静臨+津サイ
ハッピーエンドになりました。








「…さあ、始めよっか」

新羅はそう言ってレンズ越しの瞳を、俄かに細めさせた。













「…新羅って空気読めない」

「しんらくうき読めない?いざやくんはくうき読めるの?」

ずび、と泣いていたせいか鼻を啜る臨也と意味の理解してないサイケが「すごーい」と言う先程とは違うおちゃらけた声が交互に交わる。そんな二人を眺めながら何処かホッとする感覚とドア近くで放置された二人を哀れむ感情とを頭で巡らせながら新羅は臨也の隣へと座る。

「取り敢えず、腕出して」
「…はい」
「あー…あと、サイケは離れてね。針先がずれたら大変だから」

差し出された腕の裾を捲り上げ晒された素肌に新羅は針を宛がい、いつまでもくっついてるサイケを離れさせる。

「もう大変だったんだよー、計算してる間にサイケは君のとこに向かうし、まあ結論出たからそれでいいけど…でも最後はちゃんと臨也にやってもらうからね」

「流石だね、新羅。すっごい複雑にしたのに解けるなんて尊敬を送らせて頂こう」

「私を誰だと思ってるんだい」

淡々と交わされる言葉にサイケは分からず首を傾げるも、ドア近くで突っ立ていた津軽が何かを言いたげに二人に視線を向けた。

「…ちゃんと直るよ、サイケは」

視線に気づいた臨也が津軽の水色の瞳を見遣り微笑する。静雄ももう何ヶ月も見なかった本当の笑顔で。

「……本当に臨也の心は読めないよ。あの時の君の心情では考えられないことだ。…まさか逃げ道を用意してたなんてさ」

「逃げ、道?」

「君達が臨也と静雄の細胞で構築されてるのは分かるよね、血液もまた然りなんだ。君達が人間らしく生活出来るのもここに原点が置かれる。僕も最初は気づかなかったんだけどさ、そこを含めてもしかしたらと思って調べてみたんだよ。そうしたらやっぱり。動力となる部位とは違って血液の循環が予備の動力源になってた。だからいまもこうしてサイケは動いてるってワケ」

「つまり、は…助かったのか?」

「ううん、それは違う。君の歌声がサイケの脳で変換できなかった原因が、血液だったんだ。そこを汚染したみたい。多分静雄の血を混じり込ませたと思うんだけど…。ああ、でも安心して、逃げ道があるって言ったでしょ?汚染された血液を戻す解毒剤の役割が臨也の血にあったみたい。だから今から臨也の血液をサイケに輸血すれば万事解決とはいかないけど、治るよ」

「あ、あぁ……?」

「新羅、説明長すぎて津軽理解出来てないよ。…つまり俺の血をサイケに輸血すれば現時点の対処は出来るってこと。後は熱で溶けた動力を司る部位を直せば文字通り助かるよ」

長々しい説明をされ流石に分からなかった津軽を少々静雄みたいと感じながら臨也が簡単に言ってやると、津軽は表情を緩める。
臨也はそんな彼を眺めると、針の刺さる腕を一瞥して小さく口を開いた。


「………津軽、ごめんね」
「…臨、也」
「…言ったこと全部嘘だよ。人形なんて一度も思ったことない。君達も俺も全然変わらない。寧ろ君達の方がよっぽど人間らしいよ」
「…………」
「謝罪しても許しなんて貰えるなんて思わないよ、それ程俺は酷いこと…したからね。でも…ごめん」


きっと後悔してるのか、俯きがちに臨也は紡ぐ。腫れた瞳を細めさせ、ちゃんと現実と向き合おうと震える声で謝罪する。
津軽は無言のまま言葉を濁らせているとピンク色の瞳と視線が合った。声には出さないもののサイケの唇が微かに動く。──そうだよな、津軽は胸を撫で下ろしゆっくりと緩ませた口元に笑みを浮かばせた。



「……許すよ、」




















「ねえ、つがる」
「なんだ?その前にあんま動くなよ」

ベッドに横たわりながらサイケは楽しそうに片手を天井に向けて伸ばす。届く筈はないのに何処か清々しげに目を和らげて。

「ちゃんとなおったらね」
「ああ」
「また、ききたい」

点滴を受けてる割にはしゃぎそうなサイケを押さえながら津軽は困ったように、でも嬉しそうに相槌を打つ。

「ちゃんと、なおったらな」
「うん!やくそく!」

サイケの頭をやんわりと撫でて幸せだと感じ、きっと治ったならば直ぐに騒いで子供みたいに笑う姿を想像し津軽は瞼を閉じた。




つがる、つがる、

またこの声が届くんだね、そう言って笑った俺の頭を優しく撫でてくれる。

つがるの手が、大好き

もう聴けないと思ってた
もう聴けないと諦めてた

今度はきっと最後迄ちゃんと聴くよ

本当はね、本当はね
怖かった

俺も臨也と一緒の嘘つき


でも、歌ってくれる?


「おれは、つがるもいざやくんもだい好きだよ」












contrast dream 4














「ねえ、シズちゃん」

黒革のソファーに臨也は両膝を抱える体制で座りながら、何週間振りに訪れた空腹を紛らわせるように珈琲を飲み下す。新羅は津軽とサイケに付き添っていたので今この空間には臨也と静雄、ただ二人だけだった。
正直、どう話し掛ければいいのか分からず黙り込む静雄と同じく無言だった臨也のせいか、もう一時間は気まずい静寂が続く。
だけどそれをぶち壊したのは臨也だった。

「……臨也」
「俺たちさぁ…やり直せるかな」

何ヶ月振りに聞いただろうか、前の彼と同じ、凛と響く声に静雄は肩を僅かに跳ねさせる。

「…それともシズちゃんは、俺とやり直すのは嫌だった?」

「…そ、んなわけ、ねえだろ…!」

皮肉めいた笑みで首を傾げる臨也に戸惑いを感じるも否定を述べれば、瞬間、臨也は嬉しそうに表情を綻ばせた。

「そっか」

徐に立ち上がり、壁に寄り掛かる静雄の前に立ち臨也は自分ゆり背の高い彼を見上げる。

「俺さ、もしかしたらまた泣いたり信用しなかったり疑ったりしちゃってシズちゃんの事、困らせちゃうかもしれないけど、いいかな」

「…っいいに決まってんだろ」

「じゃあ、暗殺予定立てちゃったり嫌がらせしちゃったり罠に嵌めちゃったりしても?」

「それは殺す」

「えー…」

くすくすと笑いながら冗談混じりに言い、広い胸元に臨也は顔を押し付け、鼓膜を揺する鼓動の音に気持ちよさそうに抱き着いた。

「…シズちゃん、」
「なんだよ」
「…大好き」
「俺も、…好きだよ」




もっと早くこうすれば良かった、
もっと早く信用すれば良かった、

全部全部、手遅れだけど
また君の優しさに甘えていいかな


大好き、凄く


「じゃあさ、シズちゃん。どっか食べに行こっか。お腹…空いたんだよね」









“あいしてる”





end




ここまでお付き合い頂き感謝します。
津軽とサイケってどう出来てんだろ…と思いながら書きました、が…新羅がくうき(笑)

ありがとうございました。



(contrast dream 4)
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