オレは、どこか遠くにある国の、王子。 白い馬に乗って、マントを翻して。 颯爽と風を切って、平野を駆ける。 悪い魔女やドラゴンに、華麗に立ち向かう。 そんな、強くて、かっこ良くて、美しい、所謂『王子様』だ。 「ねぇ、お兄ちゃんは、王子様なの?」 そんな言葉を掛けられたもんだから、つい。 つい、昔の事を思い出しちまった。 「そう、オレは。 どこか遠くにある国の、王子なんだし。」 赤ん坊の頃に、悪い魔女に攫われたんだ。 それで、7歳だったかな?それまで魔女の城に閉じ込められてた。 何でそんな事を知ってるかって?だって、魔女がくれた絵本にそう書いてあったんだ。 え?魔女って本当にいたのかって? そんなの当然いたし。だってちょっと前まで、オレの目の前にいたし。 ほら、『ヘンゼルとグレーテル』だし。お菓子の家の魔女、子供を捕まえて食べようとしてただろ?あれと同じなんだよ。オレを攫った魔女は、お菓子の代わりに絵本をたくさんくれたんだし。 でもってたまにオレの様子を見に来て、『身体の調子はどう』って聞いてよ?『そろそろ食べ頃か?』って考えてたんだぜ。 だからオレはいつも魔女に『元気じゃない』って答えてた。お陰で魔女はオレを食べなかったし。 それで、そのままずっと食べられなかったら……いつか、王子様ってやつが助けに来てくれると思ってたし。 トラワレの姫は、王子様が助けに来てくれただろ。何だっけ?あ、『眠れる森の美女』だ。 だからオレも、待っていたら王子様が来ると思ってた。 でも魔女が居なくなった時、オレの所に来たのは、王子様じゃなかったし。 …それはきっとオレがこんな身体だったから。だから王子様は助けに来てくれなかったんだ。 → |