土曜日の午後といえば、普段なら部活、なければ友達と出かけたり、趣味に費やしたりと、暇する時間なんてない。
はずだったのに、近頃の私の休日の過ごし方といえばひどいものだった。
部活にはちゃんと行くが、それ以外の時間は部屋でぬいぐるみを抱きしめ、壁の向こうを眺めている。

人生ではじめての告白をされたあの日から、ずっと考えてる。自分は次郎くんになんて返事をするつもりだったんだろう。

ーーわ、私は……次郎くんのこと……、
ーー今すぐ答えは出さないでくれ。みきが断るつもりでも、俺に時間をくれ。絶対にみきを振り向かせてみるから。
ーー次郎、くん……?

あのとき次郎くんが遮らなかったら、なんと言っていたのだろうか。次郎くんのことは嫌いじゃない、もちろん大好きだ。ただそれが恋愛感情の好きかと言われたら分からない。だってまだ中学二年の子供だ。周りにはすでに付き合っている子もいるけど、自分とは無縁のものだと思っていた。


「私は次郎くんのことが……」


胸に手を当て、静かに自分の気持ちを探し出す。あのとき私の胸はどうなっていたんだろう。少女漫画でよく見るように、はちきれんばかりに高鳴ったのだろうか。
もう何度目か分からないその作業を繰り返していると、電池の切れかけた携帯が着信を知らせてくる。設定したものよりいくらか煩く聞こえるそれを慌てて掴み、名前も見ずに電話に出た。







急いで学校に集合。短く伝えられた指令を遂げるために慌てて来たが、私に肝心のそれを伝えた先輩の姿がない。
ただ一年校舎に人がえらく出入りしているのが、校門を潜ったばかりの私にも分かる。皆、一生懸命に荷物を運んでいる。生徒に紛れて業者らしき人の姿もちらちらと。


「あ、宮坂くん!」


その中に一人、見慣れた背中を発見する。
声を上げると向こうも気づいてくれたのか、荷物を両手に抱えたままこっちに駆けてくる。


「よこうち先輩!どうしたんですか、こんなところで」
「チア部の先輩に呼ばれて来たんだけど……なんか忙しそうだね」
「僕も先輩に呼ばれて来たんですけど、なんか教室を移すらしくて。今いろんな人が呼ばれてますよ」


間もなく夏期休暇を迎えるこんな時期に教室移動?
人数の問題と、小学校から上がってきた子が環境に慣れるようにとの配慮で校舎こど別だった一年生の教室を今から他の学年と同じ校舎へ移すなんて。恐らくなにか事情があるに違いない。そして、私が先輩に呼ばれた理由もこれだろう。


「重そうだね。半分持つよ」
「いえ、僕一人で大丈夫です。これでもけっこう力があるんですよ?先輩はそれよりもあっちを手伝ってあげてください。まだ色々残ってますので」
「そう?なら私は向こうに行くね。ありがとう」


出入り口に大量に積まれたダンボールには、生徒のものであろう教科書がぎっしりと詰まっていた。宮坂くんが運んでいたのはこれか。なかなかに腰にきそうである。
廊下には教室から出された机と椅子が所狭しと並べられ、見るだけで手伝う気力を根こそぎ奪っていく。これを全部運ぶとすれば大変だ。


「あ、やっときたかよこうち」
「先輩!ここにいたんですか……」


その荷物の中から顔を出した人こそ、私の探していた先輩だった。なにか大掛かりな作業をしているのか、先輩の片手にはベニヤ板が握られている。


「どういうことですかこれ?とりあえず私も荷物を運んだらいいんですよね……」
「そうそう。どうやらサッカー部の奴らがなんかやるらしくてさ、朝からこれだよ」


プリントを提出しに偶然学校に来ていたらこれに捕まったらしい。疲れ果てた人が周りに助けを求め、またやってきた人が別の人に助けを求め……ここの人はそうした負のスパイラルで集まったようだ。それでもまだ作業は終わりを見せないのだから恐ろしい。

サッカー部の皆はいったい何をするのだろう。校舎を丸ごとどうにかするなんて、ここに室内練習場でも作ると言うのだろうか。


「他校からも今来てるらしくて……本当に何をするんだろうねえ」
「え?」


その言葉にどきりとする。


「あ、ちょうどいいや。よこうちあんたサッカー部と仲良かったでしょ?これ届けてきて」
「…………なんですかこれ?」
「中は知らないけど、さっきサッカー部のマネージャーがひとつだけ忘れていったんだよね」


手渡されたのは中くらいのダンボール。そこらにあるものと比べると中は軽いことから、どうやら教科書が詰まっているわけではないらしい。
しばらく首を傾げていると、疲れて気の短くなった先輩に部屋から蹴り出される。

サッカー部が集まって、それも他校からも……校舎を改造することって……。やっぱり何度考えても答えにたどり着く気がしない。

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