「サスケ、どうした真面目な顔して。私のおひざにでも座るか?」
「あんたの膝に座って何か良いことがあるのか? バカ、座るわけないだろ」
「さり気なく持ち掛けたらなし崩し的に座るかもしれないと思ってな」
「今から修行しに行くところだ。大した用じゃないなら、母さんの手伝いでもしながらここで大人しく待ってろ。今日のノルマが終わったら、あんたの与太話に付き合ってやる」
「何故君は小さい女の子でもあやすように言うのだろう」
「あんたのオツムは五才の子どもと大差ない。大体他人の家に来たならお邪魔しますぐらい言ったら如何なんだ。良い年した忍者が他人の家に来るなり『おひざに座るか?』はないだろ」
「ちゃんと上がるときは言ったよ。君こそ、良い年した忍者が縁側を玄関代わりにするのはどうなんだろう。このところ、気が付いたら家にいないのよねとミコトさんが不思議がってたぞ」
「オレがいつどこにいこうと関係ない。里の外に出るわけでもなし、門限は守ってる」
「まあ、そうだけど、折角見送ってくれる家族がいるのだから見送って貰ったら良いじゃないか」
「言っとくけどな、あんたがこうやって鬱陶しく『どこ行くの、どこ行くの』って付いてくるのもオレが縁側から出入りする理由の一つだからな。ついてくるな。大人しく家で待ってろ」
「いや、まあ……そういうわけにも行かないというか、今日は家で修行しないか?」
「家で? あんたの家と違って、うちの庭は修行出来るほど広くないし、木が折れるだろ」
いや……ストレッチとか……屈伸運動とか、そういうのなら室内で出来るだろう
それのどこが修行なんだ?
「わかった、素直に言おう」
「さっさとしろ。あんたに構ってると時間が幾らあっても足りない」
「そのな……なんだ……怒らないと約束してくれるか?」
しない。絶対にしない。死んでもそんな約束はしない
「そうか。そしたらもう打ち明けるしかないな」
「何があろうとあと一分で話を切り上げるからな。早く家に戻れ」
「実はいのとサクラの前で見栄を張って、君が上半身裸でいるところの写真を撮って渡すと約束してしまったんだ。寝てる間に済まそうと思ったんだけど、一回目はカメラ落とした拍子に君が起きてしまったし、ワンチャンあると思って翌日行ったら部屋に鍵がついてて……」
どうせ、そんなことだろうと思って鍵をつけたんだよ
「じゃあ撮ってもいい?」
「何が『じゃあ』だ。駄目だ。殺すぞ。死ね」
「一枚だけだから」
「……あんたはオレから『知人に頼まれてあんたの……兎に角ナシだ。死ね。お断りだ。知らないところで自分の写真ばら撒かれるなんて、オレが如何いう気持ちになるかぐらい分かるだろ」
「ばら撒いたりしない。いのとサクラなら良いじゃないか。可愛いし、私なら気にしない」
「嫌だ。大体見栄張ったって言うけど、如何いうホラを吹いたら写真をばら撒く流れになるんだ」
「それは、まあ……その、ほら……なんていうの……?」
「さっさと吐け。場合によっては縁切りだからな」
サスケくんと結婚したらトバリさんのことお義姉ちゃんって呼ばなきゃですねって言われたのが嬉しくてちょっと調子に乗ってしまいました! サスケの可愛いところをもっとたくさん知って欲しくてアルバム見せてる内につい盛り上がって、ごめんなさい!! 夏場とかよく寝てる間に上着脱いで上半身裸になってるし、お風呂上りも上半身裸で歩いてるし、そのぐらいは著作権フリーだろうと思って安請け合いしました!! 反省しています! 縁切りはやめてください!!!!
「次同じことをしでかしたら本当に縁切るからな、マジで本当に二度と永劫に調子に乗るなよ」
「はい」
「……全くわかってないだろ」
「いいえ」
「チッ……明日サクラといのに会う時、オレも行くから」
「えっ本当に? え、あ! じゃあ四人で甘味処行ったりウインドウショッピングしたり、」
違う。遊びに行くんじゃない。二人の前で、あんたにちゃんと『安請け合いでした。今後サスケのことで軽はずみな約束は致しません』って謝罪させるためだ。それが済んだら用はない」
「……もとはと言えば調子に乗った私が悪い。反省はしよう。でも最後まで四人で一緒に遊んだり……あの、なんていうか……たまには、そういうの……どうだろう?」
「時間が勿体ない。今は他人とチャラチャラ遊んでるより、使える忍術の数を増やしたいんだ」
「でも、たまには息抜きしないと。四人で一緒に遊ぼう。きっと楽しいぞ」
「行きたくない」
「そりゃ、確かに修行の時間を多く持つのは良いことだけど、最近の君は少し根を詰めすぎていると思うよ。気が塞いで上手くいくことも行かなくなるものだ。ね、明日は……」
しつこいな。そりゃどんな忍術でも一朝一夕で使いこなせるあんたにとっては、オレ程度の苦労でさえ“根を詰めすぎ”に感じるだろうな。何日も掛けてやっと一つ覚えるかどうか、そんなオレの気持ちが兄さんやあんたみたいな天才に分かるかよ。凡人のオレは修行しないとあんたたちに追いつけないから、あんたたちの倍努力するんだ。あいつらと遊んでる暇はない」
「私とイタチは君より年も上で、場数も踏んでる。私たちのことと、君の様子がピリピリしているのは何の関係もないことだ。詰まらない見栄を張った身で偉そうなことを言うのは躊躇われるが、今日の君は明らかに様子が可笑しい。修行はやめて、気分転換を図りなさい」
「他人のくせに、オレに指図するのはやめろ。何の権限があって」
泣くぞ
「は?」
「それ以上ああだこうだ理屈をゴネてまで修行をしに行くなら、今すぐここで大きな声を出して泣く。サスケが構ってくれない、イタチばっかり兄さんって呼ばれてずるいって大泣きするからな」
「し……勝手にし、な、嘘泣きするほどのことか? おい……馬鹿か、十七歳の一端の忍者だろ。こんな往来で泣きだすバカがいるかよ。いつの間にそんな特技増やしてんだ、あんたは」
「特技というわけではない」
「……わかった。今日のところは修行は辞める」
「ほんとに?」
「本当に。だから、本当に家に戻るから、いい加減その嘘泣きはやめろ。みっともない」
「嘘泣きでもない」
「じゃあ何だ……どうしてこうあんたはオレに対してだけ我儘なんだ」
「だって、私だってサスケが赤ちゃんの頃からミルクをあげたり、あやしたりしてきたのに、イタチばかりが兄さんと呼ばれてずるい。イタチはサスケから兄さんと呼ばれるだけでなく、サスケのお嫁さんからも義兄さんと呼ばれるだろうし、サスケの子どもからも伯父さんと呼ばれる」
「別に、呼ばれるから何なんだ。そんなの大したことないだろ」
「とても大したことある。ずるい。私もサスケから姉さんと呼ばれたり、サスケのお嫁さんから義姉さんと呼ばれたい。そして君の子どもにお菓子とかテディベアとか忍術指南書をあげて『伯母ちゃん、ありがとう』って満面の笑みで言われたりしたい。イタチばかりがずるい」
「本当に、あんたの愛情表現は聞けば聞くほど子どもの躾に良くないな」
「ちゃんと育児書を読むし、うちはの子育て講習にも顔を出す。それで良いだろう」
「……あんたは」
「はい」
「あんたは、自分が……伯母さんとか、義姉さんとかでなく、自分がなろうとは思わないのか?」
私が、サスケの養子に……?
割りと本気で一回あんた死んだほうが良い
「はは、冗談冗談。そういうのもアリかなと少し思っただけだ。で、私が何に?」
「おい……本当にオレが何言ってるか分からないのか」
「何か良いことかなあとは思った。よもやデレてくれるのかなあとも期待した」
「そうか。一生そうやって一人期待したまま地中に埋まってろ。オレに顔を見せるな」
「君が望むなら別に埋まっても構わないけれど――ねえ、サスケ」
「あんたがそう言うと地下数百メートルでも死ななそうで凄いな。なんだよ」
「君は、本当の本当に私が嫌いなわけではないだろう」
「そりゃ……鬱陶しいは鬱陶しいけど、仕方ない。何だかんだで長い付き合いだ」
「そうか。そしたら、私は君の“義理の好意”の何十倍、何百倍も君が好きなんだと覚えておいて欲しい。だから君に構って欲しいし、結局のところ他人に過ぎないのが寂しいと思う」
「他人じゃなきゃ出来ないことがあるだろ」
「うん?」
「……だから、オレは、トバリが他人で良かったって……そう思うし、トバリは“そういう風”にしか見えないのかもしれないけど、オレがもっと、トバリより背が高くなって、強くなったら、」
「そうしたら?」
「いや、だから……オレが大人になったら、トバリも……少しは分かるだろ」
「よくわからないけれど、君が大人になったら、私と君は何か変わってしまうのかな?」
「っ変わるに決まってるだろ! バカトバリ、大人になったら法的措置に則って縁切りだからな」
「なにそれこわい」
「それが嫌なら大人しくしてろ。オレの邪魔をするな」
「サスケが構ってくれれば私は大人しい。それなのに、何故最近の君は私に冷たいのだろう」
「あんたが馬鹿で間抜けで鬱陶しいからだ」
「馬鹿で間抜けで鬱陶しい私に構ってくれるなんて、やっぱりサスケは良い子だな」
「それは皮肉か?」
「まさか。私の愛情表現は子どものためにならないとは言うけれど、それでもこうして“腐れ縁だから仕方ない”と構って貰えるなら、やはり私は自分の思うままに君を愛して良かったと思う」
「別に、腐れ縁だからで構ってるわけじゃない」
「おやおや」
「馬鹿で間抜けで鬱陶しくても、あんただから構ってるんだ」
「うれしい。サスケやさしい。とても好き」
「なんだその馬鹿みたいな物言いは……なんで時々そう語彙力が退化する」
「あの、急に甘えてくれると思わなかったので……嬉しくて、キュンとしてしまった」
「……そうやって、何かとふざけた態度で誤魔化すあんたには分からないだろうけど、多分、オレのほうが、あんたより何倍もあんたのことが好きだから――それは、ちゃんと覚えとけよ」
「おぼえましたし」
「覚えてないだろ。絶対に覚えてない。あんたは何もわかってない」
「サスケがとても可愛いってことはよくわかってるぞ!」
黙れ
「おこった。おこったサスケも可愛い。ナデナデしても噛みついたりしないかな?」
「ほんと、今に見てろよ……すぐにそのふざけた余裕面、消し去ってやるからな」
「私はいつも心から真面目に君を可愛がっているのに、何故君は怒ってしまうのだろう」
「怒ってない。こんなことで一々怒ってたら、あんたの相手は出来ない」
「それなら良かった!」
「撫でるな」
ふたりはなかよしにあらず
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