新年

◎なかよし夫妻


ハッピーニューイヤー。
そう耳元で囁けば、セブルスは表情を和らげながら「二人きりで年越しは久しぶりだ」と言った。
ホグワーツ城で年越しをする年もあれば、私の実家でみんなで年越しをする時もある。
ルシウス様に呼ばれたパーティーに出るときもあるくらいだ。
それでも、今年は二人きり。
別に特別そうしたいと望んだわけではないが、結果的に今家にいるのは私とセブルスだけなのだ。

夫婦で過ごすクリスマス休暇と年末。
歳を重ねるごとに冬の寒さはつらい。
それでも、二人でくっついて、温かい場所でのんびりと過ごす時間が好きなのだ。
セブルスはどうかは知らないけれども、たぶん嫌がってはいないだろう。
彼がアウトドアな人間でなくてよかった。

新年をシャンパンで祝って、いろんな話をする。
途中で眠ってしまうのはたいてい私で、彼が知らぬ間に寝室に運んでくれるのだ。
甘やかされる自覚はあるが、人前ではあまり見られない彼の優しさを私は一身に受けていた。

翌日は二人で寝坊して、大きなベッドで寝ぼけ半分に戯れる。
大きな手が、無遠慮に頭や背中を撫でるようになったのはそう言えばいつからだろう。
と考えて、二人の関係がそこそこ長く、上手く続いていることに喜びを感じた。
目をつむったままのセブルスを眺めながら、私は寝癖のついた彼を頭を抱き込む。
腰に廻されていた腕が離れる気配はなかった。
「珍しく良い天気になりそうね」
カーテンでは隠しきれない若干の日光が、寝室にも忍び込んでいた。
めったに晴れないこの場所が、こんなにも明るいのだから…
なんだか悪いことをしている気分だ。

「贅沢なことだ」
セブルスはそう言いながら薄く目を開けた。
まだ眠りの中にあるような無防備な表情に、私は嬉しくなって笑う。
眉間の皺は薄く、疲れの色はない。
「昨日、やっぱり寝てしまったのね」
「さんざんベッドに行けと言ったのに言うことを聞かなかったからな」
「寝てしまうのが勿体なかったの。…運んでくれてありがとう」
そっと額に口づければ、セブルスはくすぐったそうに顔を動かして「年始から風邪をひかれては困るからな」とぶっきらぼうに言い放った。


もう良い時間だ。
やることは山積みにしてあるし、そろそろお腹もすいてきた。
それでも、温かい布団とセブルスの隣から離れるのは惜しい気がしてしまう。
「良い年になりそうね」
そう囁けば、私にされるがままになっているセブルスは「そうだな」と同意してくれた。

「そろそろ起きますか?」
そう尋ねながら、そっと髪を撫でていた指を離した。
しかし、彼は私の肩のあたりに顔を埋めたまま動く気配がない。
とても珍しいことではある。
普段は物静かで、どこか一匹狼のような孤独を抱えるセブルスが、甘えてくれることは喜ばしいことでもあった。
また、どうしようもなく愛しいとも思った。

いつも甘やかされるのは私なのだから、今日くらいは…
そんな思いで私は小さく息を吐いた。
ため息だと思ったのか、ゆっくりと動きだそうとするセブルスを、私は慌てて抱き留める。


「幸せ過ぎて、困ります」


そう苦笑すれば、セブルスは一瞬言葉に詰まったようだった。
それでも、微かに口元をほころばせて私の手の甲を取り、軽いキスをしてくれた。
ああ、自分が今どんな顔をしているのか。きっとにやけてしまっているに違いない。けれども、恥ずかしがっても今更だろう。

「愛しているわ、セブルス。だから貴方も私を愛して」
そう素直に愛を告げれば、彼が静かに頷いてくれた。
相変わらず言葉にするのが苦手なセブルスであるが、つながれた手が優しいから、今日は許してあげようという気にもなる。

誰も咎める人間がいないのをいいことに、私たちはしばらくそうやって寄り添って、笑って、時間を忘れた。



END


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