「…うーわー、秋山さん家って、めちゃくちゃ何もないね。スカイファイナンスみたいに、とっちらかってるのかと思ってた。」
「自宅にはあんまり物を置かない主義なのよ、俺は。そもそもあんまりここには居ないしね。」
初めての秋山宅訪問に透子はキョロキョロしながら部屋を見渡す。
その横で何度か来たことがあるのだろうか、勝手知ったる風の谷村がリビングから廊下に出る。
「谷村、こっちに来いって」
はた、と気づいて谷村がちょうどその扉に手をかけたところで秋山が制止の色を強くして声をかけた。
その声に谷村はいたずらが見つかった少年のように、
ちぇっ、と舌打ちをしてしぶしぶリビングへと戻ってくる。
「そっちは何の部屋なの?」
「秋山さんの寝室。リビングと違って、オトコの生活感丸出しの。」
ニヤニヤと頭の後ろで両手を組んだ谷村が冷やかすように言うと透子が苦笑した。
「でもベッドがむちゃくちゃフカフカで俺は気に入ってんの。」
「え、そんな寝心地いいベッドあるのに事務所の硬ーいソファでばっか寝てる秋山さんってやっぱりMなの?」
「やっぱりって何よ。そんなことよりお二人さん、ここに来た目的を忘れちゃいないか?」
キャッキャと騒ぐふたりに、
先程手にしたままの缶を持って顎でバルコニーに出ようと指し示す。
まだ昼前の日差しは暑すぎないけれど
これから太陽が真上に昇る頃にはきっと
アスファルトはジリジリと悲鳴をあげるだろう。
それでもまだ過ごしやすい風の吹くバルコニーは
3人を爽やかな気持ちにさせる。
それぞれ大きな伸びをして、
お気に入りの銘柄の煙草を咥えた。
「で、なんでまたいきなり海?」
「なんかこうも真夏日とやらが続くと夏!って感じするじゃない。
そんな時に夜勤明けで偶々、谷村さんに遭遇しちゃったもんだから。」
「こっちは徹マン明けで久々の非番だっつうのに、
変なのに捕まっちゃったわけ。」
「成る程ね。それで俺まで巻き込まれたと。
でも、俺は君らと違ってお休みじゃないのよ。」
大方予想通りの成り行きに、
秋山が頷いて紫煙を吐いた。
「そこは抜かりなく。ちゃんと花ちゃん買収して秋山さんのお休みの許可は貰ってきてるから。」
勝ち誇ったようにピースサインを秋山に向ける透子の笑顔を眩しく思いながらも、
彼女の薄化粧の下には
多少の日々の疲れを感じ取れる。
谷村を見やれば
彼は相変わらず欠伸を我慢することもなく、
時折、眠たそうな瞬きを繰り返していた。
「ふぅん、そこまで用意周到とは恐れ入った。
でも今の時期行っても流石にまだ海、入れないでしょ。」
その言葉に、はた、と我に返ったような透子。
秋山が肩を竦めながら、どうする?と問いかけた。
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