王子はその髪を翻して 1





オレは、どこか遠くにある国の、王子。
白い馬に乗って、マントを翻して。
颯爽と風を切って、平野を駆ける。
悪い魔女やドラゴンに、華麗に立ち向かう。
そんな、強くて、かっこ良くて、美しい、所謂『王子様』だ。



「ねぇ、お兄ちゃんは、王子様なの?」


そんな言葉を掛けられたもんだから、つい。
つい、昔の事を思い出しちまった。




「そう、オレは。
どこか遠くにある国の、王子なんだし。」

赤ん坊の頃に、悪い魔女に攫われたんだ。
それで、7歳だったかな?それまで魔女の城に閉じ込められてた。
何でそんな事を知ってるかって?だって、魔女がくれた絵本にそう書いてあったんだ。
え?魔女って本当にいたのかって?
そんなの当然いたし。だってちょっと前まで、オレの目の前にいたし。
ほら、『ヘンゼルとグレーテル』だし。お菓子の家の魔女、子供を捕まえて食べようとしてただろ?あれと同じなんだよ。オレを攫った魔女は、お菓子の代わりに絵本をたくさんくれたんだし。
でもってたまにオレの様子を見に来て、『身体の調子はどう』って聞いてよ?『そろそろ食べ頃か?』って考えてたんだぜ。
だからオレはいつも魔女に『元気じゃない』って答えてた。お陰で魔女はオレを食べなかったし。
それで、そのままずっと食べられなかったら……いつか、王子様ってやつが助けに来てくれると思ってたし。
トラワレの姫は、王子様が助けに来てくれただろ。何だっけ?あ、『眠れる森の美女』だ。
だからオレも、待っていたら王子様が来ると思ってた。
でも魔女が居なくなった時、オレの所に来たのは、王子様じゃなかったし。
…それはきっとオレがこんな身体だったから。だから王子様は助けに来てくれなかったんだ。








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