「煙草止めなよ、つか止めて」


薄暗い路地裏を影が二つ。
その一つ、折原臨也は口に手を宛てがい眉を寄せて目前にいるもう一つの影、平和島静雄を見た。静雄はそんな唐突な言葉に今正に煙草を吸おうとしている手を止めて臨也を見る。


「…なんだよ急に?」
「凄い苦いんだよね」


は?と疑問府を浮かべる静雄の手に掴んでいた煙草を奪い取ると臨也は赤黒い瞳で睨んでは、赤い舌をべろりと出して片手で指差す。


「は?苦い?」

「だーかーら!分からない?シズちゃんのキスって凄い苦いんだよね、それって明らかに煙草のせいでしょ」


不満をありありと見せ付けてうげーと色気のカケラさえない声を上げて自分の親指の腹で舌に触れる。
そんな事よりも煙草を奪われた静雄は行き場のなくなった手を見ては舌打ちをした。


「別にいいだろーが、俺は苦くねえ」
「はあ…、いい歳してなに自己中心的なこと言ってんの」


当たり前なことを言っては威張る様な態度に臨也はわざとらしく溜め息をつくと肩を竦めて奪い取った煙草を手でくしゃりと握り潰す。
あー…と言う静雄の声は無視して。


「て言うかさ、なんでそこまで煙草に執着するの?俺には分からないんだけど、煙草愛好家って」

「ストレス発散。どっかの誰かさんが殴らせてくれねえからよ」

「あーそうかい」


手に広がった煙草の残骸を眺めながらなにが良いのかと目を細める。前に何度か吸ったことはあるが肺に入る度に感じるむせ返る様な苦さは堪らない。お察しの通り嫌な方で堪らないのだ。
それをストレス発散に吸うと言われれば飽きれと溜め息しか出ない。殴られる気は元からないのだから。


「薬中だねーホント。他に執着すればいいじゃん。体に悪いよ?」

「あァ?…だったら吸う分だけ手前がケツ差し出せば考えてやらん事もねぇな」

「死ね」


冗談とも取れない返答に臨也は真顔で言えば壁に寄り掛かった。あまり長くもない髪を耳に掛けて腕を組む。


「…まあ、それはさておき」
「ん?」

「シズちゃんが提案したのは出来ないけど、こっちなら執着してもいいと思う」


握り潰した煙草を地面にハラハラと落とすと不満げな表情をにこりとした笑顔に変えて臨也は静雄を見た。
そして寄り掛からせた背中をゆっくり壁から離すと静雄の前に立ち自分よりも多少身長の高い背を見上げる。不思議に傾げられる首、伸ばした手が頬に触れた。


「だから、なに言っ―――」


言いかけた瞬間、臨也の柔らかい唇が静雄の口を塞ぐ。唐突なこと静雄で目を丸くして停止する。そんな姿に臨也は更に笑みを深めて唇を離せば最後にぺろりと静雄の唇を舐めた。


「…煙草吸わない分、キスしてあげてもいいよってこと」

「……っ!」


悪戯に笑うと臨也は口にそっと人差し指を宛てて微笑を浮かべた瞬間、静雄は臨也の華奢な身体を抱き寄せて先程よりも深く唇を重ね合わせた。



生暖かい舌が咥内を貪る。










まあ、シズちゃんとのキスは好きだからね。


…苦いけど。







楽に弄んで
(うげ、やっぱ苦い)



end


--後書き--
最初の話はどこ行ったの(笑
オチもなきゃネタもない
つまり臨也は静雄とのキスは好きだけど苦いのが気に食わないって事で



(苦楽に弄んで)
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