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▼ これからは

「リツさん!」

ああ、期待しすぎて頭がおかしくなってしまったのかもしれない。

この特徴的なヒーロースーツは、折紙サイクロンだ。

私を拘束していた腕が解かれ、気づいた時には折紙サイクロンの腕の中にいた。

浮遊感に目を閉じる。

「大丈夫ですか!」

軽い衝撃に目を開ければ飛行機の中ではなく足元にはアスファルトが敷かれた地面だった。

「リツさん……よかった……」

ぎゅっと抱きしめられた。

折紙サイクロンのヒーロースーツは結構硬いんだな。

でもイワン君の声がする。

「あ、の……」

「リツさん」

「はい?」

「遅くなってすみませんでした」

「あ、いえ、助けていただいてありがとうご……ざ」

「リツさんが怪我をする前に助けたかった!!それと先日もすみませんでした!!やっぱり撤回します!」

何を言ってるんだろうこの人は。

抱きしめられたまま、イワン君の声をした折紙サイクロンの言葉を聞く。

「自分から言い出しておいて勝手ですみません。もうリツさんに会えないのは嫌です!」



ーーもうリツさんに会うのはやめようと思います


あの時のイワン君の言葉がよみがえる。

「僕が一生リツさんをまもりますから!だから僕とずっと一緒にいてください!!」


思わず痛みを忘れて目を見開く。


「……ほんと、に?」

「僕じゃダメですか?」

ヘルメット越しに目が合った気がした。

「私も……」


『おーーーーっと!折紙サイクロン!!公開プロポーズかぁああああ!!?』

スピーカーのハウリングとともに発せられた言葉に我に返る。

近くにはヒーローTVのカメラと実況の人、そして犯人を確保し終えたヒーローたちがいた。

皆一様にこちらを見ている。


「やるじゃねーか折紙!」


「う、うわあああああああっ!!」


イワン君の、折紙サイクロンの叫びが広い滑走路に響き渡った。












おじい様のはからいで一般の病室ではなく妙に豪華な病室に入院させられた。
骨折とはいえ、固定さえすればそのまま帰宅が許されるような軽いものだ。打撲だって痛み止めを飲んでいれば見た目以外は平気だ。

おそらく事件のすぐ後なのでマスメディアから引き離す目的もあるのだろう。

身の回りのものを向こうに送ってしまった今、マンションに戻っても不自由だし、上膳据膳の至れり尽くせりのこの場所は正直ありがたかった。


「え、コンチネンタルエリア行きは中止、なんですか?」

「そ。というよりは私の飛行機の使用が禁止なの……おじい様が心配性で」

事件の後、電話でおじい様からしばらくの飛行機禁止を言い渡された。

更にボディーガードをつけるとか言い出したりと、やめて欲しいとおじい様を説得するのが大変だった。

それでも、今は病室の外にガードマンが立っているけれど……


「コンチネンタルエリア行き自体お見合いのためだったしね」

「え!?」

イワン君の目が見開かれる。そんな顔しないで。私が好きなのはイワン君だけなのに。


なんとなく気付いてはいた。おじい様も結構な年だ。会社の人と私を引き合わせたがっているのは電話からでもひしひしと伝わってきて、向こうに帰ったら最後、離してくれないんだろうな、と思っていた。

せめてもの抵抗で、メディアに対し、「いつかシュテルンビルトに戻ってくるつもり」とは言ったが、旅行以外でそれは叶わないんじゃないかと諦めていた。


ところがヒーローTVでのアレである。

飛行機禁止の連絡とともに、こちらは気にせず恋でもなんでもして来いとお達しがあった。


「おじい様もあの中継見てたから……イワン君のおかげで私はお見合いしなくて済んだの。ありがとう」


ーー一生僕がリツさんを守りますから!!



「えっ!?」

「つまり、そういうコト」

生中継で、告白をすっ飛ばしいきなりプロポーズをされたようなものだった。

全てをまるっと本気にしたわけではないが、それでも彼の気持ちが嬉しかった。


「すみませんでした……中継が始まっているの忘れていて……でも」

でも、と彼は居住まいを正す。

「あの時言ったことは本気です。僕はリツさんのことが」

「!」

イワン君の腕にあるPDAからけたたましい呼出音が鳴った。

『ボンジュール・ヒーロー』

出動要請だ。
彼が守るのは私一人ではない。シュテルンビルト全部なのだ。

「行ってらっしゃい、イワン君」

「え、あの……は、はい!」


行ってきます、とイワン君は慌ただしく病室を出て行った。


しばらく入院するなら暇になりそうだ。
料理もしばらく出来ない。

おじい様は恋でも「なんでも」して来いと言っていた。

退院したら、何をしよう。
すぐに芸能の世界に復帰するのもなんとなく気まずい。

……ゆっくり考えてみよう。幸い時間も猶予もたっぷりあるのだから。




テレビをつけるとヒーローTVの中継が始まっていた。


「イワン君………あ!」



折紙サイクロン

公開プロポーズをイジるテロップが出た後、彼が背中の手裏剣に刻まれたスポンサードネームをアピールしようと後ろを向いた。

「おじい様ったら……もう」

ヘリペリデスファイナンスのロゴの他に私が慣れ親しんだ企業のロゴが新しく刻まれていた。



















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