アスファルトと君の熱
「お祭に行きたい」
珍しく下手に出て拝み倒す彼女の願いを流石に突っぱねる事も出来ず頷いたのが昨日の午後。 お陰で今日の分の仕事もこなす羽目になり、結果睡眠時間を削ることになった。 生活リズムを狂わされて少々不機嫌な体を叱咤して約束の場所へと向かう。
祭り会場付近では見つけにくいからと待ち合わせは少し離れた場所。 それでも遠くから賑やかな声や愉しげな祭囃子が聞こえる。 彼女を待っている間にも祭りにいくのであろうカップルや親子連れが何組も目の前を通り過ぎていった。 しかし、時間になってもブルーは姿を現さない。 普段から女は準備に時間がかかるのよ!なんて言っているが、それでも彼女が時間に遅れることは少なかった。 もしかして途中で何かあったのか。 事故か事件か、そんな事を考え出したら思考はどんどん悪い方へ転がっていく。 取り敢えず連絡を、とポケギアを取り出した時、背後から名前を呼ばれた。
「ごめん、遅くなって」 「…約束の時間はとっくに、」
過ぎてるぞ、と続く筈の言葉は途中で途切れた。 振り返った視線の先に居たのは、白に包まれた彼女の姿。 ブルーが足を踏み出す度にカランと涼しげな音が鳴り、裾では朱色の金魚が跳ねた。 何時もは流している茶色の髪も今は綺麗に纏め上げられ、簪がしゃらりと揺れている。 柄じゃないが、見惚れてしまった。
「…やっぱ、変?」
沈黙を違う意味で受け取ってしまったらしい彼女は黒にするべきだったかしら、と呟く。 くしゃり、と袖を握り締める手が小さく、小さく震えているのを見てオレは思わず彼女の手をとった。 突然の行動にブルーは目をぱちくりさせている。何よりオレ自身自分の行動に驚いていた。
「グリーン?」 「…白、も似合、う」
苦し紛れに捻り出した褒め言葉だったが、それでも彼女が嬉しそうにはにかむものだから言ったこっちが恥ずかしくなってしまって足元に視線を落とした。
アスファルトと君の熱
はぐれると面倒だから、なんて適当な理由をつけて手は繋いだままにしておいた。
タイトル:THREE WISHES
朔月様リクエスト。 有難うございました!
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