※静臨+新羅
午前2時の来訪者の続き
静雄視点、臨也情緒不安定









ただ、イライラしてた

なんで笑うのか、

なんで平気そうにするのか、

全然分かんなくて

思ってもない言葉が、


――――脳に反響した




は残響して、




何気ない日常だった。非日常であり日常であり普段と変わらない事この上ない、本当に何気ない日だった。

仕事も順調に終わり、帰りにトムさんと夕飯を食べて帰路に着く。通い慣れた道を歩き一人で住むに十分の自分のアパートへ向かう。遠目に映った自宅は明かりが点っていて、ああ臨也が来てるのかとぼんやりと考えながら足を進めた。



「お帰り、シズちゃん」
「…あぁ」

開いたドアの先にはやっぱりアイツが居て、来たならば連絡ぐらい入れろよと思いつつ暑さからか乾いた喉に潤いを与えようとキッチンに向かう。
冷蔵庫を開け、中に先日買った麦茶を取り出しコップに注ぐと咥内に流し込む。冷蔵庫で冷えたお陰かヒンヤリとした冷たさが喉を通り気持ち良いと感じながら臨也の座る場所へと振り返った。

だけど、

アイツを見た瞬間、俺は目を見張る。


「臨、也?」

臨也の頬は遠目でも分かる程に赤く腫れていて、それは決して俺が殴って出来た怪我ではなく明らかに他の誰かに殴られて出来たやつで、自分でも分かる程の困惑が声に滲んでいた。
――凄く、イライラした。


「…?どしたの、シズちゃん」
「顔…どうしたんだよ」
「ああ、これね?ちょっと仕事でヘマしただけだよ」
「仕事って、情報屋のか?」
「うんそう、全く困るよねー」


でも臨也は、怪我のことなんて微塵も気にしてない様子で笑い話の様にへらりと笑って仕事でヘマをしただけだと言う。だけどそれが益々俺の苛立ちを増させ自然と握る拳に力が入った。

なんで、笑ってるのか
なんで、笑えるのか

矛盾してるけど、自分以外が臨也を傷つけるのが許せなかった。
けど、臨也は俺の知らない仕事関連の人物に殴られてへらへらしてて、もし、殴られるだけじゃ済まなくても俺には笑って話すのかと考えたら我が儘かも知れないけど、言わずにはいられなかった。

もし、もしも、そんなの、
ムカついた。


気付いたら壁を思い切り殴ってた。


「情報屋、やめろ」


静寂を守る室内に、俺の低い声が残響する。壁を殴った指先は握り締め過ぎで白くなっていて、でもそれさえ気になんて入らないくらいに苛立ちの限界だった。

俺だって人に言える様な仕事じゃない、だから臨也の仕事にだって口出しなんてした事はない。そんなモン、アイツの自由だし縛り付けたいなんて思わなかったから。
でも、でも、もしまた、アイツが怪我をしてへらりと笑う姿を想像したら押さえ込んでたリミッターが音を立てて切れた。


「――なん、で…急にやめろとか言われなきゃなんない訳?どうしたの、シズちゃん。ホントに変なんだけど…」

「いいから、やめろ。手前他にも仕事してんだろ。やめても支障ねえんだろ」

「そんなこと聞いてないよ!なんでやめなきゃなんないの?俺の言葉、無視しないでよ!」

「…俺が嫌だ、だからやめろ」

「なにそれ?ただの我が儘じゃん!て言うか辞めようと思って辞められる仕事じゃないんだよ?明日だって仕事入ってるし、俺は好きでやってんのにそれをシズちゃんにとやかく言われたくない!」

「別に我が儘じゃねえし、…つーか手前の御託なんて聞きたくねえんだよ!」

「はあ?俺の意見は無視なの?ホンットに何様のつもり?」

「うるせえ!やめねえんなら――」


ああ、

うざい
うざい
うざい

抗議なんて聞きたくない。聞く必要もない。我が儘?そんなの知るか。
なんで分かんないのか、なんで理解出来ないのか、本当は傷つけたくなんかないのに傷つける言葉なんて言いたくないのに、それ以上にムカついてた。

――臨也がどんな表情してるかなんて、気づかなかった


「…シ、ズちゃ…」
「――やめねえんなら、別れる」



















外に時折通る車の音だけが虚しく残響して室内に入り込み、一人居る俺の耳へと届いた。あれからもう30分は経過していて視界には天井の白い色だけが埋め尽くす。

それでも脳内に映し出される光景は白い天井なんかじゃなくて、アイツの、臨也の、泣きそうな顔だった。俺ん家から飛び出す瞬間、一瞬見えた表情はどうしようもない程に泣きそうで脆くて、ただ後悔だけが押し寄せる。


「……なにやってんだ、俺」


冷静になるにつれ、どうしようもない気持ちに陥った。

分かってた、分かってた筈だ。
あんな事言ったら傷つけるって、それに、知ってた筈だ。臨也が、――だって。


「…………はあ」


重たい溜め息が漏れる。

本当は、ちゃんと心配して、湿布でも貼ってやって、次は気をつけろよって、笑って言ってやればよかった。それで済んだ、それで済む話だった。

それが出来なかったのは、ただの、俺の我が儘だ。


ブブブブ、

室内に不釣り合いな軽快な音楽と、バイブ音が響く。携帯が鳴ってると思って、でも絶対に臨也からじゃないと分かっていて、俺は手を伸ばし携帯を手繰り寄せた。


「………新羅?」


ディスプレイに映し出された名前は、小学生時代からの友人と呼べる人物で、時間はもう午前3時になると言うのにこんな真夜中になんの用だと疑問に思う。
正直、こんな時に誰かと話す気になんてなれなかったが、何となく指先で通話ボタンを押し携帯を耳に宛てがった。


「…もしもし」
『あー…もしもし?静雄?』
「…なんだよ」
『ああ、良かった、起きてた』


電話越しに聞こえる新羅の声に耳を傾けながら面倒臭く言葉を返す。臨也の声が頭に残響する状態で誰かの声なんて聞きたくなかった、だけど出てしまったものは仕方がなく用件を聞く。

けど、新羅の紡いだ内容に俺は携帯を掴む手に力を込めた。


『臨也がね、僕ん家来てんだけどさ。それに静雄、君に話があるんだよね――』






午前3時、
ただ電話越しに聞こえる声に、俺の意識は削がれた。









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あれ…?終わらなかった´`
多分次に新臨ブースで書いてその次の静臨で終わりだと思います。長々しい…。前のアンケでちょい人気だったのですが更新遅れてすみません。

これ、の発生話は新臨の午前2時の来訪者です。一番最初に出来た話(笑)最初は新臨のつもりで書いたんですがあまりにも静雄が外道過ぎた…ので救済しようとしたら静臨話になりました。因みに静臨で終わります。
気持ち的には静雄視点はこれでおしまいで次は新羅視点、最後に臨也視点で終わる予定です。もう少しお付き合い下さいませ。

静雄はただ、臨也が怪我を負うのが嫌だっただけです←



(詞は残響して、)
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