BLUE



神室町から少し離れた閑静な住宅街。

けれども、すぐ傍には首都圏につながる国道が
通っているこの場所は、

都心へのアクセスも良く
所謂高級住宅地として名前が知れている様な処。


如何にもな、デザイン性と
住みやすさを兼ね揃えたマンションは数多いが
その中でも、色々な意味で一際高いそれの、

高層階に秋山の自宅はあった。



自宅で寝泊まりすることは余り多くはないけれど

職業柄、身なりには多少
気を使わなければいけないので

ほとんど、着替えとシャワーの為だけに、
この部屋を借りていると言っても過言ではない。



いつも通りの支度を済ませて、
家具らしい家具のないリビングを通り抜けて、

無駄に広くてやっぱりなにもないバルコニーで
一服しようと、灰皿代わりに
コーヒーの空き缶を手にしたところで、

聞き慣れないインターホンの音が部屋に響いた。


…ピーン、ポーン


思ったよりも低い音のインターホン。
思わず秋山は首を傾げた。


この部屋で過ごした時間は確かに少ないけれど

オートロックのこのマンションは
来訪者は、まずエントランスで呼び出すはず。

その時の呼び出し音はこんな音だっただろうか。



ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン



そんな事を考えていたら痺れを切らしたのか、
インターホンを鳴らす誰かはついに連打し始めたらしい。


一体誰が…?

ああ、そうか。
そういえば我が家はモニター付きのインターホンなのだから、
それを見れば来訪者の正体がわかるではないか。


思い立ってから、はて、そのモニターはどこに設置されているのだったかなと
秋山は思考を巡らせた。



そんな秋山のマイペースぶりに来訪者は遂にドアを直接叩くという暴挙に出た。

こんな風に乱暴に家のドアがノックされるなんて
なんだか昭和だなあ、なんて思いながら

秋山は苦笑した。

なぜなら、ついでに聞こえてきた声は
よく聞きなれた、透子の声だったから。



「あーきーやーまーさーん!」


「あーそーびーまーしょー!」



ガチャリ、とようやく開けたドアの向こうには
透子と谷村の姿があった。


「よう、お二人さん。どうしたの、急に。」




ニヤリと笑う透子に、
そこはかとない不安を感じながら

秋山は尋ねた。



「海、行こう!」



秋山の問いの答えは、
彼の想像を遥かに超えていた。


平日だというのに、公務員と会社員であるはずの2人は、スーツではなく、かなりラフな私服。

透子に至っては足元は裸足で、
涼しげなサンダルを装備している。


そして谷村は怠そうなのはいつもの事だけれど
良く見れば若干、目が充血しているし

そこに透子の妙に高いテンションを鑑みると
自ずと答えは導き出せた。


「もしかして、なんだけどさ。ふたりとも夜勤明けって感じ?」


その一言に、透子はハイテンションに「せーいかーい!」と答える。
その横で谷村は、ハーフパンツのポケットに手を突っ込んだまま大きな欠伸をした。

その言動で大体の状況を把握した秋山は
とりあえずこれ以上、玄関先で騒がれるのも近所迷惑だし、と2人を部屋へ招き入れた。



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