Dream | ナノ

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ColdStar

Foundation

「ブレンダンとカノンが行方不明?」

相変わらずリンドウさんが見つかる気配すらない中、任務を受けようとエントランスに向かうとなんだか騒がしく――騒ぎの理由を問いただしてみると、言いづらそうにアネットからそんなことを告げられたのだった。

「見たこともないアラガミが現れて……先輩たちは、助けを呼びにいけって私を先に逃がして……藍音先輩、私……どうしたら」
「どうしたらいい、か。とりあえずは……落ち着け」

余程慌てて戻ってきたのだろう、エントランスまで神機を持ったままやってきていたアネットの表情を彩るのは落胆、焦り、困惑。
そんなネガティブな感情を全てごちゃ混ぜにしたような表情のまま縋るように私を見るアネットにかけられる言葉なんて……正直、そんなに多いわけじゃない。

「考えるべきは『どうしたらいいか』じゃない。アネットは『どうしたい』んだ?」
「私……私は、先輩たちを探しに行きたいと思ってます。でも、私ひとりで本当に見つけ出せるのか……」

おろおろとした挙動は変わることのないままのアネットに私はひとつ頷いてみせた。
入隊して間もないアネットがそんな不安を抱えるのは無理のないところだろう。アラガミに追われ仲間が行方不明、その上自分は行方不明になった仲間を残して生還している。だがそれでも、はっきりと行方不明になった2人を探したいと言い切ったアネットがほんの僅か、頼もしいと思えたりもした。新入りだとばかり思っていたけれどいつの間にか成長していた彼女の姿が、微かに……リンドウさんがMIAになった後、がむしゃらに突っ走っていた自分の姿と重なったりもして。
今のアナグラはリンドウさん捜索のことで手一杯で、アネットの小さな決意になど気付けない者だっているかもしれない。だが。

「アネットが本当に見つけに行きたいと言うんなら、ひとりで行く必要なんてどこにもないだろう。幸い、今日は通常任務も落ち着いているからそれなら私が同行する」
「え……でも」
「防衛班には常日頃から世話になっているんだ、そのくらいのことはさせてくれないか」

躊躇うアネットに、こちらから懇願するように伝えてやると……先輩と言う立場をごり押したつもりはなかったが流石にアネットには断ることは出来ないのだろう、本当に申し訳なさそうな表情を浮かべながらもこくりと頷いた。

「その、ほんとうに……ごめんなさい、藍音先輩にまで迷惑をかけて」
「迷惑だなんて思っていない。とにかく、のんびり話している暇はない……行くぞ」

踵を返して歩き出した私を追ってくるのは、神機を持ったままであるがゆえに女性のそれとしては随分と重く感じられるアネットの足音。
すぐにエレベーターに乗り込むと、それ以上は言葉にしないまま私も自分の神機を手にしてアナグラを出る。
ブレンダンの戦闘能力の高さも、誤射が多いとは言えカノンの衛生兵としての実力も私は知っている。上手くアラガミから逃れることが出来れば取り返しのつかない事態に陥ることはまずないだろうが……それでも、悠長にしていられる状況ではないのは確かなのだ。

***

アネットが行方不明の2人とはぐれたという地下鉄跡に向かいはしたものの、結局そこで2人を見つけることはできず――アナグラへと戻る軍用車の車中で、私の隣に座ったままのアネットは唇を噛んでじっと俯いていた。

「そんな顔をするんじゃない」
「でも……もしお2人に私のせいで何かあったら、私……」

目じりのできらりと何かが光ったのはきっと私の見間違いではないだろう。それを目にした瞬間に、私は何を迷うこともなく口を開いていた……久しぶりに考える。思ったことをすぐに口に出してしまうから私はコウタに「なんとなく偉そう」なんて言われてしまうんだろうな、と。

「ブレンダンとカノンは『助けを呼びに行け』と言ったんだろう?あんたは自分のなすべきことをしただけだ。今ブレンダンとカノンの行方が分からないのはアネットのせいじゃない」
「……でも」
「逆に考えろ。あんたがそうやって思い悩んでいたら何のためにブレンダンとカノンが危険を冒してまであんたをアナグラまで戻らせたのか分からなくなる。違うか」

反論しかけた言葉を封じて言葉を繋いでいくと、アネットは再び黙り込んでしまった。
自分で言っていて思う、私の言っていることは正論ではあるけれどそれは時々言葉の暴力なんじゃないか、なんて。反省していても口をついて出てきてしまう辺り、浅慮で直情的だと言われるのも無理のないことだろう。

「……藍音先輩は」
「私がどうかしたか」
「強いですね……私より、ずっと」
「強い、か」

強い、と言う言葉は確かに何度も投げかけられてきた。色んな人から、色んな意味を込めて。
その言葉の裏にアネットがどんな意図を秘めていたのか、そこまではその時の私には与り知ることは出来なかった。だが――

「私だって最初から強かったわけじゃない」

この言い方だとまるで私が自分自身で自分の強さを認めてしまっているようでそれはそれで恥ずかしくはあったけれど……それでも、神機使いになった頃に比べれば多少は強くなっているのは決して間違ってはいない。
自分にそう言い聞かせる私の横顔に注がれているアネットの視線には当然気付いている。だがそれを敢えて気にしない振りをして、私は更に口を開いた。

「私がやってきたことなんて何が正しくて何が間違っているのか分からないことだらけだ。過去も、今も。きっとこれからも」

自分を押し殺して命令に唯々諾々と従っているだけの自分。
諦めたくないと言いながらリンドウさんを介錯できるのかとそんなことで思い悩んでいる自分。
リンドウさんの一件だけじゃない。シオのことだってそう、自分の選んだ道が正しいのかどうかすら分からないまま、ただいつだって思うがままに進んでいくだけの身勝手な自分――
その行動の全てが正しいのかと聞かれたら私は胸を張って全て正しかったと答えることは出来ない。だが。

「正しいかどうかすら分からなくても、私は自分のやるべきことを見つけ出してがむしゃらに走ってきた……私が強いというのなら、その強さはそうやってがむしゃらに走ってきた中で身についたものだ」
「藍音先輩……」
「みっともなくても情けなくても、自分にできること、自分のなすべきことをする――それが強さになると私は信じている。だから余計なことは考えるな」

はい、と短く聞こえた返事はどこか弱々しく、それでもはっきりと狭い車の中に響いていた。
その言葉に頷いてやってから、私は視線だけを窓の外に移す。流れていく景色は見慣れたもので、アナグラにもうすぐたどり着くことをはっきりと私たちに教えていた。
残された時間に私がアネットに言ってやれることなんて然程ないだろう。だが、それでも……少しずつ前を向き始めたアネットの背中を押してやることくらいは私にだって出来る気がしていた。

「今のアネットにできること、今のアネットが為すべきこと。それはそうやって落ち込むことじゃない、だろう?」
「そう、ですよね……はい、そうです」
「分かったならいい。……一度アナグラに戻って、状況を見てから他に心当たりがあるならそこも探しに行くぞ」
「……はい!」

迷いなく頷いたアネットを確かめてからアナグラへと足を踏み入れる。
――アネットに投げかけたこの言葉が正しかったのかどうかすらも、私には分からない。
分かっているのはただ――あれこれと事件が起こっている今のアナグラで、私たちに躊躇ったり迷ったりしている暇なんてどこにもないのだと言うその事実だけだった。

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