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「電柱に女の子?さぁ。見なかったなー」
「じゃあ帰ったのかな…」
「どうした?」
「なんでもない」
帰ってきた有志をきつく抱きしめる智希。
何甘えているんだろう、可愛いな。と、抱きしめ返す有志。
「とりあえずスーツシワになるからな」
「う、うん」
有志はクスクス笑い自分よりも背の高い男の頭を撫でると、目尻を下げそっと口づけした。
まだ履いたままの靴を脱いで中に入り智希の腕を引く。
有志の後頭部を見つめながらはぁ、と大きく智希のため息が聞こえた。
新学期始まって2日でこれかよ…。
心労溜まりそう、と再び大きな溜め息をついたが、その後最愛の恋人に慰めてもらいその日はなんとか持ち堪えた。
「人数減ってんねー」
「せめて3日頑張って欲しいよね。2日しか練習してないのに無理ってどんだけ根性ないんだよ」
新学期が始まって3日目。今日も部活が始まった。
智希が着替え終わり体育館に行くと、佐倉と姫川がその現状に自嘲気味に笑っていた。
「何人辞めたの?」
「あ、泉水さんおはようございます」
「はざーす」
「ん」
リストバンドを着けながら二人に近寄ると、確かに初日より掃除している一年生が少ない。
それでもまだ、通年よりだいぶ多いのだが。
「6人ですね」
「6人も?」
「辞めた6人は全員未経験者っぽいですよ。まぁ、うち強いからなんとなく入ってみたんでしょうね」
佐倉が溜め息混じりでそう答える。
姫川もはぁ、と溜め息をつくと、何かに気づいたのだろう。あ、と大きな声をだした。
「どした姫川」
「あの、あそこの入り口にいる女マネの子。ほら、こっち見てる」
「?」
「?……え、あいつ…」
「やっぱ泉水さん知ってます?」
「なになに?どうしたの?」
智希の背筋が瞬時に凍った。
昨日、智希の家の近くにいた、あの、女の子だった。
「もしかして泉水さんち行きました?」
「え、ストーカー?」
「あぁ、来た。そんで告白されて断ったら友達にしてくださいって言われて、恋人がいやがるからって言ったら泣いた」
「うわー」
「うわー」
佐倉にもわかるように詳しく説明してやると、頷きながら聞いていた姫川がサーっと顔色を悪くさせている。
「実は俺、昨日聞いちゃって。あの女の子が一緒にマネの仕事してる子に、昨日泉水さんのあとつけちゃった、って…」
「うわー」
「まじかよ」
呆れた顔で顔を歪める佐倉。
嫌悪で顔を歪める智希。
「一緒にいた子が、それは冗談でしょーって笑ったら、その女の子は何も言わずふふって笑ってたから冗談だと思ってたんですけど…。あの子ずっと泉水さん見てるんですよ」
「あとつけるとかまじ最低じゃん」
「女こえー」
「その後被害はないです?」
「んー。無理矢理話ぶった切って帰っちゃったから、円満に断ったってわけじゃないんだよなー…」
「あの顔は諦めてないっしょ」
「………」
「一応誰か先生とかに相談しといたほうがいいんじゃないですか?」
「そこまでひ弱じゃないよ俺」
姫川の提案に少しむっとしながら答えると、姫川も言い過ぎたと思い頭を下げて謝った。
「でも何かあってからじゃ遅いから、なんか少しでも兆候あったら相談してくださいね」
「…わかった。サンキュー」
姫川と佐倉に礼を言うと、熱すぎる視線を感じながらアップにでかけた。
相談。
相談か…。
みんなほんと俺に対して過保護なんだよな…。
相談…。
ふと、思い浮かんだのは東條の顔だった。
「………明日の昼にでも行ってみるか」
まだもやもやしたものは取れないけど、とりあえず今は緊急事態ということで東條さんに相談しよう。
父さんに迷惑かけたくないしね。
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