教師×生徒
シリアス甘








あの日、あの場所

いつだって思う鮮明なあの時、

そしていつだって後悔する俺、

時間を巻き戻せない事が

リセットの効かない事が

どうしようも歯痒かった





もし、あの頃に戻れるなら――








 あの日、あの場所








例えば机上転がる鉛筆だとか、例えば片付けられていない掃除用具入れだとか。思えば単純明快で窮まりない。日常、ほんの些細な事で見落としてしまいそうな日々の毎日。きっと思い出にさえ為らないのだろうと頭の片隅に追いやり抹消する、そんなくだらない事。
今日も今日とてそれの繰り返しで、俺はただぼんやりと机上に無造作に置かれた教科書を見下ろした。退屈だ、非常に退屈窮まりない。ああ、なんて退屈なのだろう。くだらない毎日に問い掛ける。なんの代わり映えもなく過ごす毎日はなんて価値のないものなんだ、高校に入学したなら何かが変わるだろうなんて在り来りな考え過ぎて笑えない。教科書通りの詰まらない内容の授業は退屈の域を越えた。
でもそれ以上にそれでも変わらず登校する自分はつまらない人間だと思った。



――今でも頭に色濃く残るそんな繰り返しの日々の折り返し地点。全てが鮮やかに染まった気がしたあの日。


瞼に焼き付く光景。――





高校二年の二学期、新入教師が入った。学校なのだから当たり前と言えば当たり前で俺も興味なんて一切沸かなかった。その頃には授業をサボるのは日常茶飯事と化していた最初は手を拱いていた教師もいつからか何も言わなくなった。所詮はその程度、その程度の人間。そう考えたら全てがどうでも良くなって更に悪化する悪循環。
その日も俺は一時限目から授業をサボり、学校へと来たその足で屋上へと向かった。最近は他校で事故が多発し屋上は易々と入れる場所ではなかったが、そんなの俺には関係がなかった。


一歩、二歩、
階段を軽やかに駆け上がる。

三歩、四歩、
窮屈から抜け出せるまで後数歩、

五歩、六………


上へ、上へ、と向かう足を何歩か踏み込もうとした瞬間、真逆から襟を掴まれ、俺の身体は見事に重力へと従い下へと崩れた。当然ながら何が起こったか理解していない俺の頭は思う様には動かず抗うことなく倒れて行く。反射的に目を固く閉じた時だった、本来床へと打ち付けられる筈の背中は背後にいた何かにぶつかり温もりを感じる。思った衝撃がなく思わず目をぱちぱちと瞬かせれば低いテノールの声が上から聞こえた。


「よお、堂々と朝っぱらからサボりとはいい度胸してんなぁ」

「………っ、だ、れ?」

気の抜けた声。落ちる感覚が未だに残る身体はドクドクと脈を打ち、止まらない。恐る恐る顔を上げれば金色の髪と同じ色素の瞳。担任教師でも教科顧問の教師でもない。突発的に出た言葉は何とも間抜けな声だった。


「あぁ?おまえは全校集会出てねえのかよ、新しく入った教師って言りゃあさすがに分かんだろ」

教師らしからぬ言動で答える男をまじまじと見上げ、そう言えば、と頭の中に過ぎる。ああ、なんだ。面倒だな。つまらなそうに俺の心は思った。


「……新入教師ね、確か平和島静雄先生だっけ?ならわざわばご苦労様。問題児に早々お声を掛けるなんてよっぽど暇を持て余してらっしゃる様で、だけど俺には説教とか要らないから。他の教師も黙認してるし。それに俺一人構うより新入だったら他にすることあるでしょ?平和島センセ。分かったら離してくれないかなぁ、襟。苦しいんだけど」

早く切り抜けたくて元から達者な口を開く。徐々に気持ちも落ち着いてきて、体制を立て直そうと試みるも襟を掴まれていたままでは一向に敵わない。言いたい事と敬意を払って嫌味に笑みを浮かばせた口で吐き捨てた。何ヶ月振りだろうか、こんなにも他人相手に喋ったのは。きっとここまで言えば大抵の教師は呆れ返って面倒だと投げ捨てる。だから今回もそれを狙って言葉を吐き捨てたのに、目の前の男性教師は何を思ったか口元を綺麗に歪めてククッと押し殺した笑いを漏らした。


「……やっぱり手前はそうだよなぁ。どこの……たって変わらねぇって事か」

満足そうにぶつぶつと呟き笑いを漏らす様子に訳が分からず怪訝そうに見上げたら、何処か、違う場所で見た様な、そんなデジャヴュを引き起こす笑みと視線がぶつかり合った。

何故か胸がドクリと鳴る。


「上等。そこまで言われるとは予想外だったが俺も仮に教師だ。引き下がる訳にはいかねぇよなぁ?ちゃんと改心させてやるよ、折原臨也君」

ゾワリ、と何かが逆立つのを、俺は感じた。








思えばあの時、

自分は既に君を好きだったのかも知れない。なんて無責任なことを今更になって考える。

馬鹿みたいだ、

苦笑して目を閉じた。



――ねえ、シズちゃん







会いたいよ――


(どう呟いてみたとこで、人生はゲームの様にリセットは出来なかった)






To be continued





後書きったー

教師×生徒に見せ掛けてからの
ちょっと続きます。多分長く←



(あの日、あの場所)
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