「バカって・・・」 「バカはバカ!!」 なまえの瞳には涙が溜まっていた。 「みんなとアタシは違うんだもん」 「何が?」 「・・・・・・」 「何も違わないだろう?」 「違うもん」 「・・・なまえ?!」 「・・・まが。」 「え?」 「他の子はみんな、ママが来てる!」 『ママ』という言葉に、ココは絶句した。 彼女が両親と引き離された日。それから今まで一度も、こんな形でその単語が出る事は無かった。 増してや、その単語に自身を否定されるなんて事は、一度も。 ココの目線と顎が、自然と下がる。 そんなココに向かって、畳み掛けるようになまえの言葉が続く。 「こっちの学校はみんなママが来るの。凄く綺麗な傘で。お揃いの傘だって自慢する子もいるの」 「・・・・・・」 「ココはママじゃないから・・・。だからお迎えに来ないでって言ったの」 「・・・・・・」 「言ったのにあんな早く来て!それに、あんな・・・黒い傘で!」 無言のココを前に、なまえの口は止まらなかった。 堰を切ったように溢れ出た今日のココへの『不満』。 言えばココが傷つく事は分かっていた。分かっていたからどうにかごまかして部屋に戻りたかったのに。分かっていたのにココが逃がしてくれなかったから。でも、分かっている。本当に言いたい事は、そんな事じゃない。だけど本当の事は、言えない。 なまえは大きく息を吐いた。 「・・・だからいいって」 「・・・・・・」 「だから、もう来なくていいって言ったの。」 「・・・ボクじゃ、駄目なんだ」 必死に震えを押さえた口で、ココは早口で言った。その零れ落ちたような言葉に、なまえは唇を開かなかった。 「・・・分かった」 核心以上の気持ちを突きつけられたココは、その一言を返すのが精一杯だった。 『こないだなまえちゃんを迎えに来た人って、パパじゃないんだよね?』 『そうだけど、何で?』 『お兄さんでもないんでしょ?』 『うん』 『親戚?それともお手伝いさん?』 『そんなんじゃないよ』 『じゃあ、誰?』 『ココはココだよ』 『家族じゃない男の人?』 『・・・うん』 『それって血が繋がってないって事?』 『何で急にそんな事聞くの?』 『だって、ママに話したら、おかしいって』 『何がおかしいの?』 『だって家族じゃない人は迎えに来ちゃいけないんだよ』 『うちも、変だって』 『・・・変?』 『他人と一緒に住んでる訳無いって』 『だって・・・』 『私のママは、かわいそうね、って言ってたわ』 『かわいそう?アタシが?』 『何で?』 『あのさ?なまえちゃんって、パパもママもいないってホント?』 『え、そうなの?』 『・・・・・・』 『そっかだから他人の家で暮らしてるのね』 『普通は家族じゃない人と一緒に暮らさないよね』 『・・・・・・』 『ねぇ、ホントに、その人と二人暮らしなの?』 『・・・・・・』 ← → ←目次 |