別に、好きじゃない

自分に必死に言い聞かせた。
好きじゃない
好きじゃない
絶対に、好きにはならない。

だって大嫌いだから、






「はっ…、く…」


息をする為に開いた口から、息以外の声が漏れて俺は心中で舌打ちをした。だけど一度開いてしまった口からは度々、男が出すには不相応な声が零れる。
掴みどころのない手で拳を作り、血が滲む程に握り締める。背後からは大嫌いなアイツの切羽詰まった息。
早く終わればいいのにと思った。

なんでこんな事になったのか。

冷静な頭で考えても分からない。
いつもの様に池袋で取引先の相手と待ち合わせ中に、金髪のバーテン男―平和島静雄と鉢合わせてしまい、またいつもの様に逃げた。路地裏に逃げ込んだまでは良かった、だけどそこは行き止まり。パルクールで壁を駆け登ろうと算段した時、背後から看板を投げ付けられ避けはしたものの肩に当たった。
痛みに堪えながら振り返るとそこには血管を浮き立てたシズちゃんの姿。

殴られる、


と身構えた瞬間、襲ったのは背中への痛み。肩を掴まれ背後の壁に打ち付けられたのだと頭が遅れて反応する。
何事かと見上げたシズちゃんの表情に、俺は固まった。

背筋がゾクリとする嫌な笑み。


「―…今日は殴らないでいてやっから、相手しろ」


は?

意味が、分からなかった。


でも直ぐに現実で思い知らされる。首筋に埋まる相手の頭、ねっとりと舐め上げられる感覚。まるで鈍器で殴られた錯覚を覚える頭で抵抗をした。シズちゃんが嫌な御託や屁理屈、罵倒を沢山投げ付けて、ナイフで刺そうともした。
だけど喋る口は殴られて、抵抗する手は一まとめに頭上で固定させられる。

痛かった、殴られた頬も
一まとめにされた腕も、

だけど一番胸が、痛かった。


大嫌いな笑みで言われた言葉が、俺の胸をナイフで刺されるより深く抉った。


―俺だって好きで抱くわけじゃねえ、ただの性欲処理だよ―







その後は殴られる恐怖からまともな抵抗も出来ず、少しでも声を出さぬ様に下唇を噛み締めた。
そして現在に至る。
シズちゃんの指が普段は排泄に使われる場所にいれられて何分経っただろうか、噎せる様な気持ち悪さ、内蔵を押される感覚に涙が零れそうになる。痛い。気持ち悪い。
だけど同じくらいに全身が痛い。あれから何度も殴られた身体は軋むように痛みを訴えた。もう心も身体もボロボロだった。



無理矢理犯されてるのが
殴られたのが

性欲処理って、言われたのが。




――大嫌いだ




「ふ、ぐ……、んン」
「もうそろそろ…いいか」


二本に増やされた指をバラバラに動かしながら、大分解れた…と思う後孔から一気に指を抜かれる。内蔵が引き攣る感覚に身震いした、最悪。だけどもっと最悪だったのは次に聞こえた音だった。
カチャカチャと静かな路地裏に響く無機質な音。顔が真っ青になるのが自分でも分かった。

嫌だ
嫌だ


「や、だ…シズちゃん…ッ!本当に、それは…」

「…るせえ、黙れ」

「いっ…」


顔を殴られる。口が切れた。
痛みで悶えている俺に構わずシズちゃんはズボンをずり下げて自分のそれを露にする。ひたりと跡孔に宛てがわれる熱いそれに冷や汗が流れた。情けない程肩が震えた。
嫌だ、嫌だ、こんなのは


「ひ、ぁあ゙…ッ」
「きつ…」


遠慮もなしに捩込まれて目を見開いた。指の質量とは明らかに違う大きさで、内蔵を押し上げられる感覚に目尻からボロボロととめどない涙が溢れる。息が出来なくて苦しくて気持ち悪くて意識を手放しそうになるも、痛みは許してくれなかった。

きついなら抜けばいいのに、俺みたいな男じゃなくてそこら変の女でも取っ捕まえてすればいいのに、なんで

なんで
なんでたよ…ッ






なんで、こんな無理矢理に



「ひっ、ぐ…」

生理的とは違う涙が零れた。
別に好きじゃない。
大嫌い、大嫌いだ。

"こんな事をするシズちゃんは"




「…臨、也」
「シ、ズちゃ……っ」


そんな声で呼ぶな
どうせ性欲処理の癖に
俺の名前を呼ばないで

大嫌い大嫌い


好きだった、のに……













どれくらい経っただろうか。
身体中が痛いのは変わらず、それに加えて下半身が鉛をつけた様に重く気怠い。あれから何度も犯された身体は立つ事すら出来ず俺は地面にへたっていた。
だけどシズちゃんは直ぐに何処かに行くのだろうと考えてたのに、相変わらずしゃがみ込んでは俺を見下げていた。怖い、純粋にそう思うも身体は俺の言うことを聞いてはくれなくて、俯くことしか出来なかった。普段よく回る舌先からは何も出ない、否、声が枯れて喉が痛い。


「……臨也…」
「…っ」


不意に名前を呼ばれた。
びくりと跳ねる肩。情けない本当に本当にみっともない。だけど顔は自然と上がる、声が気になったから。僅かに震えたその声に、誘われるように。

そこには、悲しい表情を浮かべた平和島静雄がいた。




わからない、わからないよ
なんでそんな顔するの?

性欲処理って言ったのは君なのに

狡いよ、




大嫌い。






れ違い・表
(俺が悪いみたいじゃない…)




end


--後書き--

静雄がなに考えてるか分からない
意図的です(笑)



(擦れ違い・表)
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