「飼いたいんだよねぇ、」

とある日曜日の昼下がり。
昼飯もそこそこに仕事がオフとあってか緩やかな休日を、はたまた予定が無いと言った臨也の家で俺は過ごしていた。気ままに煙草を吹かして、さて午後はどうしようかと試行錯誤をしていれば不意に臨也が呟く。

「は? 何をだよ」

「…ハムスター」

顔だけを臨也に向ければ至って新鮮な顔付きに俺は目を瞬かせ問い掛ければ、数秒して返された言葉に再度目を瞬かせた。ハムスターって言えばあれだよな、鼠科の。尻尾は短かった気もするが、あれは鼠だよな。

「鼠が飼いたいのか」

「……? 話聞いてた?俺が飼いたいって言ったのはハムスター。薄汚い鼠なんて飼いたいとは思わないよ。馬鹿なの?シズちゃん」

視線を戻し高い天井を見上げ誰に確認する訳でもなく言葉を口にすれば、不思議そうに臨也は俺を見た後、思い切り顔をしかめた。そして深々しい溜め息とカンに障る人をからかった様な口調。あ、うぜえ…。

「一緒だろ、そんなの。つーかどっちにしろ鼠科じゃねーか」

「鼠科であっても鼠とは違うんだよ。それくらい分かるだろ」

買い言葉に売り言葉。正にそれで、緩やかなお昼後の時間が無残にも平穏ではなくなる。その事実に若干イライラしながらもそれは臨也も同じ様で、横目で見た表情でふて腐れてるのが見てとれた。

「あー…面倒。もういい」

「なにそれ。こっちは全然良くないんだけど。あーもう!これだから単細胞は。君に言った俺が馬鹿だったですよー」

後頭部を掻きむしりながら埒が開かないしこのまま行くと本気でキレそうだと感じて話を強制的に終わらそうとすれば、それはそれで気に食わないのか噛みつかんばかりに言い放ちぷいっと臨也は顔を逸らした。実に面倒臭い奴だ。
俺は先程の臨也と同様に溜め息をつくとあまり回転の巡りがよくない頭で考える。暫しの時間を要して我ながらいい案だと悪戯気味に緩む口元を隠しもしないで思うと徐に手を伸ばした。

「おい、臨也」

「何か用?シズちゃ…――っ」

振り向いた奴の肩を掴んで唐突に引き寄せれば抗う間もなく、臨也の細っこい身体が腕にすっぽりと抱かれ鼻をサラリとした艶やかな黒髪が燻った。突拍子もない事で自体を掴めていない臨也の耳元に唇を寄せ吐息混じりに言葉を吐く。びくりと肩が大袈裟に揺れた。

「なあ、臨也?」

「な、に…」

わざとゆっくりに声を出せば耳に入る息が嫌なのか身を捩りながらこちらを睨んでくる。威勢の良さは変わらない。

「鼠科と猫科は相性悪いんだよ。残念だったな」

は? と怪訝に潜む臨也の表情を見下ろして口角を上げれば意味を理解したのか、見る見る内に頬が赤へと染まり不服げに“ふざけるな”と言い暴れだした奴の身体を無理矢理手中におさめ、ぎゃあぎゃあと達者な口で喚く黒猫の唇に自分のを重ね合わせた。

ああ、やっぱり。

鼠科のハムスターなんかより、目の前にいる猫科の青年の方が、俺は飼いたいと思った。


猫の青年と、犬
(ならさしずめ自分は犬か)



end



後書きったー

臨也さんは猿科ではなく猫科かと(人間じゃねぇ)特に意味はない小説



(黒猫の青年と、犬)
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