それぞれのカミングアウト【メインキャラ4種類】

【佐倉×日夜】

ヒヨさんの部屋でダラダラと過ごす真冬の日曜日。
今日は部活がないから朝からずっと一緒にいる。

なんでも無い話をして、お互い担任の物真似して爆笑して、ご飯を食べて、触れるだけのキスをして。


「ほんまにどこも行かんでええの?せっかく丸一日休みやのに」

「うん。外じゃこんなに密着できないし、それに寒いしね。こうやってヒヨさん抱きしめてる方が暖かい」

「すっぽり納まるぐらいチビで悪かったな」

「チビなんて言ってないじゃん」

「だいたいな!俺はチビちゃうで!佐倉がでかいねんで!また身長伸びたんちゃうか!腹立つ!」

「だからチビって言ってないじゃん」



ケラケラと笑って、なだめて、また、触れるだけのキスをして。




ヒヨさんの部屋は結構広い。
あまり物はないけど、ベッドと、勉強机(勉強するの?!って驚いたら本気で怒られた)と、小説をたくさん読むらしく、壁4分の1を使った大きな本棚。
服や鞄は収納スペースに入れてるから目立っていない。
結構、几帳面。

あとはガランとしているヒヨさんの部屋。大好きな俺の部屋。匂いも落ち着くしね。

最近はよく遊びに来るようになった。
前も結構来てたけど、部活も違うし同じ高校ってだけの俺が頻繁に来たら流石に怪しまれるかな、って思ってた。

だけどヒヨさんはやっぱり男前だった。



『え、おとんとおかんに言うてるで』

『言ったの?!』

『あかんかった?』

『全然!全然!!むしろ嬉しい』

『ふ、ふーん』


照れて顔を真っ赤にするヒヨさんを力一杯抱きしめたのは先月。
ヒヨさんはご両親に俺と付き合ってるって言ってくれていたらしい。
しかも付き合うことになって3日後に…。

お父さんはそれを聞いてちょっと固まっていたらしいけど、流石ヒヨさんのお母さん、男前過ぎる返答をした。


『孫の顔見られへんやんー。もう一人作ろっかお父さん〜』


と、言ったらしい。

あのおかんならやりかねん、って言って震えていたヒヨさんが印象的だった。


俺もそれを聞いたその日の夜、離れて暮らす実家の母と姉に電話をし、それぞれに伝えた。

姉は爆笑した後、今度紹介してねと言って祝福(?)してくれた。




母は言葉を濁し、あまりいい返事をしてくれなかった。





数日後、たまたま部活が無い日が3日続いて、学校も3連休だしヒヨさんを実家に案内した。
姉は認めてくれているような態度で接してくれて、母は終始今まで見たことないような顔をしていた。



『一応家着いたら連絡してくださいね?』

『大丈夫や。1人でちゃんと帰れる』

駅のホームで、名残惜しくヒヨさんを見つめシュンと肩を下ろす。

本当は俺も今日帰る予定だったけど、母さんが一日ぐらい泊まっていきなさいと声をかけた。
普段そんなことを言わないから、きっと話があるんだろうと思い俺は帰らないことにした。


『ほな、また学校で』

『うん。気をつけてね』


『……佐倉』

『ん?』


『…………ううん、なんでもない。親孝行しぃや〜』


ヒラヒラと手を振って俺に背を向けるヒヨさんを見つめ、なんとなく言いたかった言葉は予測できた。


母の、ことだろう。





その日の夜、ちょっとだけ晩酌に付き合った。


『反対してるんじゃなくてね、まだ日本では絶対壁とか、見えない障害があると思うの。それをね、やっぱりお母さんはね、大事な息子だからね、できるなら、回避できるのなら、あなたの心にキズを追わせないでいいのなら、その大きな壁にはぶち当たってほしくないの』

久しぶりに酔った母を見た。いつもより饒舌だった。

『でもね、お姉ちゃんとちょっと話したんだけど、照変わったよね、って。日夜くんのおかげなんだろうね、って』

色々溜まっていたのか、母は頷くだけの俺を見ながら喋り続けた。


そして少し、母を悩ませてしまったんだな、と思って後悔した。少しだけ。


『照が好きになった人なんだから、凄い人なんだよきっと、って、お姉ちゃん言ってた。お母さんもね、今日日夜君と喋ってそう思った。とても良い子ね』

空になったグラスに日本酒を半分までそそぐ。

これ以上はダメだよ、と言うと優しく笑った。



『照、幸せになりなさい』



目尻のシワが目立つ年齢になったけど、その時の母は息子の俺から見てもとても、とても綺麗だった。







「そうだ、母さんがまた日夜くん連れておいでって」

「ええええええええええの?」

「なんでそんな驚いてんの?」

「だってほら…俺…大事な息子を…お前を…男の俺が…お前を…」

「そんなん言ったら俺もじゃん」

「俺はええねん。この前うちのおかんありえへんで!晩ご飯の時にゴムはつけてる?やりすぎるとガバガバになるで?とか言うねんで!おとんめっちゃ咳払いしてたわ!」

「わはは」





母さん、姉ちゃん、この人が、俺が好きになった人だよ。


可愛くて、かっこよくて、凄く、素敵な人でしょ。





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【大谷陸】

もしかしたら一生誰にも言えない秘密を持ってしまったかもしれない。


「お父さん、俺ね、お兄ちゃん好きだよ」

「そうか、そう言ってもらえて嬉しいよ。あいつは少々歪んでるからな。仲良くしてやってくれ。あいつもこんな良い弟が出来て嬉しいと思うよ」

「………うん」


弟として、じゃ、ないんだけどな。


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【清野×姫川】(清野24歳、姫川22歳設定)


心臓が爆発しそうだ。


今、清野先輩は、俺の家に来ている。

俺の家のリビングにいる。



俺の家のリビングの、母さんの前で正座をしている。




「お母さん、息子さんを僕にください」


「………え?」


「先輩やりすぎーーーーーー!!!」




先輩と出会ったのは高校生の時。
部活の先輩で、凄くうまくてかっこよかったけど、正直最初は苦手だった。

何を考えているかわからなくて、だけどグイグイ俺の中に入ってきて、気がついたら容量オーバーするぐらい俺の中でいっぱいになっていた。


先輩は卒業した。
卒業式は泣きじゃくった。
永遠の別れじゃないのに、って言って笑いながら俺の頭を撫でる先輩を見上げて、さらに涙が出た。

それでも大学生になる先輩と、まだ2年間高校生の俺はなんだか大きな差が出来てしまったようで、毎日が不安だった。

俺はまだまだまだまだ子どもで、我慢できなくて、別れるって言ったこともあった。
その度に先輩は俺をなだめ、時間を作っては会いに来てくれた。

それでも先輩の疲労と、俺のわがままが爆発した時、別れたことがあった。

俺が18歳の高校卒業間近の時と、先輩が学校とバスケの両立で忙しい時期だった。


半年経って、それでもまだ先輩の事が好きで、好きで、好きで、好きで。
毎日先輩の事を思って、先輩と喧嘩した時より精神的に壊れそうになった。

ついに耐えきれなくて、先輩に電話をかけた。

無機質なコール音が流れている間、涙が止まらなかった。

出てくれなかったらどうしよう。
もう携帯の番号消してたらどうしよう。

俺の事、もう好きでもなんでもなかったらどうしよう。



プルルル……

ピッ

『………半年か……。姫っち結構我慢強いねぇ』

『うえぇえええぇぇせんぱいいいいすきですうううううう』

『知ってまーす』






思えばあれが一番二人の危機だったかな。
その後もちょくちょく小さい危機はあったけど、俺の心もたぶん、たぶん、たぶん、大人になったのかな。
身長はあんま伸びてくれなかったけど。


そんなこんなで俺も大学生になり、先輩と違う大学だったけどよく一緒にバスケをした。
俺の大学のバスケは有名じゃなくて、どっちかっていうとサークルに近かったけど、先輩がコネをきかせて週に2回大学の有名バスケットマン達と練習する事ができた。


先輩は就活に突入し、会える日はかなり減った。
それでもスーツ姿でへとへとになりながら、たまに晩ご飯を一緒に食べてくれた。

この人に出会えてよかったと心底思った。


先輩は実業団のある会社に内定が決まり、次の年には新社会人になった。
俺は先輩のコネがなくなったものの、佐倉がよく声をかけてくれたからバスケは辞めなかった。
休日はよく先輩とバスケしたしね。


社会人になった先輩は就活の時よりだいぶ忙しそうだったけど、充実してるって電話で言ってた。
なんだか嬉しかった。

5年近く付き合っているけど、先輩の好きは変わらないままだった。
先輩も、俺をずっと好きでいてくれた。




で、だ。
今年俺も無事大学を卒業し、晴れて4月から新社会人だ。
希望していたスポーツ用品店の会社にも入れたし、不安と期待で胸がいっぱい。

大学卒業を機に家を出ていた先輩を見習って、俺も大学4年間、バイトで貯めた資金を手に家を出る事にした。
先輩にそれを相談すると、じゃあ一緒に住もっかと言われた。
晩ご飯カレーにしよっか、と同じようなトーンで言われた。


『あれ、姫っち、泣いてね?』

『だ、だ、だ、だって』

『うん?』

『それって…なんか…もう………プロポーズみたい…』

『プロポーズときたか!まぁ合ってっかな〜』

『俺、絶対先輩を幸せにします』

『姫っちだいたーん』


それを言われたのが、2日前。
一緒に暮らすってなったら、やっぱり両親に俺たちの事言わないとね、と言うことで先輩が俺の家に着た。
まさかスーツとは思わなくて面食らっていたら、冒頭のあの言葉である。

確かにプロポーズみたいとは言ったけど…

母には先輩との事言ってなかったけど、なんとなく気づいていたと思う。
女の勘は良く当たるっていうし、女系一家だから痛いほど実感してきた。


それよりもいきなりはさ、ちょっとさ、俺いつも通りの普段着だし、母さんもそりゃ先輩来るからってよれよれのパーカーじゃないよ?
だけどさ、ね?菓子折もってさ、ね?



「……清野くん」

「はい」


そんな姫川家長男は今までの走馬燈が頭の中で巡られている中、二人はゆっくり話し始めた。


「うちの子じゃないとダメなの?」

「ダメです」

「君は男性よね」

「はい」

「うちの子も男よ?頼りなくてなよってしてるけど」


母ちゃん最後いらないだろ。


「男がいいんじゃないです。姫川くんがいいんです。彼じゃないと、ダメなんです」

「………そう」



ソファに座っていた母さんは足を組み直し溜め息を付くと、もう一度先輩を見てゆっくり立ち上がった。


「普通に、僕たち付き合ってます。同棲させてください。だったら文句の一つでも言ってやろうと思ったけど…… 。やられたわ。君結構やるわね」

「いえいえまだまだです」

ニコっと笑う先輩。
足はまだ崩さず、営業で鍛えたのかその表情は惚れ直すぐらいかっこいい。元々かっこいいけど。



「………援助は一切しないけど、応援はするわ。うちの子末っ子だからわがままで頑固だけど頑張ってね」

「それも含めて全部好きなんで」

「母さんさっきからずっと俺の悪口じゃん!!」


母さんはなんだか複雑な表情で笑うと、スリッパの音を立ててリビングを出た。

バタン、と音が聞こえた瞬間床に崩れ落ちる先輩。


「足しびれたんですか??」

クスクス笑いながら近寄ると、先輩は大量の汗を拭きだし固まっていた。


「え、え??体調悪い??え?」

「きっきっ緊張したああああああ」


ごろんと大の字になってリビングの真ん中に寝ころぶ。
だだっ子のようにでかい手足を伸ばして先輩は顔を手で覆った。


「人生で一番緊張した。インハイの時より緊張した」

「なんで?」

「男が息子さんくださいって言いにいくんだぞ。罵られるの覚悟に決まってんだろ」

「……応援してくれるって」

「あああよかったあああああ」

「うん。よかったね」


俺はすっとしゃがみ込んで、まだ顔が真っ赤な先輩の頬にキスを落とした。



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【智希×有志】


「……母さん」

「久しぶり、全然こっち帰って来ないから来ちゃったわよ」

「…………」




「…………あれ?おばあちゃん?」


「智くーーーーん!!!」

「ちょ、おばあちゃん!ここ玄関先だから!誰かに見られるから!いきなり抱きつかないで!」

「いいじゃないのう!可愛い孫を久しぶりに見たんだからいっぱい可愛がっても〜」

「俺もう17だから!」

「まだまだ子どもよ〜」



母親が2年ぶりにやってきた。



智希とこの関係になってから初めて合う身内。
なんだか急に心臓に矢が刺さったかと思うぐらい激痛が走った。




「おじいちゃん元気?」

「元気よ〜今は山が友達らしいわ。あ、お野菜いっぱい持ってきたからね〜」

「重いのにごめんね?それにいつもお米とかも送ってもらって…」

「いいのよいいのよ〜智希の体が大きくなる度にうちの野菜と米のおかげだって言ってお父さんも喜んでるから〜」

「……はい、麦茶でいいよね」

「ありがと有志。有志はどう?最近」

「まぁ、相変わらずかな」

ダイニングテーブルを囲み3人が座ると、母は相変わらずのマシンガントークで攻めてきた。
俺があんま肉食系じゃない理由ってたぶんこの人の所為なんだよな、俺が喋ろうとするといつも先に喋るから。



まだ、胸は少しずきずきする。



「ほんと智希超イケメンよね〜嬉しいわ〜沙希さんが超イケガールだったもんね〜」

「イケメンじゃないよ」


イケメンだよ。
てかイケガールってなんだよ。


「モテるんじゃない?」

「全然」


モテモテだし。
ほんとかっこいいし。


「なによ有志さっきからブツブツ」

「え、俺声に出てた?」

「口がへの字になってる」

「なってない」

「あんた達ほんと相変わらず親子逆転よね〜」


ケラケラ笑いながら麦茶を飲むと、母は鞄の中からゴソゴソと何かを取りだした。
あまりいい予感はしない。



「はい、有志、これ」

「…………今日来た理由これ?」

「それも、あるわね」


差し出されたのはA4サイズの冊子だった。
なんとなくわかる。
開けばきっと、見合い写真があるんだろ。


「ずっと言ってるだろ、再婚はしないって」

「まだ沙希さんの事を忘れられない、忘れちゃいけないってのはわかるけど、あなたまだ34なのよ?ずっと一人で生きていく気?」



一人じゃない。智希がいる。




「智希もほら、あんたが心配で独り立ちもできないって言ってるでしょ」

「え、俺一言もそんな事言ってないよ?ってかこの家から出て行かないし」

「男がなに言ってるの!智希!」


まぁ確かに今の発言はニート宣言とあまり変わりない気がする。



「ほんともう、この話はいいから。俺今の生活で十分だから」

「ダメよ!それじゃあ沙希さんも天国で浮かばれないわ!」


ズキン、と、激痛。


「……おばあちゃん」

「どうしたの智希」

「俺ね、ほんとおばあちゃんとおじいちゃんには感謝してる。いつも都会じゃ買えないようなおいしい野菜とお米送ってくれて、俺の事心配してくれて、俺の成長楽しみにしてくれて。でもね、それ以上に父さんに感謝してるんだ」


じっと椅子に座り話を聞いていた智希がおもむろに口を開いた。


「干渉しないで、なんて言わないけど、父さんと俺のことは、今まで通り見守っててくれないかな」

「でも智っ」

「今ね、凄く幸せ。凄く、凄く」

「……智希………」


智希の表情を見た母は、まだ何か言いたげだったが言葉を飲み込んだ。








「ほんとにあの写真見せに来ただけかよ」

「違うわよ。これからコンサートなのよ」

「誰の」

「秘密」

「またねおばあちゃん。今度は俺等が帰るから。おじいちゃんにも宜しく」

「そうね、かなり会いたがってたから、また遊びにいらっしゃい。バスケの試合のビデオ、全部送ってね。頑張るのよ」

「うん」

「じゃあね、有志。あんたもしっかり、自分の道を進むのよ」

「……うん」


もう、進んでいる。

引き返せない道に、進んでいる。








「おばあちゃん滞在時間30分だよ。ほんと相変わらず元気な人だねー」

「………」


「父さん?」



「智希…ごめん…ごめん……ごめん…ごめん…」


「うん…………今はいっぱい言っていいから、明日からは言っちゃダメだよ。俺も辛いから、ね」

「………ごめ、ん……」








進んだ道の先に光りなんかないけど、すぐ隣に智希がいてくれるのなら。





END

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