫で、ハルオミは小さく呟いた。

++特別な想い
眠るハルオミに背中を向けたまま、それでもぴったりとくっついた背中から伝わる温もりは怜那に安堵を与える。
「……ハルさんがいてくれてよかった」
そこにある気持ちは愛ではない。
だが、それでもその想いが特別なことは敢えて口にはしないし、今更口にしなくてもきっとハルオミも知っているのだろう。

++約束事項
自分にはケイトがいる。そして怜那にはロミオが。
今ここにはいないとは言え、心の奥底にいる愛しい人の存在をないがしろには出来ない……
だから深くは踏み込まない――はっきりとは言わなくても交わされた約束。
「けど、時々揺らぎそうになっちまうんだよな」
眠る怜那の髪に指を通してため息を吐いた。

++未練たらしい
「お互い未練たらしいもんだよな」
デスクの上に置かれたロミオの写真を見ながらハルオミはからかうように笑う。
「ハルさんにだけは言われたくないわ」
「だからお互い、って言ってるだろ?俺はそれが悪いことだと思ってもいないし」
妻を忘れられない男と恋人を忘れられない女を包む空気はどこか哀しい。

++はじめてだったのに。
怜那はハルオミに背を向けたままで、先ほどから振り返る気配がない。
こうなった理由は自分がやりすぎたからだと分かっているからこそハルオミには何も言えないまま。
「あんなことするの、初めてだったのに」
その言葉にぎこちない怜那の唇の感触が思い出されて、身体の奥底から再び劣情が湧き上がった。

++付きあってみる?
「試しに、真剣に付き合ってみるか?」
怜那を抱き寄せ、ハルオミは耳元で囁きかける。
甘い声と抱きしめる腕の強さにほんの少し惑いそうになって……怜那はそんなハルオミを引き剥がすように身をよじる。
「何をもって『真剣』って呼ぶつもり?」
それがクリアできないなら今の関係とさして変わりはない。


--2014.07.03追加分--

++ごめんね
自分だって言われたくないことがある。
ハルオミだって違いがないことくらいは知っていた筈なのに……怜那はハルオミに投げかけた言葉を後悔していた。
自分より年上だから、大人だから平気だとハルオミに甘え過ぎていたのかもしれない。
「……ごめんね、ハルさん」
今の怜那はそう言うのが精一杯だった。

++煽らないでくれよ
彼女の本当の幸せの為にいつかは彼女と離れた方がいいことにはなんとなく気づいている。
「俺がそこまで考えてるの、分かってるのかね」
暑さに頬を染めた怜那はハルオミの言葉に首を傾ける。
「何の話よ」
「あんまり煽らないでくれよ、ってことだ」
そのままハルオミの腕は怜那をベッドに縫い止めていた。

++それ、半分ちょうだい
「ハルさん、それ半分ちょうだい」
「いやでもこれは……」
「いいから」
奪い取るようにハルオミの目の前のグラスを手に取り一息に半分ほど煽った怜那に視線を送る。
「未成年に強い酒飲ませたら俺が怒られるんだけどなあ」
ぼやいてはみたものの、酒に逃げたい「何か」があったのだろうとは察しがついた。

++こたえはここに
「昔のテレビ番組の映像見てたんだけど、クイズ出してその答えをその場にいる誰かが隠し持ってるって言う」
ハルオミがこんな表情をする時は続く言葉に聞く価値がないことを怜那は知っている。
「んで、答えはここに隠すと」
「バカじゃないの」
胸の谷間を指さしたハルオミはいともたやすく斬って捨てた。

++誰にも渡さない
神機は元々の持ち主が手放した後に別の人間に適合することもあると言う。
「もしロミオの神機が誰か別の奴に適合したって言われたらどうするよ、レイ」
「ハルさんならどうするか考えなさいよ。多分同じ答えよ」
怜那の答えにハルオミは笑みを浮かべる。
そして、二人の答えが重なった。
「誰にも渡さない」

++ないしょばなし
時折ハルオミと怜那が何か話している姿がよく見られるようになったのはいつの頃からだっただろう。
「で、結局ハルさんはレイと何の話してるんすか」
不思議そうなギルバートには意味ありげに笑みを向ける。
「そりゃアレだ……大人同士の内緒話、だよ」
ギルバートの表情に呆れが浮かんだのは気のせいか。

++やさしいフリで
押し潰されそうな苦しみから逃げたくなる時にはハルオミが近くにいてくれた。
「ハルさんってなんだかんだ優しいわよね」
「さぁな。優しいフリしてるだけかもしれないぜ?」
冗談めかした言葉と共にハルオミの手が怜那の肌に触れる。
たとえ振りだとしても怜那が救われたのは事実なのだから構いはしない。

++24時を過ぎたら
ハルオミの部屋のソファに腰掛けたまま怜那はグラスを傾けている。
ハルオミもグラスを口につけながら何かを考えるように視線を上に向け……悪戯っぽく微笑む。
「24時までに帰れよ、過ぎたらこの部屋に狼が出るぞ」
怜那はちらりと時計に視線を送るが動く気配はない。……24時になるまで、あと3分。

++知りたくない
ニーハイだの低露出だの生脚だの胸だのとハルオミのムーブメントには随分振り回されたように思う……それを何より如実に示す、クローゼットの中の服の数々。
「ところでレイ、今の俺のムーブメントは……」
「知りたくないわ」
下手に聞いてこれ以上クローゼットに服を増やされてはたまったものではない。

++さよならの手前
「好きな奴が出来たらすぐ言えよ、俺はいつでも身を引いてやるから」
「あら、それはあたしの台詞よ」
深い仲になってから、こんなやり取りを何度繰り返しただろう。
さよならの手前で、別の恋に進むこともそこにある感情を愛にすることもせずにハルオミと怜那は互いの傷を舐め合うことしか出来なかった。

++何度でも伝えよう
「例えどんなに言葉を尽くしても伝え足りないんだって、近くにいなくなってから分かった気がするわ」
何かを思い出すように呟く怜那に、ハルオミは微かに頷く。
「今度誰かを愛した時にはその想いを何度でも伝えようって、思っちゃいるんだけどな」
過去に縛られた2人にそんな相手はいつ見つかるだろう。

++想いをカタチにして
目の前から消えてしまった人への想い。ただでさえ目に見えないのに更に曖昧になってしまう……
「その想いを形にするための一つの方法がこれ、ってわけだ」
これ、と指さしたハルオミの胸のロケットと同じものが怜那の掌に載せられる。
同じことで立ち止まっているからこその贈り物をしっかり握りしめた。

--2014.06.12追加分--

++真夜中の秘密
抱きしめられると胸の奥で燻っているほの昏い感情がほんの少し姿を消す気がする。
「無理すんなよ」
囁かれたハルオミの言葉が何に対してのものなのか、考えたくはなかった。
そのまま怜那は手を伸ばし、ベッドサイドに置いたロミオの写真を伏せる。
この先の出来事は誰にも知られてはいけない秘密だから。

++理由なんてないけど
「ハルさん、料理作りすぎちゃったんだけど食べてくれない?」
怜那から差し出された皿を受け取って、ハルオミは首を傾げる。
「けどなんで俺に?」
「理由なんてないわよ」
あるとすれば、ハルオミの存在に救われている気がするからその礼がわり。
なんて、口にしなくてもハルオミは気づいているのだろう。

++つくられた笑顔
神機兵運用実験から2週間。
ブラッドの面々も、その中心にいる怜那もやっと明るい表情を見せる様になっていた。
「……無理してんじゃない、ってんだ」
ラウンジの片隅の壁に凭れたままハルオミは小声で呟く。
怜那の笑顔が作られたものだと気づいてしまった――3年前の自分の表情にとても似ていたから。

++きらいになれない
「これ何よ」
「最近の俺のムーブメント……網タイツだ」
真顔のハルオミと目の前に置かれた網タイツ、交互に呆れたような目を向ける。
「穿かないわよ」
ニーハイだの低露出だの生脚だの、散々ハルオミの趣味に付き合わされて来た。寧ろここまで呆れているのにハルオミを嫌いになれないのが不思議な位だ。

++いつもと違う表情
彼女が自分を求める時は大概、逃れられない苦しみに押し潰されそうになっている時。
だから初めは辛そうな表情で、やがて余裕を失って、ハルオミですらドキッとする程艶めいた表情を浮かべる。
怜那が本当に想っている人には見せたことのない顔を知っていることにハルオミは僅かに罪悪感を抱いてもいた。

++立ち止まった場所には
進むことができなくなっていたハルオミが立ち止まった場所に、同じように立ち止まっている怜那がいた。
彼女が歩き出せるようにエスコートしているのは自分だと思っていたのに……
「辛いんなら言いなさいよ、あたしだけ甘えっぱなしなんて癪だもの」
気丈に笑う彼女が自分の手を引いてくれることもある。

++意地っ張り
「泣きたいときは泣けばいいんだぜ」
「泣きたいわけじゃないわ」
ハルオミに心の中を見透かされたような気がして怜那は目を逸らす。
自分を苛むのと同じ苦しみをずっと抱え続けてきたハルオミが誤魔化されるわけがないのに。
「この意地っ張り」
揶揄うように頬に触れた手を振り払うことしかできなかった。

++交わした約束
自分がこの場にいるのは珍しいことだろう。
そう思いながら、ハルオミは花に埋もれそうな墓石に手を合わせる。
「幸せにしてやることはできないけど……せめて、お前の代わりにレイを不幸から守るって約束するよ」
きっとそれが心残りだったのだろうから。
この約束だけは守るとハルオミは心に誓っていた。

++もう一度言って
「大丈夫だよ、レイには幸せになる権利がある」
怜那に伝えているようで、その実自分に言い聞かせている。
その言葉を怜那がどう受け止めたのか……視線をやると、怜那は真剣な表情でハルオミを見つめていた。
「今の、もう1回言って」
穏やかな笑顔は怜那が裏の意味にも気づいていることを物語っている。

++君だけを愛す
どれだけ一緒にいて、どれだけ夜を共に過ごしてもそこにある感情は愛とは違う。
ハルオミにも怜那にも、ただ一人だけ愛する人がいる。
だからこそ愛を与えない代わりに求めないから側にいられる、歪んだ想いの形。
「愛してるよ」
「あたしも愛してるわ」
その言葉が向かうのは、目の前にいる相手ではない。

--2014.04.28追加分--

++図書館の猫
「なんでこんな狭いとこに!」
黎明の亡都、かつては図書館であった場所に鳴り響く雷鳴。
「文句言ってる暇あったらさっさと片付けようぜ」
ヴァジュラにバスターブレードを叩きつける、そのハルオミの余裕が余計に怜那を苛立たせる。
その苛立ちはきっと、ハルオミほど大人になれない自分に向かっている。

++甘えた声で
肌を合わせるのは寂しさを埋め合う為だけで、情はあっても愛はない。分かり切っている。
「もっと甘えた声出してもいいんだぜ」
冗談交じりに耳許で囁いた言葉に怜那が首を横に振ることだって分かっている。
心は違う場所を向いたまま……それでも怜那の腕はしっかりとハルオミの背中に回されているまま。

++幸せにはできないけれど
「俺はお前を幸せにはしてやれないと思う」
グラスを傾けながらぽつりと呟いたハルオミに視線を向ける。
「奇遇ね、あたしもハルさんに幸せにしてほしいなんて思ってないわ」
「ただ、レイの悲しみを和らげてはやりたいって思ってる」
真剣なハルオミの瞳に、怜那は一言だけ返した。
「奇遇ね、あたしもよ」

++最後のキスを覚えてる
ハルオミがキスをしようとしても、怜那はいつも顔を背けて嫌がる。
「ほんとに好きな奴としかキスはできない、ってか?」
「……違うわよ。でも、嫌なの」
誰かと唇を重ねてしまったら。たった一度だけ重ねたロミオの唇のぬくもりを忘れてしまいそうで。ずっと覚えていたいから、なんて言えるわけがない。

++空腹に効くクスリってありますか
「任務に時間がかかると腹も減るだろ。ほれ、レーション」
ハルオミに差し出されたレーションの封を切りながら、怜那はぽつりと呟く。
「お腹が空けばレーションでも食べればいいわ。でも、心の空腹に効く薬ってあるのかしら」
数瞬の沈黙、そして……呟かれた答え。
「俺が持ってるのは人の温もり位だな」

++ずっと前から
隊長会議の資料を持ってハルオミの部屋を訪ねると、酒に酔っているらしいハルオミはテーブルに突っ伏して眠っていた。
グラスの傍らには写真立ての中で微笑む女性の姿。
「ハルさんはずっと前からこの孤独を抱えて来たのね」
そこに自分の胸でくすぶり続けるものと同じ感情を感じ取って怜那は目を伏せた。

++だいじなもの
「ほら」
ハルオミの掌にあったのは、その首に提げられたのと色違いのロケット。
「え、ハルさん何これ」
「前言ってただろ。同じのやるよって」
自分の手に乗せられたロケットをゆっくり開くとそこにあったのは……ロミオの笑顔。
「……ハルさん」
「大事にしろよ」
ハルオミの笑顔に、怜那はただ頷くだけ。

++同族嫌悪
「なんであたしに構ってくれるの?」
差し向かいでグラスを傾けている怜那から向けられる視線と言葉。
「ま、お前スタイルいいし」
茶化すように言葉を返すが、本当は……怜那がかつての自分に重なって見ていられなかったから。
行き過ぎた同族嫌悪が自己憐憫にすり替わっているとハルオミは気づいている。

--2014.04.07追加分--

++それだけは言わないで

そこにあるのは愛じゃない。
ただ淋しさを埋め傷を舐め合うためだけにそばにいる。
それはハルオミだって怜那だって分かっている、だけど。
「俺がお前を愛してやれたらよかったのにな」
「それだけは言わないで」
愛を与えられないのはお互い様。罪の意識を感じられてしまったら……怜那まで、苦しくなる。

++くるしいけどまたね
「また会える。だから悲しむ必要なんてない……そう思い込めるようになるまでは時間がかかったよ」
ロケットに触れてハルオミが呟く。
「何度も繰り返したよ、またなって」
「……それで苦しくなくなる?」
「……言うことすら苦しいよ、正直」
誤魔化すように寄り添っても互いの胸にある苦しみは消えない。

++あと一歩
悲しんでいることなんて誰にも悟られないハルオミの姿が怜那には眩しかった。
境遇は自分と同じはずなのに前向きなハルオミが羨ましかった。
「どうすればハルさんみたいに前向きに考えられるのかしら」
「そりゃ3年かけたら一歩くらいは進むさ」
あと一歩3年かけて踏み出せるか……怜那には自信がない。

++大人になって、それからどうするの
「大人にならなきゃ仕方ないだろ。駄々こねたって帰ってくるわけじゃあるまいし」
言葉とは裏腹に悲しそうなハルオミの瞳はまるで鏡の中の自分のようで……
「大人になったら救われるの?今のハルさん見てそうは思えない」
「ああ……そう、なんだよ」
絞り出すように呟いた声が怜那の胸を締め付けていた。

++この声のゆくえ
「……行かないで」
隣で眠る怜那の呟いた言葉がハルオミの意識を引いた。
夢うつつに怜那が呼び止めているのが誰なのか分からない筈はない。
「ここで呼んだって届かないんだぜ」
届かない遠い存在。届いて欲しい所に届かない声……
「俺達の声は何処になら届くんだろうな」
その声もまた何処にも届かない。

++あふれた涙
そんなつもりはなかったのにロミオの思い出話を続けているうちに怜那から溢れていたのは言葉ではなく涙。
「え、やだ、なんで……」
戸惑いながらも止まらない怜那の涙をハルオミの指がそっと拭う。
「大丈夫だと思ってても案外そうじゃないってことだ」
俺にも覚えがある、と続いたのは気のせいじゃない。

++もうそばに居られない
ハルオミが今でも想い続けている人はただひとりで、それは自分も同じ。
愛されないことに何も感じないし自分だって愛していない。
「それがほんとに正しいのかわかんないけどな、俺には」
「あたしだって分からないわ。でも」
どちらかの感情が変化してしまえばもう、ハルオミの側にはいられないんだろう。

++寝顔を見てる間に
共に夜を過ごす時眠る怜那が時々魘されていることにハルオミは気づいている……今日もまた、悲しそうに歪む寝顔にそっと触れた。
「お前なら乗り越えられるさ」
身体を重ねても唇を重ねることは嫌がる怜那にそっとキスをする。
この感情は愛ではない、だが怜那には幸せになって欲しいと言う願いを込めて。

--2014.03.27追加分--

++無自覚ヒーロー
「随分魘されてたな」
ハルオミの指が燃えるように紅い髪に絡みつく。
「気のせいよ」
「分かるんだよ、俺には」
軽い口調に似つかわしくない説得力の源は、きっと。
「……だから、俺にはその重荷を分けてくれていい」
ハルオミのその言葉がヒーローの口上のように聞こえたのは、怜那の気のせいだったのか。

++黙って泣きやがれ
事実を知った時には取り乱して泣き叫んでいたと言う話はギルバートから聞いたが……その後は涙すら見せる気配のない怜那が、ハルオミには酷く哀れに見えてならなかった。
だから、だろう。ラウンジでぼんやりしている怜那に、当たり前のように言葉を投げかけていた。
「無理せず黙って泣いていいんだぞ」

++一緒に帰ろう
エレベーターを降りたところにいたハルオミの姿に怜那は目を見開く。
「迎えに来てくれたの?」
「落ち込んでたら慰めてやろうかなと思って」
「あ、ハルさんは落ち込むタイプなんだ」
「その切り返しはないだろ」
苦笑いを浮かべたハルオミと共に、残した未練に背を向けて怜那は帰って行く。彼女の戦場へ。

++あの日から遠い僕ら
このところ怜那はよく笑うようになったとハルオミは思う。
ギルバートから聞いた話では、「あの日」の怜那はとても見ていられるようなものではなかったというのに。
「あの日」から離れていくように見えて……ハルオミはひとり首を横に振る。
きっと怜那は簡単に遠くには行けない。自分がそうだったから。

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