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「なんでー入ろうよーすげー綺麗だったじゃん」

「………」


フロントへ行き鍵を渡すと、コンシェルジュに出迎えられホテルを出る。

肌寒い。
太陽も沈み先ほどよりさらに寒く感じられる。

「だって…露天風呂…とか…」

ホテルを出てすぐ右へ曲がり横断歩道を渡ろうとしたら赤になった。
はぁ、とため息を付きながら足を止める。

「……もしかして、なんかエロい事考えてる?」

「っ…!!」


ボッっと、有志の顔が一気に赤く染まった。
智希の顔が見れないのかポケットに手をつっこみ視線を地面に泳がせてしまう。

「やーらーしー」

「ちがっ!だっ、ちっ、違わない、けっど…!絶対なんかするだろ!」

「しないかもしれないじゃん」

「今日ホテル付いてすぐナンカしただろ!」

「でも意識しちゃうってことは、ちょっとは期待してんじゃないの?」

「してない!」

「あ、青」

「〜〜〜〜…」


信号が青になりスタスタと歩いていく智希を後ろから唸りながら睨む。
智希はその視線に気づいていたのか横断歩道の半分程でクルリと回転し有志に軽く微笑んだ。

「ほら、早く。赤になるよ」


差し出される左手。
まだ幼さの残る優しい笑顔。

自分に向けられている、愛情。



「………」


無言で足早に近づいた。
差し出された左手に自分の右手を添えて温もりを確かめながら握りしめる。

息ができない程、苦しい。


「…絶対ナニもしないなら、いいよ」

「ナニって、何?」

「………」

「ねぇ、ナニって?」

「……知らん。さっさと行くぞ」

「くくっ」


男同士が楽しそうに手を繋ぎ横断歩道を渡る。
すれ違う人は一瞬目を見開きじっと二人を見つめたが、誰も眉をひそめたり嫌悪な表情を見せる者はいなかった。

二人がとても幸せそうに見えたから、かもしれない。









「おおー智希ー凄いなー」

「ライトアップいいね。昼間も見てみたいけど」

「うん。凄く綺麗」

流石観光名所だけあってか、周りはカップルや家族連れが多かった。
二人でぼーっと見上げ緩い時間が過ぎていく。

繋ぎ合った手のおかげか、寒いけど、暖かい。

「もうちょっと散策しよっか」

「そうだな」


デジカメに写真を収めつつゆっくり歩いて時計台を一週すると、ぐぅ、と腹の虫が有志の腹の中で鳴り響いた。

「智、お腹空いた」

「そだね俺も空いた。じゃあ行こうか」

「ん」


二人は穏やかに笑いながら時計台を後にする。
そんな二人を、にやけながら見つめる3人の若者がいた。


「やば、あれってホモじゃね? 」

「ほんとだー」

「きも」


地元のやんちゃな男の子たちのようだ。
高校生ぐらいだろうか。
ガムを噛みながら二人を影で野次りケラケラと笑う。

「後、つける?」

「からかう?」

「色々教えてもらう?」


ケラケラと腹を抱えて笑っていると、ふとその内の一人が二人を見失った事に気づいた。

「あ、どっか行っちゃった」

「ほんとだ」

「どうせ観光だろ。また見つけれるって」

「そだな」



沈みきった空は真っ暗で、少し淀んでいた。











「はぁー食べた食べたー」

「おいしかったな」

「ん」


ホテルから徒歩10分ほどの所にあるスープカレー屋に行き、満腹になるまでその味を堪能した。
帰りの道をゆっくり歩きながら空を見上げる。

「なんか曇ってない?」

「明日晴れるかな」

「俺晴れ男だから大丈夫」

「そういえば智希はいつも遠足や試合の日は晴れてたな」


ふと、思い出す。


「小さい智可愛かったなー」

「可愛いなんて嬉しくない」

「そ?みんなに自慢したかった」

「………」

「今じゃこんな大きくなって…」

「まだ伸びるよ」

「伸びなくていいよ」


クスっと苦笑いして、繋がれた手を見つめ頬に持っていく。
智希の手の甲を自分の頬に押しつけながら、スリスリと甘えるように何度も温もりを確かめた。



「これ以上大きくならないくていいよ。これ以上目立たなくていい」

「自慢しなくていいの?」

「自慢はしたいけど……なんていうか……。智のかっこよさと可愛さは俺だけが知ってたい」

「だーかーら、可愛くないって!ってか可愛いって言うな!」

「そ?智は十分可愛い」

「…っ……」

照れる智希。
それを見て満足そうに微笑む有志。




一生懸命背伸びして、大人になろうとしてる所とかね。
















「露天風呂の貸し切り、予約取れたよ」

「………」

「なんで睨むんだよ。入ってもいいって言ったじゃん」

「なんもしなかったらね」

「なんもってなに」

「………」


こんなやり取りをもう1時間はしている。

部屋に戻ると明日明後日の予定を確認し、浴衣に着替え有志はベッドの上をゴロゴロ、智希は椅子に座りフロントに電話をかけていた。



「何時から?」

「夜12時15分から45分まで。1時から風呂掃除始まるみたいだから、それまでには出てくれって」

「ん」


時計を見れば11時を回った所だった。

「じゃあテレビでも付けてちょっと時間つぶそうか」

「ん。有志はテレビ見てていいよ。俺は明日の準備しとく」

「よろしくー」


どっちが父親なのか。は、もう聞き飽きただろうか。

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