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病室の前に立つガードマンに挨拶をし、ノックしてドアを開けた。

「やあリツ、面会に来たよ。遅くなってすまない」

私はベッドの横のパイプ椅子に腰掛ける。
リツを病室に運び込んで一週間、彼女は一命を取り留めたがまだ目が覚めない。

ワイルド君が言うにはジャスティスタワーで彼の怪我を直したのはリツらしい。
バーナビー君が言うにはリツはH-01に切られる前にネクスト能力を発動させたらしい。

三度までと彼女の体を慮り決めていた回数を大きく超えての使用。
それがケガと相まって目が覚め無いのではないかとドクターは言っていた。
ネクスト能力の使用過多による意識混濁、喪失は症例が少なくいつ意識が戻るのか、そもそも戻るのかどうかすらわからないといわれてしまった。



今はシュテルンビルトのどこを飛んでも、修理をしている君の姿を、光を見ることは無い。
トレーニングセンターで君に会うこともない。

こうして会いに来ても声を聞く事も出来ない。

「リツ」



時間を戻すことが出来たなら、ジェイク事件の後の私を殴りたい。
ベッドに寝ている場合ではない。
体を引きずってでも止めに行け、彼女に辛い選択をさせてはいけない。

彼女はどんな思いで選択をしたのだろう。
どんな思いで病院から消えたのだろう。

スタジアムは君がいなくても綺麗に直ったよ。
街の支柱も元通りになった。

ワイルド君の事を犯人と勘違いさせられた、
マーベリックとロトワングの一件のあとのジャスティスタワーも綺麗に補修されたよ。


君が一番気を揉んでいたワイルド君は引退してしまったよ。
もう壊し屋はいない。
私たちもたまに街を壊してしまうけれど、少しリツの仕事が楽になるかもしれないね。

ああ、それだと夜君を見つける楽しみが減ってしまうね。

ルナティックは相変わらず現れるけれど、なんとか犯人を守りきっているし、
みんなそれぞれヒーローとして活動を続けているよ。

だからリツ、早く目を覚ましてくれ。

願いを込めてきゅ、とリツの手を握った。











手が、暖かい。

誰かに触れている。

誰か、の情報が流れ込んでいる。

右肩に私が施した治療の跡がある。
これは、遊園地の時の、怪我

この血管の形は、メディカルセンターのCT画像で見たことがある。

この骨格は男性。

現在、涙を流している。

「リツ」

この人を知っている。

この人は手のひらに擦り傷がある。

この人の怪我を治さなくては。


「リツ?」

キースさん、だ。
会いたい。

キースさんに、会いたい










リツの体から青い光が滲み出てきた。
弱々しくて、よく目を凝らさなければわからない。


「リツ?」



声をかければ握っていた手がゆっくりと弱々しく握り返された。

「!」

とっさにナースコールを押す。

リツ、君は何をするつもりなんだい?










医師や看護師に取り囲まれ、程なくしてリツは目を開けた。

ぼうっとしていたが、自分の名前、生年月日、職業を正確に言うことが出来たらしい。

今日の日付だけは違ったが。


「そうですか、タイガーさん引退しちゃったんですか」
医者や看護師が病室から出ていき、二人きりになるとリツは口を開いた。

……他に言うべきことがあるんじゃないかい、リツ。

まだ体を起こすことが辛いらしく、横たわったまま彼女は話す。

「でも、みなさん助かって本当に良かったです」
「リツも起きてくれて本当に良かったよ」

包帯の巻かれた額に触れないようそっと頭をなでた。

「あの……キースさん、お風呂入れてないのであまり触られたくないというか」
「嫌だ」
「……」
本当ならば抱きしめたいくらいだ。

「一年前、病室で私が言ったことを覚えているかい」

一年前、ジェイク事件の後の病室で。
あの時も病室だったな、と苦笑いがこみ上げる。

リツも思い出したのか頬に朱が差した。

ベッドに座るリツを抱き寄せて好きだと伝えてからもう一年が経つ。

「一年経っても私の気持ちは変わらないよ。
今回私がワイルド君のことを思い出す前にリツが言ってくれたことを合わせるならば、
私たちは両想いという事になるね」

「ーーはい」

リツは真っ赤な顔で微笑んだ。

頬に貼られたガーゼや包帯が痛々しいが、それでも照れて笑うリツがとても可愛らしくて。

「ーーっ!! ああ神様!!」
思わず顔を覆って天井を仰ぐ。


「え? スカイハイ?」
「好きだ! ずっと一緒にいてくれ!」

もっとリツの顔が見たくて、近づきたくて、けれども抱きしめることは出来ないので、リツの顔の横に手をつき、
リツの体に体重をかけないよう慎重に身を屈める。


「ちょ、ちょっとスカイハイ、私お風呂入ってないからあんまり近づかないでっ」
「スカイハイじゃなくて名前を呼んでくれ」

「あ……ごめんなさいキースさん」
「さんもいらないと前にも言ったよ」

「……キース……」
「なんだいリツ」
「は、離れてください」
「いいじゃないか私たちはもう恋人なのだから」

ちゅ、とガーゼを避けて頬にキスをすれば、ふい、と顔を背けてしまった。

「顔を見せて、リツ」
「む、むりですっ」

仕方なく名残惜しいが体を離す。
「リツ」
「はい」

呼びかけて、返事が返ってくる。
リツが目を覚ますまで毎日病室に通い、毎日呼びかけた。
呼びかけて返事が返ってくることがこんなに嬉しいことだとは。

「リツ」
「はい?」
「退院したらデートしよう。」

約束を覚えているだろうか。
ジェイクとのセブンマッチに向かう前にした約束を覚えてくれているだろうか。
一年も経てば忘れてしまったかな。

「そうですね、約束してましたしね」
「!」

リツも覚えていてくれたことがとても嬉しい。

「楽しみにしてるよ、早く体を治して」
「はい。 すぐ治りますよこの程度なら「ああでも能力を使うのは無しだ! それは危険だ!」
「え、大丈夫ですよキースさん」
「さんはいらないよ。 とにかくダメだ! また意識がなくなったら……」

またリツが眠ってしまって目が覚めなくなったら。
そんな恐ろしいことは絶対に嫌だ。

「!」

腕のPDAが震えた。

『ボンジュール・ヒーロー』

「すまないリツ、もっと一緒に居たかったのだが……」
「いってらっしゃい、キース」

「行ってくるよ。すぐに片付けてまた戻ってくるから。ああ、みんなにも意識が戻ったと知らせてくるよ!!」

最後にひとつ唇にキスを落として身を翻す。
真っ赤になったリツの顔は多分一生忘れられない。

きっとみんな喜ぶだろう。

良い知らせが二つもあるのだから。







2016.12.12 完結


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