メビウスの指輪・1 1






蒼衣が死んだ。



IGOの検査室で検査を終えた直後、薬剤の投与で眠っている最中の事だった。
何がそれを引き起こしたのか。いつも通りの眠りの途中、彼女の魂はふとその身体を脱ぎ捨て、そのまま戻らなかった。
蒼衣が気持ち良く目覚める事ができるように、蒼衣の好きなあの花を摘んで枕元に飾ろう。
そう思ってココが病室を抜け出たほんの少しの間の出来事だった。


ココはベッドに横たわる蒼衣を、ただただ眺めていた。
『容態が急変したのは』『投与した薬の作用が』『心拍の異常値が』と、IGOの医師が数人、ココの後ろから彼を取り囲むように立ち、話す。
医師達は皆、恐れていた。
彼を。彼が起こすであろう最悪の事態を。
皆が皆、言い逃れのように過去のデータやら検査の結果、彼女の欠陥を口々に話していた。話していたが、一人としてココに近づく者はいなかった。
ココはそんな医師たちの言葉を、眉一つ動かさず、静かに聞いていた。
……ココの手には、蒼衣の好きなあの花が握られていた。
枕元に飾るはずだった花は時の流れに逆らえず、徐々に萎れていく。
それでもココは微動だにせず、蒼衣の横顔を見つめていた。








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