ぼくの女神さま | ナノ

出会い

レギュラスside

出会いは、マルフォイ家のパーティーだった。
母親に連れられて、馬鹿な兄の代わりにいろんな大人に挨拶しなければいけない息苦しさの中で僕はヴィーナに出会ったのだ。
優秀なヒーラーや、研究者を多く輩出してきた名門アルバーン家。
その家にいる3人の子供のなかでアルバーンの流れを受けて、最も癒術の才能を持ち合わせていたのがヴィーナだった。もちろん、その時は彼女がそんな存在であることは知らなかった。ただ、僕の母がアルバーン家との結びつきを欲していたことと、先日こぎつけたその結びつきの前段階である長男シリウスとヴィーナの婚約が白紙に戻ってしまったことは十分理解していた。

兄と同じく、家の流れに反してグリフィンドールに入ってしまった少女。学校の図書室で時々見かける、黒髪で内気な女の子。彼女の婚約者として、僕が兄の代わりに後釜になるのはすでに決定事項だったのだ。

「初めまして、ヴィーナ。僕がレギュラスです」
双方の親が見守る中、僕がそう挨拶をすれば彼女はゆっくりと視線を上げた。きらり、と照明のせいで彼女の瞳がまるでトパーズのように光って見えた。
戸惑ったような顔をして、彼女も「初めまして」と挨拶を返してくれた。
彼女の両親は、母と父に向かって静かに語りかけ、その空気はどこか異様にも見えた。大人の世界は酷く不気味だ。笑っているのに、目だけはまるで深海魚のように暗い。どこを見ているのかも分からなくなる。
そんなことにはもう慣れ切っていたけれど、ヴィーナは少しだけ眉を寄せていた。

「・・・・少し、話をしようか。」
そう彼女に尋ねれば、彼女はまた戸惑うように瞳を揺らして頷いた。

女の子の好きそうな、果実酒を差し出しながら少し人のすいた場所までエスコートした。小さな手が、僕の腕に添えられてなんだか可愛らしいと思った。
「パーティーは苦手?」
ゆっくりそう聞くと、ヴィーナは頷いた。
「大人に囲まれるのは好きになれなくて」
ようやく返事らしい返事を返して、彼女の声に耳を澄ませた。
「変でしょう?」
僕にそう言いながら、ヴィーナはグラスに唇を当てた。

「静かな場所が好き?」
「出来れば誰もいないところで引きこもっていたい。」
「つまらなくはない?」
「本があれば」
どうやら、彼女は社交的なタイプではないようだった。それから、もう少し質問を重ねるうちに少しだけ彼女が緊張を解いたようだった。
一番効いたのは「親のことは気にしないでいいよ」と言ってあげたときだろう。少なからず、僕がブラック家の人間だということに警戒していたのかもしれない。

「・・・・シリウスとは、やっぱり違うのですね。」
「え?」
「シリウスは私にこんな風に話しかけたりしないから。」
「兄が、無礼を?」
「無礼どころか、挨拶もしないです」
そう笑った彼女は、どこか寂しそうに笑った。シリウスとヴィーナは同じグリフィンドールだから交流があってもなんら可笑しくはない。ただし、実家を嫌悪しているシリウスがヴァルブルガお気に入りのヴィーナに好意的であるかと言われると答えは『NO』だった。

「貴方は、スリザリンなんでしょう?」
「ええ、そうです。」
初めてのヴィーナからの質問にうなづけば彼女は形の良い唇が「羨ましい」と告げる。
「え?」
「父も、母もスリザリンでした。祖母はレイブンクローだったけれども。」
知っていますよ、とは言えなかった。
「ブラック家はスリザリン家系なのに、私のようなはみ出し者を加えて・・・いいのでしょうか?」
そう切り出された言葉に、少々面食らった。
てっきり、この子は今回の婚約には反抗的だと思っていたのだ。
なにしろ、シリウスはグリフィンドールであるがゆえに我が家との縁を切った。グリフィンドール生がスリザリン生を嫌うのは日常生活でもよくあることだ。だから、僕はこの子も僕や僕の母親たちを拒むと思っていたのだ。

僕は人の心を読めるエスパーではない。
まだほんの15歳なのだ。・・・しかし、そんなまだ大人にはなれない僕ですら感じ取れた彼女の纏うオーラはどこか孤独を訴えていた。

「僕も、母も貴女がグリフィンドールであることは気にしていません」
「そう、ですか」
「それに、羨ましいということは本当はスリザリンに入りたかったのでしょう?」
彼女は僕の問いに「組み分け帽子に、意地悪されたみたいです」と苦笑した。
「グリフィンドールは年中騒がしくて」
「なるほど」

兄のような人間が、一人二人のレベルではなく何十人といるのだ。さぞかし五月蠅いのだろう。少し顔をしかめた彼女には同情する。

「ヴィーナは、得意な科目は?」
「魔法史です。そのほかは平均くらい」
「珍しいですね、魔法史が得意だなんて。・・・・眠くならない?」
僕がそう聞けば、彼女は「もちろん、なります」と笑った。
「レギュラス様は?」
「・・・レギュラスでいいですよ、僕は闇に対する防衛術ですかね、あとは箒に乗るのが好きです。」
「クィディッチの選手ですものね」
「知ってたのかい?」
「名前は聞きます、・・・けど、私は箒に乗るのは苦手ですし、クィディッチもあまり興味がなくって」
その言葉を聞いて、少しだけ残念に思った。
クィディッチの魅力を理解してもらえないのは、僕にしてみればガックリくる。まだ、嫌いと言われるよりかはましかもしれないけれど。

そんなことを考えていると、彼女が突然クスクスと笑いだした。
何かおかしなことをしただろうか、と覗き込むと彼女は「シーカーに向かって、クィディッチに興味はないは失礼でしたね、ごめんなさい」と言った。
首を傾げれば「残念そうな顔をさせてしまったから」と付け加えた。
顔に出したつもりはなかったのだが、彼女にはそう見えたらしい。

「人の好みは違うから」
「ええ」
殻になったグラスを彼女の手から外して、しもべ妖精の持つお盆の上へと戻す。

「休暇が明けたら、ホグワーツでも会ってくれますか?」
ヴィーナにそう尋ねれば、彼女は頷いてくれた。
「わたしで良いのなら」
その返事に安堵した。
彼女の手を引き、再び大人たちの元へと戻れば母は僕とヴィーナを見て満足そうな顔をした。


「ヴィーナさん、レギュラスをお願いしますよ」
高圧的な母が、ヴィーナに向かってそう言った。
随分、威圧は緩和されているもののやはりアルトの声が作り出す風格はそのままだ。ヴィーナが怯むだろうかとちらりと見やれば、予想に反して彼女は少しだけ微笑んでいた。
「こちらこそ、よろしくお願いします。」
礼儀正しくそう述べて、ヴィーナは僕の腕から手を離したのだった。


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