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言葉<行動




「何で目の前に居るのがレッドなのかしら…」

そう言ってブルーははぁ、と溜息を吐く。
人の顔を見てそういう態度をとるのは如何なものかと思う。しかしその言葉の裏に隠された彼女の気持ちを多少なりと理解していたので文句は言えなかった。

本来彼女の隣にいる筈の彼は現在留守である。出張だか視察だか知らないがジム関連の仕事だと聞いた…ような気がする。
以前から偶に似たような感じでカントーとジョウトの間を飛び回る事はあったが、今回は少し勝手が違った。

「流石にホウエンまでついてく訳にもいかないもんなぁ」

そう言ってオレが笑うと、青い瞳にじろりと睨まれた。

「最初はついてくつもりだったわよ。そしたらアイツ何て言ったと思う!?『邪魔だから来るな』って!」

それが可愛い彼女に言う台詞!?とブルーは怒っていたが、普段のブルーの行動を知っている身としては彼女の怒りに同意出来なかった。
しかし日頃の行いが悪いから、とも言えないので黙っておく。

「…グリーンは本当にあたしのこと好きなのかしら」

急に声のトーンが落ち、そんな呟きが耳に入った。気になってそちら方を向くとブルーは今にも泣きそうな顔をしている。
情けない事にオレはこの場に居ない彼の様に彼女を上手く扱えない。お蔭で幼稚なオレの思考は完全に混乱してしまった。

「え、ちょ、待って泣かないで!」
「泣いてない!」

いや、顔伏せて声震わせながら言われても全く説得力無いし。

泣くな、泣いてない。
いや泣いてるじゃん、泣いてないって言ってるでしょ!

暫くそんな押し問答を繰り返していると、遠くに羽ばたく音が聞こえた。揃って空を見上げると見覚えのあるシルエットが一羽、滑る様に近付いてくる。
それは目の前に降り立つと、オレ達の顔を見た。

「貴方、グリーンのピジョット?」

ブルーの問い掛けに彼は答える様に一声鳴くと、ぐいと脚を突き出した。其処には小さめの箱。
取ろうとするが、彼はバタバタと羽を広げて嫌がる。反対にブルーが近付くと大人しく荷物が解かれるのを待っていた。
嗚呼、成程。

「ブルー宛てって事か」

箱の中には何日には戻る、といった内容の手紙(と言うよりメモに近い)と一つのモンスターボール。ブルーが首を傾げながらそれを放ると、中からはハート形の魚が現れた。

「初めて見るポケモンね…」
「ホウエンにしか居ないヤツかもな」

魚と戯れる彼女を余所に図鑑を開く。電子画面に表示された説明文を見て一瞬驚いた後、思わず口許が緩んだ。

「何笑ってるのよ」
「いや、思った以上にグリーンはブルーの事好きなんだなぁと思って」

頭上に疑問符を浮かべているブルーに図鑑を見せると、顔を赤くしていた。それでも其処には先程の影は見えず、取り敢えず一安心。
真っ青に透き通った空を眺めて平和だなぁ、と思わずにはいられなかった、或る日の午後だった。



あおじそ様リクエスト。




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