▼ カラアゲを青空の下で
困った。
私は高くまっすぐ天にのびる木を見上げて呟いた。
緑の茂るその枝に、白いものが引っかかっていた。
私のストールが風にあおられて飛ばされ、絶対に手の届かないところに引っかかってしまったのだ。
「慣れないことをするものじゃないわね」
ガラにもなく、お洒落なことをしてみたかったのだ。
晴れた日に公園にお弁当を持って、作りかけの千羽鶴でも折ろうかな、なんて。
やめておけばよかったのに。
ハァ、とため息をつく。花の透かしが入ったような、ちょっと変わったお気に入りのストールは諦めるしかなさそうだ。
せっかくだしお弁当だけ食べて帰ろうかと、ベンチに戻るべく踵を返すと、紫のスカジャンを来た青年がいた。
「あれ、あなたのですか?」
「ええ。飛ばされちゃったの。取れそうにないから諦めるわ」
「取りますよ」
え、と聞き返す前に彼はなんの取っ掛りもない木の幹をするすると登り、あっという間にストールのところまでたどり着いてしまった。
「すごい……」
彼はストールを取ると今度は飛び降りた。
「えっ?!」
危ない!
慌ててかけよれば彼は綺麗に着地し、何事もなかったかのようにストールを差し出した。
「あ、ありがとう! 大丈夫? 飛び降りたりして……」
「大丈夫ですよ」
「すごいのね……忍者みたい!」
忍者みたい。
彼は頬を赤くしそんなんじゃ、と否定していた。
そうだ、流石に子供っぽかったか。
「あ、これ良かったら!」
私はカバンから唐揚げのパックを取り出した。
今出来るお礼はこれくらいしかない。
「……フライドチキン?」
「そんな感じ。ニホン料理なんだけど、唐揚げっていうの。今朝揚げたばかりだからまだ美味しく食べられると思うの。お礼!」
お礼なんて受け取れない、という彼に、じゃあ半分こね、と一緒に食べた。
彼も遠慮がちに一口かじると目を輝かせて「おいしいです」と笑ってくれた。
晴れた青空の下、カラッと揚がった唐揚げはとても美味しかった。
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