二人、青い空をひらいて・4






「バカって・・・」
「バカはバカ!!」

なまえの瞳には涙が溜まっていた。

「みんなとアタシは違うんだもん」
「何が?」
「・・・・・・」
「何も違わないだろう?」
「違うもん」
「・・・なまえ?!」
「・・・まが。」
「え?」
「他の子はみんな、ママが来てる!」

『ママ』という言葉に、ココは絶句した。



彼女が両親と引き離された日。それから今まで一度も、こんな形でその単語が出る事は無かった。
増してや、その単語に自身を否定されるなんて事は、一度も。
ココの目線と顎が、自然と下がる。
そんなココに向かって、畳み掛けるようになまえの言葉が続く。

「こっちの学校はみんなママが来るの。凄く綺麗な傘で。お揃いの傘だって自慢する子もいるの」
「・・・・・・」
「ココはママじゃないから・・・。だからお迎えに来ないでって言ったの」
「・・・・・・」
「言ったのにあんな早く来て!それに、あんな・・・黒い傘で!」

無言のココを前に、なまえの口は止まらなかった。
堰を切ったように溢れ出た今日のココへの『不満』。
言えばココが傷つく事は分かっていた。分かっていたからどうにかごまかして部屋に戻りたかったのに。分かっていたのにココが逃がしてくれなかったから。でも、分かっている。本当に言いたい事は、そんな事じゃない。だけど本当の事は、言えない。
なまえは大きく息を吐いた。

「・・・だからいいって」
「・・・・・・」
「だから、もう来なくていいって言ったの。」
「・・・ボクじゃ、駄目なんだ」

必死に震えを押さえた口で、ココは早口で言った。その零れ落ちたような言葉に、なまえは唇を開かなかった。

「・・・分かった」

核心以上の気持ちを突きつけられたココは、その一言を返すのが精一杯だった。







『こないだなまえちゃんを迎えに来た人って、パパじゃないんだよね?』
『そうだけど、何で?』
『お兄さんでもないんでしょ?』
『うん』
『親戚?それともお手伝いさん?』
『そんなんじゃないよ』
『じゃあ、誰?』
『ココはココだよ』
『家族じゃない男の人?』
『・・・うん』
『それって血が繋がってないって事?』
『何で急にそんな事聞くの?』
『だって、ママに話したら、おかしいって』
『何がおかしいの?』
『だって家族じゃない人は迎えに来ちゃいけないんだよ』
『うちも、変だって』
『・・・変?』
『他人と一緒に住んでる訳無いって』
『だって・・・』
『私のママは、かわいそうね、って言ってたわ』
『かわいそう?アタシが?』
『何で?』
『あのさ?なまえちゃんって、パパもママもいないってホント?』
『え、そうなの?』
『・・・・・・』
『そっかだから他人の家で暮らしてるのね』
『普通は家族じゃない人と一緒に暮らさないよね』
『・・・・・・』
『ねぇ、ホントに、その人と二人暮らしなの?』
『・・・・・・』







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