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隠れた桃色days




「キミは本当に裁縫が下手だなあ!」
「仕方なかと!? あたしはあんま器用やないもん!」
「威張ることじゃないって……あーもう、そうじゃないよ。そこに針を刺したら線がよれよれになっちゃうじゃないか! ちょっと貸して」
「んなっ、余計なお世話ったい! 自分でするからよか!」
「痛っ……何すんだよ! 危ないだろ!?」
「あたしがやるから構わんで!」
「あああもう!! お前らっ! いちいちイチャイチャすんな!」

 少年少女の言い合いをずっと傍で聞かされていたエメラルドは、遂に最早お決まりとなった台詞を叫んだ。だがそれくらいで終わる二人ではない。

「イっいちゃいちゃなんかしてなかっ! こん人がしつこいけん離れようとしとっただけで……」

 そう言うサファイアは顔を真っ赤に染めながらも、ちらちらと藍色の瞳を隣の少年に向けている。その隣の少年ことルビーは紅色の瞳で真っ直ぐ少女を見てしかめ面をした。

「キミが危なっかしい縫い方するのがいけないんじゃないか。ボクはキミが怪我をしたらいけないと思ってさっきから色々言ってるだけなのに」
「……お節介」

 サファイアは毒づいてルビーから顔を背けたが、彼女の真正面にいるエメラルドはその顔が心持ち嬉しそうなのを見てうんざりとした。

 全く、このバカップルの堂々としたいちゃつきぶりには本当に頭が痛くなる。傍で見ていてこちらは恥ずかしいことこの上ないのに、当の本人達は全く気にしていないのだ。頭が痛いのを通り越して頭が下がる。しかもこれで付き合っていないと言うのだから、たまったもんじゃない。

 もういっそさっさと付き合え。そうじゃなかったら結婚しろそしていちゃつくのは家の中だけにしてくれ。とりあえず二人まとめて家の中にでも放り込めば案外静かになるんじゃないだろうか。

 エメラルドはそこまで考えて、このバカップルのことしか考えていなかったここ数分の自分に気付いてまたうんざりした。

 もう嫌だ。大分こいつらに毒されている。それもこれもこいつらが周りの目をはばからずにいちゃついてるからだ。エメラルドは溜め息を吐いて二人に言った。

「あのさぁ……人前でいちゃつくのもーちょい何とかなんないの? 又はもーちょっといちゃつくにしても騒がないで落ち着いてやってくんない? 見てるこっちが疲れるから」

 ちょうどその時、エメラルドの視界の端にある人々が目に入った。

「そう……例えばあの二人みたいに」

 エメラルドが指さした方向にいたのは、彼らの先輩であるグリーンとブルーだった。少し離れた所にあるベンチに腰掛けて何やら談笑している。

 茶髪の美男美女カップルを凝視する二人にエメラルドは腕組みをして言う。

「ほら見ろよあの落ち着きっぷり! お前らとは大違いだろ? 周囲の目を思いっきり引くようなことは全然してないじゃん。あれ見習ってくれよ。もーちょい大人になれよ」
「ま、まずあたしら付き合っとるわけやないし――」
「そこはもういい蒸し返すな。いい加減付き合ってることにしろ」

 サファイアは数回口をパクパクさせた後、俯いてもとから少し赤かった顔を更に赤くさせた。

 一方のルビーは、少女とは異なる落ち着いた様子で先輩カップルを見つめたまま口を開く。

「ねぇエメラルド」
「何だよ」
「ボクらがカップルだとかその辺諸々はいったん置いといて一つ言いたいんだけど……」

 ルビーは目をベンチの方から外すと、首を振った。

「お二人の会話、よーく聞いてみなよ」

 エメラルドはよく分からないまでも耳を澄ましてみる。先輩二人の会話はすぐに聞こえてきた。

「貴方は嫌いな食べ物とかないから、本当に助かるわ」

 ブルーの聞き取りやすい声が溌剌と続ける。

「シルバーは意外と好き嫌いが多くて、食べさせるのに苦労したのよ」
「そう言うお前もあまり好き嫌いないよな」

 低いグリーンの声に、ブルーが軽く肩を竦めるのが見えた。

「昔は鶏肉が本っ当に駄目で食べたら吐き出すくらい嫌いだったけど……どうにか克服したわ。今でもちょっと苦手だけど」

 そこで、ブルーが身を乗り出すのが見えた。女性らしい声が大きめになる。

「で!? 今日のお弁当は如何でしょうか!?」
「玉子焼きの味はちょうど良いが生姜焼きが少ししょっぱい。あとはまあまあだな」

 グリーンは淡々と言って箸を置いた。よく見てみるとその膝の上には青い弁当箱がある。ブルーの体の陰になっていて気付かなかったが、どうやら昼食の最中だったようだ。

「よって、総合評価六十五点」
「はぁ……相変わらず手厳しいわね」
「普通に評価したらお前の料理の腕が進歩しないだろう」

 がっくりと肩を落とすブルー。グリーンは弁当箱をてきぱきと片付けると、綺麗にランチマットで包んでブルーに返した。弁当箱を受け取った彼女は不満げに言う。

「それにしたって厳しいわよ。もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃない」
「お前の料理スキルのためだ、仕方ないだろう。それにな」

 現に、最初に比べたら随分上達してきてるぞ。そうグリーンが言った途端、ブルーの周りの空気がぱっと華やいだのを感じた。

「ホント!?」
「ああ」

 グリーンは素っ気なく頷くと立ち上がった。つられてブルーが立ち上がり、その滑らかな茶髪の上に男の手が置かれる。

「……美味かった。また作ってこい」

 グリーンはブルーの顔を見つめて言うと、背を向けて歩き出した。ブルーは呆気に取られたように立ち尽くしていたが、やがて小さくガッツポーズをして彼の後を小走りで追いかける。その後ろ姿には、幸せそうな空気がふわふわと漂っていた。

「……ちゃんと聞こえた?」

 去っていく二人の姿を見ながらルビーが訊ねて、エメラルドは黙って頷いた。そして紅色の少年は彼の後ろでまだ赤い顔のまま縫いかけのルリリドールを抱えている少女をちらりと見やってから視線をエメラルドにやる。

「どう思った?」
「……いや……」
「ボクは下手するとボクらより恥ずかしいいちゃつきぶりなんじゃないかって気がしたけど」

 実はオレもそう感じた、とは言えないエメラルドだった。








隠れた桃色days
(ボクらがああなったら、キミどうするのさ?)
(……ツッコみづらそうだからやめてくれ)



云々様から頂きました!

何だろう、紅藍はバカップルめ!とツッコミたくなるのに緑青はならないぞ?
偏った愛の所為か?
何はともあれ云々様、有難うございました!
これからも宜しくお願いします。







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