8



家についた。

まだ電気はついていない。
有志は帰っていないようだ。



ほっと安心し、急いで自転車を置き中に入る。

服を脱ぎ捨て風呂へ向かった。



12時か…タクシーで帰ってくるのかな…。



熱いシャワーで今日ついた汚れを全て洗い流し、バスタオルを軽く腰に巻きリビングに出た。



「ふー」



髪の毛を乾かしながら脱ぎ散らかした服を取り2階へ上がる。

電気も付けず服を乱暴にベッドの上へ投げ捨て、椅子にかけていた部屋着に着替えた。



数十秒もしないうちに部屋を出ると、腰に巻いていたバスタオルと携帯だけ持ってリビングへ向かう。



誰もいない、冷えたリビング。


暖房を付けながらソファーにどかっと座り、まだ濡れた髪の毛のままテレビをつける。




「………」




おもしろくない。

テレビの中の人物は笑っているけれど。



持ってきていたバスタオルで髪の毛を乱暴に拭き、鳴らない携帯を取ろうとした、その時。





『ピンポーン』



「?」




チャイム?


こんな時間に…。



まさか。





「はい」



インターフォンを取り返事をすると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。





『あ、智希くん?重里だけど』


「……まさか」


『…うん…ごめっ』


『とーもーかえったよー』





「………」




あんだけ飲みすぎるなって言ったのに…。



智希は怒りではなく呆れたため息を吐きながら玄関に向かった。




「……すいません、重里さん」


「いやいや構わなっ」


「ともっ!ただいま!」


「ちょっ」




扉を開けると、有志の部下重里に抱えられた有志がいた。

気分がいいのだろう、テンションがとても高い。
顔は赤く火照っていて、ニコニコ上機嫌だ。

しかも、重里がいる前で勢い良く抱き着いてきた。




「とーもーごめんなーおそくなってー。しげさとのバカがくだらんはなしいっぱいするからさー」


「くだらないとはなんですか!」


「はははっ」



なんか、やばい気がする。
悪いけど重里さん、早く帰って。



「すいませんいつも…今日もありがとうございました」


「いやいやー」



半ば強引に重里を帰らせようとしたが、有志がそれを拒んだ。



「しげさと!」


「はいはいなんですか」



智希に抱き着きながら上半身をクルリと回転させ、重里を呼び止める。





「これ、おれのともき」


「はいはい知ってますよ」


「父さん、重里さん困ってんだろ」


「しげさと!」


「わかってますって。とっても良く出来た素晴らしい息子さん…」


「ともは…おれの…おれのもの…」


「とっ……」






有志は智希の不意をついて、重里の前でキスをした。




「わー泉水さん!いくら酔ってるからって息子さんにナニをっ!」



重里さん声でけーよ!




智希は内心重里に怒鳴りながら、啄むようにキスをしてくる有志を無理矢理引き離す。



「…ともっ…なんでぇ」


「っ……重里さん、今日はほんとすみませんでした」


「あ、あぁ」





バタン、と重たく扉が閉められる。



すると微かに玄関先で崩れ落ちる音がした。



重里は有志が倒れたのだろう、そう思い待たせていたタクシーに乗り込んだ。














「っ…はっ…はっ智っ」


「っ…にしてんだよ…!あんな顔されたら我慢出来なくなるっての!」


有志を玄関先で押し倒し、熱く絡み合いながら深いキスをした。
冷め始めていた智希の体が、有志と同じく火照り始める。


「なっなん…なんでがまんすっ…するっ…いいっていつもっいってんだっろっ」


「ちょっ」


有志は半ばキレ気味でそう言うと、冷たい玄関の地面に肘をつきながらグイっと智希の後頭部を掴んだ。
そのまま引き寄せ食いつくようにキスをする。


「はっはんっ…んんっ…ともっ…ともきぃ」


「っ…父さん…」


酒の味と匂いが智希の体に駆け巡って行く。智希は眩暈がした。
まるで智希も酔ってしまったように。


絡み合う舌はどちらも熱く火傷しそうだ。

飲み込めなかった唾液が有志の口端から零れ、頬を伝いシャツについた。


「っ…スーツ、汚れるよ」


「んんっ…じゃ…ぬぐ」


「ここで??」


「ん」



有志は智希の胸に手をついて起き上がると、膝立ちになりスーツのボタンを一つずつ外し始めた。
あらかじめ緩められていたネクタイに指を通し器用に取ると、ここは玄関、だというのに有志は本当に服を脱いでいく。


「え、下も脱ぐの?」


「ん」



カチャカチャとベルトを外し、恥ずかしそうな素振りも全くせずズボンも脱ぎ始めた。

下着一枚だけになり、生地の上から自分のソレを掴み智希を見上げる。


「……ともの…なめていい?」


「……どうぞ」



ゴクリ。
智希の喉が鳴る。


智希を玄関の段差に座らせると、背中を曲げて下半身に顔を埋めた。
はぁ、と、有志の吐息は依然熱い。

「…とも…」


愛おしそうにズボンの上から智希のソレを軽く撫でると、ゆっくり手を入れまだ反応していないソレを取り出す。

ボクサーパンツ一枚という、なんとも情けない格好で、有志は息子のソレを舐め始めた。


「んんっ」


「っ…どうしたの…急に」


「んっんっ…ともの…すき」


「…そりゃどうも」



照れと困惑が混ざっておかしな返答になった。
しかし有志は智希のソレを、本当においしそうに口に含ませる。

ピチャピチャと唾液の音が響き、喉奥に押し付けると嗚咽交じりの吐息。
いつもは冷たい空気漂うだけの玄関だというのに、今この空間は卑猥で熱気が篭っている。


「っふっ…んんっ」


段々厚みを持ち始めた智希のソレを喉の最奥まで吸い込み、舌を使って丁寧に舐めていく。
喉の奥に当たりやや生理的な涙が流れたが、それでも有志は智希のソコを愛撫し続けた。



「っ…父さっ……寒くない?」


家の中とはいえ玄関だ。
智希は咥えられて熱くなり始めたが下着一枚の有志はとても寒そうだ。


しかし有志は咥えながら首を2〜3回振ると、智希のソレを掴み口から離して


「うっううん…あつい…よ。おれも…ともきの…ココも」


ニッコリ笑い、智希を見上げた。


「っ……」


「あっ…おっきく…なった……うれしい…なぁ」



本当に嬉しそうに。子供のように無邪気に。
また、智希のソレを口に含む。

智希は有志の頭を掴みやや苦しそうに喉を唸らせた。
薄っすら汗が滲む。



「…とっ…父さん…もう…出ちゃ…うよ……」


「きもひ…ひ?」


「ん…」


「おれ…うまひ?」


「うん…すげー…気持ちいい…」


「………おんなのこより?」


「……?女の子?」


え?と、指先に入れていた力を緩め有志を見下ろすと、有志は涙を流していた。
それは…生理的な涙?それとも?



「女の子って…」


「……ごめん…へただけど……ねんれいも…おじちゃん…だけど…」


「ちょ、父さん?」



智希の太ももに手をつき声を震わせている。




え、まじ泣き?!



思わず智希は有志の顔を掴みクイっと持ち上げた。



「…どした?」


「ともぉ」


潤んだ目、火照る頬、甘えた声。


智希はグラっと眩暈がした。



「なんで泣いっ」





「だれかの…もの…に…ならない…でっ…くれ…」





「………」




情けない。
30歳を超え、大きな息子がいる男の顔とセリフではない。


でも今の有志には、羞恥心や世間体など欠片もないわけで。




「おっ…おれ……ともきと…はなれたく…ないっ」


「父さっ…」



ぎゅ、っと。
泣き崩れながら智希に抱きついた。

それはきつく、痛いほどで。




「……いつ俺が父さんから離れるって言った?」


「…がっがんばるからっ…もっと若く…みられる…よう…努力…するっし……ええ…えっちも…もっと勉強して…うまくなるっ…からっ」


「とっ…」






「おれだけ好きになって…くれ…おねがい…」





「………」







それは、いつも智希が有志に対して思っていることだった。


いつも、智希は思っていた。


有志は流されただけなんじゃないか、と。


親子愛と勘違いしているんじゃないか、と。


毎週金曜の夜から土曜にかけてのあの行為は、本当はただの性処理の行為なんじゃないか、と。








自分が思っている感情と有志の感情は、違うものなんじゃないか、と。


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