※臨也が最後情緒不安定
続きに関しては下の後書き参照
俺がいけないって、
分かってたけど
君を傷つけたって、
分かってたけど
―引けないことだってあるんだよ
それは普段のことだった、情報屋の仕事も順調にいってたと思ったら少しだけヘマをして顔を殴られた。
でも、そんなことは予定の範囲内で、腫れた頬は痛く苛立ちも募ったが、俺は気にせずシズちゃんの家に向かった。
着いた時には未だ帰っていなくて遠慮なしに合い鍵で入り帰りを待つ。
――そして一時間位した頃だろうか、帰ってきたシズちゃんと声だけ交わしながら俺はぼんやりと襲う眠気と戦ってた時だった。
「臨、也?」
シズちゃんから少しだけ困惑の含んだ声で呼ばれて何事かと振り返る。
そこには俺を見て眉を寄せる彼の姿があり俺は益々首を傾げた。
「…?どしたの、シズちゃん」
「顔…どうしたんだよ」
問い掛けた言葉にシズちゃんは俺の顔、つまりは頬を見ながら聞き返してくる。
ああ、この事かと考えながら俺は平然とした態度で返した。
「ああ、これね?ちょっと仕事でヘマしただけだよ」
「仕事って、情報屋のか?」
「うんそう、全く困るよねー」
平然とした態度の俺とは正反対にシズちゃんは益々顔を顰させて当たり前な事を聞く、一応本業ではない為なのだが。それに対しても俺は肩を竦めて溜め息をつきながら答えた。
―――シズちゃんがどんな表情をしていたかも知らずに。
「……やめろよ」
「は?なにを?」
静かに響いた声に、半笑いでシズちゃんを見る。だが顔は俯いていて顔を見ることは出来ず、唯こちらに向かって歩いてくる彼をぼんやりと見ることしか出来なかった。
―――そして
ドンッ、鈍い音が部屋に響く。
それは紛れなくシズちゃんが壁を殴り付けた音で、その音に俺の身体がびくんと跳ねた。
「情報屋、やめろ」
次いで発せられた言葉に目を見張る。
「なん、で…急にやめろとか言われなきゃなんない訳?どうしたの、シズちゃん。ホントに変なんだけど…」
詰まりそうになる声を振り絞って言葉を紡ぐ。なんで彼がそんなことを言うのか分からなくて、なんで急に怒ったのが分からなくて、困惑した。
「いいから、やめろ。手前他にも仕事してんだろ。やめても支障ねえんだろ」
「そんなこと聞いてないよ!なんでやめなきゃなんないの?俺の言葉、無視しないでよ!」
「…俺が嫌だ、だからやめろ」
意味が分からない。シズちゃんの言う言葉全てが理解出来なくて、俺も段々苛立ってくる。そうしたらもう唯の口喧嘩でしかなかった。
「なにそれ?ただの我が儘じゃん!て言うか辞めようと思って辞められる仕事じゃないんだよ?明日だって仕事入ってるし、俺は好きでやってんのにそれをシズちゃんにとやかく言われたくない!」
「別に我が儘じゃねぇし、…つーか手前の御託なんて聞きたくねぇんだよ!」
「はあ?俺の意見は無視なの?ホンットに何様のつもり?」
「うるせぇ!やめねぇんなら――」
怒鳴り響く声は近所迷惑だと思ったけど苛立ちは収まらない。
だけど最後にシズちゃんが言いかけた言葉に、俺は顔を引き攣らせる。これ以上は聞きたくない、心がそう、警報した。
「…シ、ズちゃ…」
「――やめねぇんなら、別れる」
目の前が真っ黒になる感覚。前にも味わったような嫌な感覚。先程まで開いていた口からは言葉が出なくて意味を理解したくなくて、俺はただシズちゃんを凝視した。
だけど時間は都合よく止まってくれる筈もなくて、再び紡がれる言葉に目尻が熱くなるのを感じる。
「そんな手前は嫌いだ、…もういい、話すことはねぇよ、いいから消えろ」
言い返したくても、今言葉を発したら泣いてしまいそうで言えなくて、言葉がぐるぐると反響した。
そして耳に届いてしまった単語は、胸にぐさりと突き刺さる。
―――いらない、
シズちゃんの口がそう言った瞬間、俺は立ち上がって今が夜中だとか、そんな事考えないで家を飛び出した。
真っ暗な住宅街に出た瞬間、どうしようもない胸の苦しみと我慢してた涙がとめどなく流れて、夜の闇が更に俺を追い詰める。
怖い、
怖い怖い、
シズちゃんに嫌われた。
いらないって言われた。
息が出来ない。
――――気づかないまま、俺は夜の街を駆け出した。
詞は反響して、
(本当は分かってた)
(彼が心配してたからだって)
(ただ、)
(受け入れられなかった)全く話が分からない臨也視点。
続きは新臨の方にある「午前二時の来訪者」になり新羅視点になります。だが別に新臨で終わるつもりは毛頭ないです
因みにわかりにくいのは仕様。更に続きの静雄視点は後々追加。静雄視点がないと話が成り立たない事実(笑)