静臨+津サイ
やっぱりシリアス…甘?
サイ臨に見えなくもない
分かってるって、
分かってもない癖にそう言って
馬鹿みたいに共感して、
ホント
――――大好きだよ
contrast dream 3
室内に響いた声に、その場にいた全員が声の主に視線を向ける。そこには居る筈のないサイケの姿で、色白い肌を朱に染めて息切れを起こしていた。
どうして、何故、大丈夫なのか、と考えを巡らせる津軽と静雄を無視してサイケはただ一人、こちらを驚愕な、でも悲しそうな――それでいて安堵さえ含ませた表情で見る臨也を見つめる。
そして静寂は唐突に途切れた。
「…つがる、どいて」
普段子供染みた彼とは少し違う気迫を持ちながらサイケは津軽を見遣る。見据えた瞳には決意さえ見受けられ言いたい事や心配事は沢山あったが津軽は臨也の上から身を引く。
身を引かれた事で首から離された為に酸素が唐突に肺へと入り臨也は苦しげに噎せた。その様子に静雄はびくりと肩を揺らし心配の色を見せるがサイケは気にせず覚束ない足取りで臨也の前に立つ。
「…サイケ、」
「……っいざやくんの、ばか!!」
キーン、と高音キーが響き渡る様にサイケの声が室内に響き渡った。
思わず大きく身体を跳ねさせる臨也の事などお構いなしにサイケは未だベッドに倒れた侭の臨也の上に覆いかぶさり、抱き着いた。
生暖かい人と同じぬくもりに益々意図が理解出来なくて、抱き着いたサイケの表情を見たらピンク色の瞳が涙で濡れていて臨也は思わず言葉を詰まらせる。
「……っ」
「おれはぜんぶ知ってるよ!いざやくんがおれのこと弄ってつがるの歌でこわれるようにしたことも!それでおれがこわれることを望んだことも!…ほんとーはこうかいしてたことも…っ」
違う、
違う違う違う…!
「俺は後悔なんて…ッ!」
「うそ!いざやくんはいつもうそばっか!気づいてるのに気づいてないフリして!まいにちまいにちこうかいして、泣いてた」
「…そんな優しい人間なんかじゃ、」
「なんでじぶんを傷つけるの…?しずちゃんの気持ちだってわかってるのに」
「…っおまに何が分かるんだよ!」
「わかるよ!!」
ばちん、と音が響き臨也の両頬が赤く充血する。理由はサイケが両手で叩いた為で、あまりにも唐突な事に言い返し怒鳴った臨也も言葉を失った。静雄も津軽もただ唖然と、その光景を見る。
「わかる、もん…」
今にも泣きそうな声が、震えた声が、零れる。──ポタリと臨也の頬に雫が落ちた。
「…だっておれは…サイケは、いざやくんが自分にのぞんだ、すがたでしょ…?」
本当は、本当はね。
────全部、分かってた。
シズちゃんが大好きで、彼も俺を好きだと本当に思ってた事も。全部理解してた。でも弱くて情けないくらい弱くて、嘘だと思って嘘だと疑っちゃって、いつの間にか信じられなくなっていた。優しくされればされる程に迷惑掛けてるんだとまた違う心配がきて、ああ、壊れてる。
なんて他人事のように感じた。
──だけど、止まれなかった。
もっと素直になりたかった。そしたらきっともっと──考えれば考える程に涙が出た。
だから作った、自分の願う姿を、素直で、卑屈じゃない自分を。
けれど、見た瞬間、彼と同じ顔の、津軽に素直に甘えてるのを見て、笑えなかった。
本当は、本当はね。
「…ごめん、ごめ…なさい…っ」
静まり返る室内にサイケのモノではない涙の雫が臨也の頬に伝う。涙声だけどこれもサイケの声ではない。
それは紛れも無い臨也だった。肩を小さく震わせて伝う涙は両頬に添えられたサイケの手を濡らす。
「…サイケ、ごめん…っ怖かったよね、痛かったよね…ごめ…ん」
濡れたサイケの手に臨也の手が重ねられる。赤い瞳が歪められた。
「……だいじょうぶだよ。だっておれ…いざやくんのこと大好きだもん」
「…うん、俺も…」
本当は、本当はね。
─────大好き。
あの時、あの瞬間、嫉妬が勝ったなんて醜くて自分勝手に設定を変更してから、ずっとずっと後悔続きだった。
向けられる笑顔に罪悪感が募った、
嫌いになんて…切り捨てられるなんて、本当は出来なかった。機械なんかじゃないそうじゃない、だって抱きしめる身体から伝わる温もりは俺と変わらなかったから。
「…はぁ。これで患者も卒業、かな」
「「…新羅」」
臨也とサイケの泣く声だけが響くだけの部屋に、違う人間の声が静雄と津軽の鼓膜を揺さ振った。
「あはは、なんか同じ顔に同じ声で同時に名前を呼ばれるなんて一興だなぁ」
そこに立っていたのは白衣を着た新羅の姿で、珍しくも額には汗の粒が浮かばれており若干肩も上下に揺れている。
「ほんっと、困った二人だよ。未だ治ってなんかないのにさー…奇跡って言ったら聞こえはいいけど、どっか胡散臭いし」
「それって…」
肩を竦めて眼鏡のブリッジを押し上げる新羅が紡いだ言葉に津軽は僅かに眉を寄せて不安げに言葉を紡いだ。
「…そうだよ。サイケは直ってなんかいない。それなのに動けて、いまこうしているのは…やっぱり奇跡としか言いようがないよ。でも…」
「新羅?」
新羅は片手に持っていた大きめのバッグを床へと下ろすとポケットの中へと入っていた密封された袋から白い手袋を取り出し手に嵌めた。
「…さあ、始めよっか」
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もう言い訳の仕様がありませry