小説 | ナノ

(当然のことなのだが、皆朝に起き、夜は眠る……)
 窓の外は月光がほんのりと建物の輪郭を見せているだけで、そこを動く影は何一つ見当たらない。この館の中もそうだ。大抵の者は寝静まっている。呼べば起きるだろうが起こしてまでの用事はない。かといって一人で読書もそろそろ飽きた。
「誰か吸血鬼にするか。そうすれば私と同じ生活サイクルになるだろう」
「あ、あのDIO様、私もいますよー……」
「なんだヌケサクか」
「お呼びでしょうか」
「あ、ティッシュをゴミ箱に投げたんだが外してしまってな。捨てておいてくれ」
「……はい」

 そういえばヌケサクも似たような理由で吸血鬼にしてやった気がする。しかし彼とでは色々とレベルが違いすぎて会話が成立しない。
(このDIOと知的レベルで引けをとらない人物……)
「DIO様、お昼に起きていて大丈夫なんですか」
「Jガイルか。お前の母はどこだ」
「昨日からカイロ老人倶楽部のバスツアーに出かけましたよ」
「む、そうか。実はエンヤ婆を吸血鬼にしようと思ってな」
「え?はぁ!?だだっだめですよ!」
「何故だ」
「吸血鬼ってのは不老不死なんでしょう?ずっと死なないってことは俺の親父に会いに行けないってことじゃあないですか」
(コイツ身内にはいい人なんだな)
「母ちゃん、いい女だからDIO様が伴侶にしたいお気持ちも分からんでもないですが」
「おい話飛んだぞ。ではお前が代わりに私に血を差し出してみるか?」
「そうなると俺、母ちゃんが死んだあと二度と会いにいけないじゃないですか」
(……アカン)

 しかしJガイルに言われて一つ考えを改めた。吸血鬼となった人物はこれからDIOと永い時間を共にするのだ。それは最早伴侶と言っていいだろう。
(そうなるとやはり美しさもある程度必要だな。この館で最も美しいといえば……ツートップのどちらにするかだな。いや、いっそ両方)
 この時間、マライアとミドラーはテラスでティーブレイクしていることが多いとケニーGから聞き、そちらの方に足を運んでみる。情報どおり二人の美女が話に花を咲かせていた。
「マライア、ミドラー」
「えっ、DIO様!?」
「ちょっと影になってるとこまで来い」
「どど、どうなさいました……あ、実は俺達マライアでもミドラーでもないンすけど」
 と言うなりミドラーの美しい顔はドロドロと溶けて崩れ落ち、マライアの艶やかな顔はぐにゃぐにゃと歪んで形を変えた。
「!?」
「す、すみません。オインゴです」
「ハンサムです」
「ラバーソールはさらっと名前変えるな。お前ら何やってたんだ」
「実はこの館があまりにもむさくるしいので女性成分を自力で補ってました」
「……もういい」
 二人の顔がどろどろのぐちゃぐちゃになるところを見てしまい、もう本物の二人を伴侶になどという考えも消えうせた。

(別に女に限る必要はない。一人の女に縛られる人生などまっぴらだしな。身の回りの世話も出来るテレンスにするか)
 テレンスの自室のドアをノックする。
「取り込み中ですのであとでお願いします」
 何やら慌しい声色だ。しかし、部屋の中で何を急ぐ必要があるのか。入室の許可は得ていないがこの館の主であるならば勝手に入っていいだろうとDIOはドアを開けた。そこには地べたに座り込んで俯く二人の姿。テレンスと、公子だ。
「バフ切れた。攻撃速度つけて」
「はい」
 派手な効果音と、それに負けないくらい大きな連打音が鳴り続けている。二人とも背後に立つ主人の存在に全く気づいていないのか、顔を上げる気配はない。
「……何をやっとるんだお前ら」
「え、DIO様」
「テレーンス!バフ!」
「は、はい。DIO様、五秒だけお時間をください……」
「OK。あとは自力でいける」
 ようやくテレンスだけがこちらを見た。しかし手だけはひっきりなしに動いている。
「で、何をやっとるんだお前ら」
「ゲームです」
「だろうとは思ったが……ときにテレンス、お前吸血鬼化する気はないか?」
「はあ。一体何故」
「この館、夜型人間が全然おらん。ヒマだ」
「すみません、私昼に起きていないと日本のプレイヤーと対戦できないんですよ。日本はなかなか優秀なギルドがたくさんいるので、彼らのゴールデンタイムに合わせるとなるとどうしても規則正しい生活にしないと」
「あっそう……公子は……」
「同じ理由で私もパスです。というより私はジョースター一行を始末したら日本に帰りますよ」
「あ、私も公子について行きますので、後任の執事を雇ってもよろしいでしょうか」
「何故だ!このDIOに忠誠を誓ったのではないのか!?」
「私は誓ってない」
「私達、再来月に永遠の愛を誓い合いますので」
「えええ……聞いてないぞ……大体二人ともこの館にずっといればいいではないか」
「すみません。字幕なしのアニメが見れないのでやっぱり日本帰ります」
「……もういい。何か自信なくなってきた、色々」
「よし、倒したー!テレンスー、ドロップ拾って!」
「はいはい。あ、そうだ。お暇ならDIO様もゲームなさってはいかがですか?」
「そうですよー。私のアカとパス教えておくんで、暇なときにレベリングお願いしまーす」
「アカ……?レベ……?私の知らぬ言葉がまだあるとはな」
「ささっ、一緒に操作方法から覚えましょう!予備の本体出しますからぁ〜」
 こうして、下僕が主人にレベリングをさせる謎の上下関係が出来上がった。

「公子っ、武器の強化エンチャントアイテムドロップしたぞ!ダンジョン二百回くらい回った甲斐があった!」
 DIOも平和的に暇がつぶせるようになったので誰も吸血鬼化することなく円満解決したが、その吸血鬼が廃プレイヤーとなったのは言うまでもない。


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