「オレはホモじゃない」
「知ってる」
「じゃあなんでトバリと一緒になってからかってくるんだよ……!? 好きな女に本気か冗談か分からないけどホモ扱いされるオレの気持ちが分かるか?」
「悪かった。面白くて、つい魔が差した。でもちゃんと二人きりにしてやったろう」
「あーもう本当にロマンチックな夜だったよ。幻想的な里の夜景、月の光に照らされて美しいトバリ。風に撫でられた木々のこすれる音は空高く、崖の下には街のざわめきが満ちる。その最高のシチュエーションでオレたちは修行に耽り、夢を半ば強引に語り合わされた、しかもその場にいないお前とイズミとサスケの話ばっかりだ。具体的に言うとサスケの話ばっかりだ」
「良かったなシスイ、最高にロマンチックな修行になったじゃないか」
「ダメでしたダメでしたぜーんぜんダメ」
「具体的に何が如何ダメだったんだ?」
「逆にどこがダメじゃないんだ? オレはデートがしたかったんであって、修行がしたいわけじゃない。大体トバリとなんか全力で組手出来るわけないし、む、む、胸とか掠ったら如何する」
「……まあトバリ相手に隙を作りたいなら、胸より目潰しのほうが良いんじゃないか?」
「そういう意味じゃないからな!! 胸、胸部!! どこの部位か分かるな? 少なくとも組手の時には触りたくないんだよ!! わかるだろ、お前だってイズミの、どっか触るとどぎまぎするだろ!?」
「それ以上言うなら俺は帰る。やめろ。イズミはそんな風じゃない」
「ええ……一体何がお前のお気に召さなかったんだよ……」
「イズミは男に二人きりと言われれば事の次第を察するし、ふしだらなことになりかねない事態は避けて通る。ウスラトンカチの話をしてる時にイズミを引き合いに出すのはやめろ」
「お前がそんなんだから最近サスケが同班の子をウスラトンカチ呼ばわりしてるじゃねえか」
「先に言い出したのはサスケだ。ウスラトンカチの著作権はサスケにある」
「逆輸入なら余計にやめろ……お前もトバリも良い年した一人前の忍だろ? 仲良くしなさい」
「奴とは根本的に気が合わない。それに、仲良くしたらしたで不愉快な噂が立つ」
「お前はその気が合わない奴とクリソツな上に十二年近く家族ぐるみで付き合ってるわけだけど、それで気が合わないって言うならお前は多分宇宙人か何かだぞ。ああ、まあ、じゃあ良いや」
「分かった、言い過ぎた。とりあえずトバリが俺に先んじてサスケと額当てを交換したことと、サスケのアカデミー卒業祝いに俺を仲間外れにしたのを謝罪したら当面は許す」
「え、何? 家族ぐるみの祝いの席にお前仲間外れだったの? 何かあったのか?」
「いや、そうじゃない。何でもサスケが下忍になるに当たって武具とか新調するのを手伝って貰いたかったらしくてな。トバリと二人で出かけて、案の定珍妙な服を買わされて帰ってきた」
「は、何それ」
「そう思うだろう。だから俺の予定が空いてる日にしろ、そうしたらトバリの奇妙なファッションセンスから守ってやると言ったのに、如何にも逸る気持ちを押さえられなかったらしい」
逸る気持ちっていうか、それお前に着いてこられたくなかっただけだろ
「そうか……? 私服姿のトバリよりオレのほうがずっと連れてて恥ずかしくないと思うが」
「オレもさあ……トバリとデートしたいんだけど」
「俺とイズミとサスケが任務でいないときを狙って誘ったら良いだろう」
「いやまあ、それは良いんだ。それは。珍妙な私服も、何とか言いくるめてまともなもの着るように躾けたから良いんだ。良いんだけど、なんかデートらしくなんないんだよな……」
「……二人きりで出掛ければ、それはデートなんじゃないのか?」
「二人で喫茶店なりレストランなり入るじゃん?」
「ああ」
「注文済ませて、食って、会計済ませて出ようとするといつの間にかトバリが済ませてるんだよ。何故かトバリの奢りになるんだよ。この後、少し体術見て欲しいからとか、忍刀を新調したいからオレに選んでほしいとか、そういう理由付けてさ。悪気全くないし、気まずくもないんだけどさ」
「……ああ、まあ、それは本当にお前に体術を見て欲しいし、忍刀を選んでほしいんだろうな」
「そうなんだよ。分かるんだよ、気を使ってるとかじゃなくて本気で対価として払ってるんだって分かるんだけど、そんなもんなくてもオレはトバリの頼みなら何だって引き受けたいんだよ……」
「そんな調子で借りを作る前からチャラにされてるようじゃ、主導権は握れなさそうだ」
「常にトバリがマウント取ってるのにどうやって恋愛に持ちこめってんだ……そうこうする内にサスケも年頃になっちまうし、トバリはサスケにデレッデレだし、如何したら良い?」
トバリが義妹になるのは嫌だからシスイに頑張ってほしい
「それお前の希望的観測だろ!!!! 割りとそれ笑ってられねえんだよ……フガクさんのこともミコトさんのことも好きだし、お前とも仲良いし、サスケは言うまでもなく、このままお前ら順調に行けばイズミと結婚する可能性高いだろ? サスケと結婚したら一挙両得どころじゃない」
「いや、そもそも五歳上で自分のオムツを変えてた年増女に惚れるか?」
「それサスケの目の前で言って。後生だからトバリのブラコンとサスケのシスコン如何にかして」
「まあ、今のところトバリは結婚願望がない。結婚願望がないというより、不妊を理由に次期族長やら相続権で揉めてる真っ最中なんだから、サスケと付き合い始めたら火に油だろう」
「それ言ったらオレだってうちは一族だから絶望的な気持ちになるんだけど」
「……綱手様が戻ってきたらまた変わるかもとは言ってたが、今のところトバリが二十歳になったら一族の人間を養子に取って、そいつを次期族長に据える予定らしい」
「あの人も、いい加減帰ってきてくんないと困るよなあ。三代目だってもう年なんだしさ」
「まあ、それは綱手様の事情として……如何にもあの一族は偏屈な奴が多くて息がつまる。トバリにしろ、子どもが出来ないことはちゃんと検査結果を出して説明してあるのに、養子を取った後で万一子どもが出来ると内輪揉めの種になるから嫁に行くな、婿も取るなと五月蠅いそうだ」
「そんなの不妊じゃなくたって、どうせ一族の人間と結婚しろとか言い出したよ」
「今更うちはの後追いをして、一族の結束を強めたところで結果は知れてる。うちは自体が里への帰属意識が薄いことで根腐れしてるのに、それを真似たところで無駄だ」
「まあ、要するに千手のお歴々はトバリがお気に入りなんだろ。うちのトバリなんです〜って見せびらかしたいだけだって……容姿と木遁、温厚さは初代様譲り、大人びた立ち居振る舞いと情熱的な性格は二代目様譲り、寛容で愛情深い価値観は三代目に育まれたものだとか何とか」
「あいつのどこらへんが温厚で落ち着いてて愛情深いんだ」
「知らねーよ。何も分かってない奴らがそう言いたいだけだって」
「愛情深い人間が捕縛任務で『木ノ葉を侮った報いを受けさせるため、蒸し焼きにするか。何、私は火遁が苦手なんだ。脅かすつもりが思ったより火力が出て、狼狽してしまった。盗賊とはいえ一つの命には代わりがないのに不憫なことをしたと言っておけば、猿飛先生には分かるまい』とか言うのか? あいつが三代目の前で真実を報告することのほうが少ないぞ」
「まあ……あいつ目上にはおもねるから……お歴々のお気に入りで当然と言えば当然なんだよな」
「何なら日々の修行を疎かにしてまで周囲に媚びを振りまくからな」
「お前も正直かなり極端なんだけど……お前の場合はほんと自分の体面はあんまり気にしないじゃん? あいつは体面を死ぬほど気にして最悪命も懸けるからさ。まあ、死なないんだけど」
「結局のところ、それが一番の問題だな。あいつの倫理観も、価値判断基準も可笑しい」
「そーなんだよな。どうせすぐ治るし、死ななけりゃ何しても良いと思ってんの」
「どうせ治るんだから手当すると物資の無駄遣いになる。どうせ子ども出来ないから恋愛しても相手の時間と子種の無駄遣いになる。自分は死なないから何をしてもされても良い」
「ちょっと待った。子種の下り、トバリが言ったのか?」
「言った」
「いつ、何で」
「何だったかな……イズミと付き合い始めた頃に冷やかされた流れで聞いたんだろう」
「子ども出来ないから恋愛する必要はないってあまりに即物的すぎないか?」
「……まあ、なんだ。トバリは子どもが好きだし、あれが本当に百豪の術なのか違うのかは不明とはいえ、恐らくトバリは長生きするだろう。少なくとも俺たちよりかは、ずっと」
「それはそうかもしれないけど、なんかさあ」
「その内、族長のことやら色々身辺が落ち着いたらアカデミーの教師になりたいらしい」
「オレ、昨日滅茶苦茶夢を語り合ったはずなのに、それ初耳だぞ」
「言い辛かったんだろう。お前とは殊更熱心に将来を誓いあってきたからな。大人になるにつれ物の道理も見えてきてしまったし……俺たちは兎も角、トバリは今のまま第一線で働いてれば間違いなく火影になることを嘱望される。俺は一族外の人間ではあいつが一番付き合いが長いから、それでもいい。元の形とは違っても、あいつを中心に俺たち三人で里政を変えることも出来た」
「トバリがそれをやりたくないんだな」
「そうだ」
「そりゃ、そうだ。トバリを引っ張ってきたのはオレとお前なんだから。あいつ自身には特に大それた夢なんかないんだよ。オレたちと一緒にいたくて、それで今がある。代替案なんて無理だ」
「オレとお前の子を、アカデミーで教えたいと言っていた」
「そういうシビアなのってほんっと……あートバリも結局女なんだなあって思うよ」
「要するに、あいつはもう俺とお前のどっちも火影になれず、自分より早く死ぬ未来を覚悟して、それに備えてる。俺も疾うに火影になろうとは思っていない。今は俺だけの“夢”がある」
「分かる。分かるんだよ。分かってるんだけど、オレはまだ十九歳だし、お前もトバリも十七歳……いやトバリなんかまだ十六だろ? 天井に気付くには早すぎないか」
「大体察しがついてしまうんだから、限りあるなかで最善を探るのは仕方ない」
「……オレたち、五年前ぐらいが一番幸せだったのかな。三人とも馬鹿で、大それた夢に浸ってたし、あの頃はトバリも十二歳で恋愛のことなんかとやかく言われないから気楽だった」
「あいつのことは、周囲より何よりあいつの価値観がいけない」
「ほんっとにそれな……オレは今あいつのことが好きなんだよ。子どもとか如何でも良いんだよ。オレの子どもにオレの影を探すのではなく、今生きてるオレを愛して傍にいてくれよ!!!! そんでオレが先に死んだとしても、思い出のなかで幸せだったのをずっと覚えててくれよ……頼むからさあ……それで良いんじゃないのか? オレは何か酷いことを言ってるか?」
「いや、お前は正しい」
「あーああああああああーーーあんの脳内即物的ドバカ女」
「そう嘆くな……何ならもう実の無い恋は終わりにして、別の女を好きになったら如何だ」
トバリの同意を得た上で如何わしい何かがしたい
「俺も、徐々に壊れゆくお前を見るのが辛い」
「大体子種なんか毎日作られるもんなんだから無駄遣いとかないだろ。寧ろトバリのこと思い返しながら自分で処理してる現状のがずっと時間と子種の無駄遣いじゃないか? ほんとにオレの時間と子種を有効活用したいと思うならオレの好意に応じるべきだろ?」
「その論で推せば性行に及ぶことは可能だろうな」
「いやだ。こんなゲスいことトバリの前で言えるか。絶対に嫌だ」
「俺だってこんな低俗な悩みを抱えるお前を見るのは嫌だ。トバリのことはもう忘れろ」
「そしたらお前はトバリの義兄になるわけか」
ここはひとつ、お前の知性をサスケの将来の犠牲にしてくれ
「それはそれで傷つくからサスケの話は止めよう。もう聞き飽きた」
「トバリとサスケの何を話したんだ。今期の下忍でうちのサスケが一番優秀で凄いけど油断がちだしクールなふりして実は優しいからボヤボヤしてると足元掬われそうで心配という話か?」
「お前らは多分血を分けた兄妹だよ」
「何故あいつはいつもうちのサスケをうちのサスケ呼ばわりするんだ」
「それはお前とトバリが実の兄妹だからだ。でなきゃあんなにサスケを可愛がるわけがない」
「そうか……その反応から察するに、本当にサスケの話ばっかりだったんだな」
「マジで九割サスケ。サスケとこないだ商店街に行って良さそうな喫茶店を見つけたとか、今まで夜に来たことなかったけど今の時期は涼しいし夜景も綺麗だし凄く楽しいから今度サスケにも見せてやりたいとか、サスケが忍刀欲しがってるけどまだ早いしオレかイタチみたいな目利きに選んでもらった方がいいとか、サスケに下忍時代のことを聞かれるから色々思い出すけど、あの頃はオレがいて安心だったとか、もうほんっとにサスケサスケサスケ! 何なんだよ……」
「お前はその体たらくで、自分はトバリに文句を言える立場だと思ってるのか……?」
「は、何? 急にどうした」
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