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▼ もしもし、私の折紙くんは何分何秒頃ですか

『もしもし、私の折紙くんは何分頃ですか』

CEO直通携帯電話にはなにがあっても2コール以内に出るように言われている。

たとえ食事中で口にものが入ってもごついた声がだろうが、
寝起きで敬語が取れドスの効いた声だったとしても。

シュテルンビルトの金融王からの電話1本で私はネクスト能力を発動させる。

「30秒後ブルーローズの後ろ、あとは……12分後画面右下に映り込みます目印は赤いロブスターの看板です。
それから……あ、もうすぐPersonsavedでポイントがつきますドアップで映りますよ」

『さすがは私の折紙くんですね! ああ今ブルーローズの後ろに見切れました!』

CEOの弾んだ声。
私はリビングのテレビをつけてヒーローTVのチャンネルにあわせた。

『リツくん、次は?』
「えーと、あ、人命救助で映りましたね。
ロブスターの後はファイヤーエンブレムの車の後ろで見切れるみたいです」
『ふむ……はい、それから?』

能力を発動させたままテレビの画面をじぃ、と見つめる。
見えた折紙サイクロンの位置は大型トラックの前。

「大変ですCEO、ファイヤーエンブレムの後はトラックに轢かれます! 気をつけるように連絡してください! 道路に出ちゃダメです!!」

なんと、とCEOはつぶやき、慌てて他の誰かに指示を出した。

『ニノミヤさん、明日出社したら私のところに来てくださいね』

それだけ言い残し、CEOは電話を切った。

「…………」
切れた通話画面をしばらく見つめ、そしてヒーローTVを見る。

ちょうど折紙サイクロンがファイヤーエンブレムのド派手な車の後ろで見切れている。

(この後か……)

生放送のヒーローTVは数十秒の遅れで放送されている。

ヒーローTVに限らず、生放送というものは放送事故をなるべく防ごうと視聴者と生電話、などの企画がない限り30秒から2分ほどのタイムラグを作り放送している。

「……」
自分の言葉はあのヒーローに伝わっただろうか。

きっとCEOは誰か他のヒーロー事業部の誰かを通じて……いや、もしかしたら自ら出動中の折紙サイクロンに連絡を取るかもしれない。

だからきっと大丈夫。

そう自らに言い聞かせてテレビ画面を見つめる。

(間に合え、間に合え!)

「!」
スマホから呼び出し音が鳴る。
表示されている名前は、もちろんCEO

『もしもし、回避させましたよ! それで、次はいつ私の折紙くんは映りますか?』

CEOの言葉にほっと胸をなで下ろすと共に能力を発動させる。

「次……ドラゴンキッドが犯人を二人確保、もう一人をスカイハイが確保して、その後のインタビューの後ろで見切れてる感じですね。
これで今回の中継は終わりです」

そうですか、とCEOの声は楽しそうだ。
毎度毎度、ヒーローTVが始まる度にヘリペリデスファイナンスのCEOと私のこのやり取りは続く。
自社ヒーローの『見切れ』を見逃したくないがため、私は雇われている。

『では、明日必ず出社したら来るように。来なければ呼び出しますからね』

「……かしこまりました」

通話を終え、ため息をつく。
今ではなく出社してから。

まさかクビではないだろうが、何を言い渡されるのだろうかとリツはため息をついた。











昨夜 言われた通り、リツはヘリペリデスファイナンスの最上階に来ていた。
エレベーターを出ればすぐそこにはCEOの秘書がいた。

案内されるがまま部屋に入れば、既にそこには眼鏡をかけた、時間問わずヒーローに出動要請がかかると電話をかけてくるCEOと、
もう一人、金髪の少年が居た。

「やっと来ましたか、まったく、折紙くんはこんなに早く来ているというのに君ときたら……」

「……?」

いま、この人は、『折紙くん』と言ったか。

「あの……昨日はありがとうございました。 トラックに引かれそうになっていたみたいで……」
「えっ!? ええはいそうですね? 」

前髪の長い、猫背な彼はぺこりと頭を下げた。

(ま、まさか折紙サイクロンの中の人って!?)

「君を呼んだのは、他でもありません。すぐにヒーロー事業部に異動です!!」
「はい?」

くい、とCEOは眼鏡を上げた。

「良いですか、これから君は折紙くんとともに現場に出てもらいます」
「「えっ」」

私と折紙サイクロンの声が重なった。

「あなたはトランスポーターで待機で構いません、そこら辺は適宜あなたのネクスト能力に合わせて動いてください。
折紙サイクロンに迫る危険と、画面に映り込むチャンスなど予見できること全て折紙くんに伝えてください」

そういう事か、と目の前の青年を見る。
ぱっと目をそらされてしまった。

「……」
「もちろんお手当は出ますよ」

返事をしない私に、CEOは一枚の紙を秘書に渡し、秘書が私のところに持ってきた。

そこには事細かに給与のことが書かれてあった。
今までの基本給の他に、危険手当、予見的中による画面への映り込み率に対する歩合、などだ。

金額としては申し分ない。むしろこんな小娘にこれだけ稼ぐチャンスなど早々ないだろう。

「どうでしょう、悪い話ではないと思いますが」
「私は……大丈夫ですが、そうなると折紙サイクロンさんは出動中は常に私の指示に従ってもらうこと になりますよね。
かえって邪魔になりませんか」

折紙サイクロンの中の人をみると、今度は顔ごとそらされた。

「ぼ、ぼくは別に……構いません……」

(キャラ違いすぎないかこの人……)
お調子者のジャパンマニアニンジャキャラの中身は根暗。
意外だな、と出されたお茶を飲む。

「ではそういう事で。直通の回線はこちらで用意します。
ニノミヤさん、今すぐ荷物まとめてらっしゃい!出動はいつかかるか分からないんですよ!」
「かしこまりました」

かくして、私と折紙サイクロンはチームを組み、
試行錯誤を重ね、最後はシーズン最終日、ヒーロー全員がMVP圏内という所まで折紙サイクロンは頑張りを見せた。

その話はまた、あとで。




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