静→(←)臨
謎に近い話※別れ話に近い





「If I said that you disliked it」

「If I dislike it, I will answer」






まるで呪文の様だ、呟いて思う。投げ掛けた虚空には伝わらないだろうけど震える声が吐き出した息が閉じた瞼に映る戦慄が、唯自分にだけ其の思いを伝えた。

「…………―Because surely it is our relations」

彼には伝わらない。伝わる筈がない。夜空は笑う、月は口元を歪めて、嘲笑う。
近くで、だけど何処か遠くで轟音が響いた。折原臨也は振り返り、その身を錆び付いた支えしかない場所へ寄り掛からせ口に月を描く。

「やあ、シズちゃん。早かったね」
「臨也…手前…」

地が揺れる程に、臨也の鼓膜を揺さ振り、心地好いテノールを響かせる。不釣り合いな荒い息。きっとネオンの街を走って来たのだと容易に理解し愉悦を混ぜた笑みを浮かべた。

「でもダメだよ。君の言いたい事は分かる。だけどもう遅いんだよね」

「…手前はそれで納得すると思ってんのか?」

パキッと音がする。静雄の手に持たれた携帯が悲鳴を上げた音。

「ううん、思わない。だけどさ…」

臨也は支える手摺りに重心を掛けた。ミシリミシリと嫌な音を立てさせて錆び付いた部分に徐々に負荷が掛かる。身体が下へと傾くのは遅くなかった。

細い身体が宙をきり、下の地へと落ちる。

「……っ臨也!!」

慌てて伸ばされた手、色白の線の細い腕をがしりと掴んで後一歩のとこで落ちるのを阻止した。
やはり不釣り合いだ、と臨也は思う。後方遥か下で手摺りが落ちる音を鼓膜に焼き付けて、静雄の荒い息に目を細める。先程とは違う焦りに似た息。

「……やっぱり、」
「は……?」

少し傾けば真っ逆さまに地上へと落ちるのにも関わらず臨也は自嘲気味に言葉を紡ぎ、掴まれた手をゆっくりと外そうとする。困惑に満ちた静雄の表情、一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、臨也の顔が曇った。

「助けちゃダメだよ、シズちゃん」

そう言って、臨也は静雄の手を離した。流れる沈黙。静雄が伸ばした手は空を掴み黄金色の瞳を見開いた。

刹那、その姿は視界から消える。


「……――――っ!」

わなわなと瞳を揺らし、空を掴んだ手を虚しく見つめる。言葉が出ない、静雄は言葉を失った人間の様に喉から漏れるのは息だけ。

数秒要して、ゆっくりと下を覗き込む。――だけど






そこに、臨也の、姿は、なかった――


















『こういう事に私を使わないでくれないか』

PDAにその文字を打ち込んで、セルティは不満げにその画面を臨也の顔面に突き出した。片手には先程渡されたばかりの中身の詰まった封筒。

「あはは、いいじゃないか。報酬は見合う程に渡しただろ?」

『だが私は静雄を騙す事に加担すると言った覚えはない』

結果、静雄を騙す事になってしまったセルティは不服に影を歪めヘルメット越しのない瞳で臨也を睨んだ。

「大丈夫だよ、シズちゃんは。きっと直ぐに騙されたって気づくだろうし。今頃怒ってんじゃないかなぁ」

空を見上げて臨也は呟いた。
彼は死ななかった。それも目の前にいるデュラハン、セルティに事前に頼んでいた事であり落ちたその先にいた彼女に救われた。全部全てが計算通りに。

赤茶けた瞳は月明かりに照らされて奇妙に歪められる。一物の悲しさを含ませて。それはほんの少しだったけど。




『お前は、なにがしたかったんだ…?静雄と一方的に別れてなにをしたいんだ』

間を置いて、一番聞きたかったことをPDAに打ち込み画面を見せる。逆光で臨也の表情はセルティには見えない。
口元だけが、綺麗に笑った気がした。

「刺激だよ」

凛とした声が薄暗い路地裏に響く。

『は…?』

「俺はね、今でもシズちゃんは好きだよ。付き合ってて楽しかった。だけどさ、足りなかったんだよ、全然」

刺激が、そう言って目を閉じたら、遠くで静雄の声が聞こえた。臨也はコートを翻しセルティに背を向ける。

「じゃあね、運び屋。見つかる趣味はないからそろそろ帰るよ」

にこりと笑って、駆け出す。
後方からは駆け足や声が響く、それを全て無に帰して臨也は駆け出した。

「バイバイ、シズちゃん」











俺は確かに君が好きだった。

それは今も今後も変わらないだろう

だが、それよりも求めたのは

愛情でも情欲でもなく、

―――――刺激だった。



「……"   "」

呟く。本当はそれが良かった。
だからリセットしようと思った。





そしてリセットした。


「……Because I do not need to change at all in future」




ああ、でも、


なんで悲しいんだろうね




それがきっと俺の望んだ刺激だ――





Reset - I start it again
(次に会った時、)
(前と変わらない日常が待つか)
(ああ、それとも)







end




後書きったー

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