言われた通りに体育館へとやってくると、中からはけっこうな人数の声が溢れている。その中には円堂くんのものと思われる声も含まれていてすこし安心する。
サッカー部の人たちーーそれも他校からも集まってるーーと聞いてはいたが、知らない人ばかりだと緊張してうまく喋れないだろう。
円堂くんがいるなら秋ちゃんもいるはずだ。


「秋ちゃーー」


呼び慣れた親友の名前を口にしながらドアに手を伸ばすが、私の手がそこに届くより先に、中からドアが開けられる。 
その瞬間、視界いっぱいに肌色が飛び込んできた。


「きゃあああああっ!」
「ん、よこうちじゃねえか!久しぶりだな」
「え、つ、綱海さん?!なんで雷門に…………じゃなくてなんで上着てないんですか!」


数ヶ月ぶりの再会を喜ぶべきなのかもしれないが、この状況に頭がついていかない。
沖縄にいるはずの人が雷門にいて、しかも上半身裸で体育館から出てきたら誰だって驚くだろう。これが綱海さんじゃなく知らない人だったら、通報していたかもしれない。


「いや、俺の分のユニフォームがなくてよ。そこらに落ちてないかと」
「どういうことなんですかそれ…………」


当然私の周りにもユニフォームは落ちてない。困ったように頭をかく綱海さんを見ていると、こっちもどうしていいのか分からなくなる。

すると騒ぎに気づいたのか、その後ろから春奈ちゃんがぱたぱたと慌てて駆けてくる。


「みき先輩!その手にあるダンボール……!」
「あ、これ?体育館に持っていくように言われて来たんだけど」
「それ探してたんですけど、どこにありました?!」
「一年校舎にあったよ」


どうやらこのダンボールの中身は、綱海さんが探していたユニフォームのようだ。体育館へ持ってきたつもりで探していたなら、さぞ見つからなかったことだろう。がっくりと肩を落とす春奈ちゃんはすっかり疲れきっている。

箱を開けると綺麗な青をしたユニフォームとジャージが詰められている。


「おお、これだこれ!立向居、ユニフォームあったぞ!」


それを二つ掴むと、綱海さんは立向居くんの名前を呼びながら体育館の奥へと去っていってしまった。


「立向居くんもここにいるの?他校の人がいるとは聞いてたけど、随分遠くからも集まってるんだね」


てっきり近場の傘美野や尾狩斗あたりだと思っていたがそうではないらしい。
福岡や沖縄からも人を集めるなんて、いったい何をするのだろうか。謎はどんどん深まるばかりだ。


「それがですね先輩ーー」
「みき?」


謎の真相を遂に春奈ちゃんから聞けると思ったそのとき、別の方向から名前を呼ばれる。顔を見なくても分かるその声の主。どきりと胸が高鳴ると同時に、足は知らず知らず一歩下がっていた。


「ご、ごめん春奈ちゃん……私もう行くから」


翻した背中に驚く春奈ちゃんともう一人の彼の台詞が飛んでくる。
目も合わせずに逃げるなんて、もしかして嫌われてしまっただろうか。もしそうじゃなくても傷つけてしまったに違いないだろう。だって今どんな顔をして、何を言えばいいのか全然分からない!


「みきっ!」
「じ、次郎くん……離して……」
「離したら逃げるだろ?なんで逃げるんだ」


精一杯走ったけど、相手はサッカー部の強豪校の一員なのだ。校舎裏まで来たところであっさりと追いつかれてしまう。

先輩に他校からも人が集まっていると言われたとき、真っ先に頭を過ぎったのが次郎くんだった。
好きだと、告白された日以来、彼とは会っていない。ようやく学校が再会されて忙しかったというのもあるが、どうしていいのか分からないというのが一番の理由だった。


「ちゃんと俺を見て、」


どうしようもなく地面に視線を落としていると、私の腕を掴んでいるのとは逆の手で顔を上向かされる。
おかげで必死に隠していたのに、真っ赤に染まった頬が陽の光の元に晒されてしまった。

久しぶりに見た次郎くんは前に会ったときよりすこし髪が伸びた気がする。体にはあの鮮やかな青をしたユニフォームを身に纏っていて、いつもの帝国ユニフォームを見慣れている私からするとすごく新鮮で、またひとつ胸がうるさくなる。


「わ、私、頭の中ぐちゃぐちゃで……次郎くんとどんな顔をして会っていいのか分かんないの、あれからずっと次郎くんのこと考えてばっかりで……」


逃げてごめんなさい。そう続くはずだった言葉はうまく音にならなかった。

突然引き寄せられ、抵抗する間もなく私の体は次郎くんの胸の中に収まってしまったのだ。

「つまりそれってみきが俺のこと意識してくれてるってことだよな。…………すごく、嬉しい」


前にも次郎くんにこうされたことがある。あのときは何も思わなかったけど、次郎くんの私への想いを知ってしまった今では心臓がうるさくてかなわない。
次郎くんはいつから私のことをそう思っていてくれていたのだろう。頭に残った冷静な部分が、そんなつまらないことを考え出していた。

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