ぼくの女神さま | ナノ

さようなら

思い返せば、僕と彼女の関係というものは実に機械的だった。
出会いも、経過も、別れも。僕によって、全部が計算しつくされて進んだ彼女との時間。ヴィーナは僕の手の上で、恐ろしいほど素直に踊ってくれたのだ。いや、彼女はそれを承知した上でそばにいてくれたのだろう。それは僕の勘違いかもしれないけれど、今この瞬間だけはそう思い込みたかった。

驚くほど美しい笑顔を、惜しげもなく晒す彼女は果たしてありのままの彼女だったのだろうか。今となっては僕がそれを知るすべはない。


『ヴィーナ』
その名を呼んでも、もう音にはならなかった。ゴポリ、と白い泡が水面に向かって浮かんでいくだけだった。手放したのは自分のくせに、どうして最後の最後になって「会いたい」だなんて思うのだろうか。僕にとっての彼女は、利用するべき存在だったのに。いつのまにか、こんなにも愛しくて大切な人になってしまっていた。


「レギュラス」


僕を、あんなにも慕ってくれていたのに。
結局、僕は彼女を利用するだけ利用して・・・・裏切ってしまった。その裏切りが、たとえ彼女や家族を守るためだとしても彼女はきっと理解してくれないだろう。いや、理解しないでいいとさえ思った。こんな野蛮な結末しか選べなかった男の考えなんて、知らないままでいい。

僕を忘れてほしい。
僕の知らない世界で、知らない顔で、知らない声で、僕の知らない誰かと・・・・幸せになってほしい。それが、今僕が最後の悪あがきとして、いるかも分からない神様に願うことだ。


僕に、勇気をくれた勝利の女神。
ヴィーナ・アルバーン。

どうか、生きて。


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