小説 | ナノ

「仗助。不良ってのはな」
「うん」
「マジメに行事なんかに参加したりしねぇのよ」
「うん。つまり?」
「後夜祭のキャンプファイア、女の子と一緒に過ごすとかねぇよなぁ!?!?」
 ぶどうヶ丘高校文化祭は、後夜祭と称した学校内の片付けが毎年恒例となっていた。この時代ごみの焼却処分が法律で禁止されていなかったため、その年限りでしか使用出来ないものは校庭で処理していたところ、むしろその炎の灯りを求めるカップルがそちらをメインとするようになり、男女ペアでなければ参加できないイベントとなっていったのだ。
 そのため厳密に言えば文化祭は行事であるが、キャンプファイア自体は行事でもなんでもない。しかし億泰からすればそのような些細な違いはどうでもいいことであった。
「ん、まぁな」
「本当だろうな!?信じていいんだよな!?オメー、女の子からめちゃめちゃ声かけられてんの知ってんだからな、俺ァよぉ」
「な、なんでそれを!」
「マジかよ否定しろよ!」
「テメェ!億泰のくせにカマかけるとか頭使ったことしてんじゃねぇぞ!」

 放課後、今日も今日とて仗助と下校しようと教室まで迎えに行ったところ、仗助の幼馴染でクラスメイトのスタンド使い、公子から首を横にふられた。
「何だよ。腹でも下して早退したのか?」
「アンタじゃないんだから。つまりね、女の子に呼び出されてどっかいっちゃったってこと」
「あ……」
 時々億泰は思う。仗助は顔もいいし頭もキレるところがあるし、唯一誰にも負けない自信があった運動能力だって自分と遜色ない。横に並べば数センチ高いところにある腰の位置や通りのいい声なんかを比較されれば女の子が皆仗助に夢中になるのは分かる。
 彼を女の子に例えるならば、成績はよくないが機転の利くスタイル抜群の美女で、性格だってめちゃくちゃいいというわけなのだから異性が惚れないはずがない。
 今はどういう理由だか知らないが誰と付き合うわけでもなく自分と一緒にバカやって過ごす毎日なわけだが、いずれ彼も恋人を作り、彼女のために時間を割くようになるのだろう。
 そうなるときっと出かけるときにも仗助と、その彼女と。大人数でなんて話が上がればきっと康一と由花子でダブルデートなんてするのだろう。
「億泰、あんたさぁ、後夜祭に出るなって仗助に言ったらしいじゃん」
「げっ、仗助のヤツ公子に喋ったのかよ!」
「……仗助は出自のこともあって気軽に付き合うとか出来ないヤツだからさ、そう釘を刺さないでやりなよ。もしアイツが本当に彼女ができたら、多分結婚するまで行くだろうしその先も一途だろうからさ」
「そ、そりゃ分かってっけどよォ……」
「……そんなに一人が嫌なんだったらさ、どーしてあたしのこと誘ってくんなかったわけ」
「へ?」

 文化祭当日。仗助に行くなと言った手前、億泰はどうしても校庭で燃え続けるあの場所に近づくのは罪悪感があった。行けば康一と由花子がいるだろうからいずれ仗助の耳にも入るのは分かっていたし。
「だったらさ、片付けなんてフケちゃおーよ。それともアレ?俺のバイクは女を乗せないぜ、みたいなんあるの?」
 公子が悪戯っぽく笑う表情は、西日で逆光になりイマイチよく見えなかった。けれども、今まで一緒に戦ってきた中で一度も見たことのない、女の子の顔を確かにしていた。
「んなジンクスはねぇよ。言っとくけどメット持ってねぇからな」
 いつもは徒歩通学だが、今日は文化祭で必要な荷物があったため愛車を転がして来ていたのだ。
「メットはないにしてもそういや免許持ってんの?」
「俺この間誕生日だったんだぜ。十六歳。免許取れるっつの」
「じゃあ今までは無免だったんだ」
「……」
「おいっ」
 祭りが終わったばかりの学校敷地内から、カワサキのゼファーが飛び出して行く。後部座席の少女の長い髪が風にあおられ激しく揺れている。
「ちょ、出し過ぎじゃない!?」
「あ?運転中は聞こえねぇんだよ。何言ってるかまでわかんねー」
「は・や・す・ぎ・るっ!」
「あんだってーーーー!?」
 たどり着いたのは夕日の沈む海だった。近くの駐輪場にあった自販機で飲み物を買って、特に何があるわけでもない砂浜を歩く。
「サイアク」
 公子はホットレモンティーを億泰に持たせて懸命に髪の毛の手入れをしていた。風にあおられたロングヘアーはあっというまに絡まってしまったのだ。
 こうなることを事前に予測できなかったのは、バイクに乗らない公子は当然のことだし、女を後ろに乗せたことのない億泰も同様だった。
「あー、兄貴がバイク乗るとき全部三つ編みにしてた理由が分かった」
「今更分かってももう私の綺麗な髪は戻ってこない」
 海辺に出るまでに結構な時間が経過した。辺りはもう薄暗くなっており、季節が秋から冬に変わっていくのを視覚で感じる。
「てかさ。誕生日だったんだね」
「おう。公子は?いつ?」
「私はまだだから……なんで言ってくれなかったの」
「え。だってよぉ、プレゼント催促してるみてぇでヤじゃん」
「じゃああたしも言わない」
「ンだよそれー」
 そう言われてしまえば、あたしは×月×日の××座よ、だなんて言えなくなってしまう。そもそも今億泰の誕生日が過ぎたことを知ったというのだから当然公子はなにも贈り物をしていない。そのうえでプレゼントの催促のようなマネをできるはずがなかった。
「んじゃーよォ、これから毎日プレゼント渡し続けりゃいつか当たるわけだな」
「へ?」
「毎日だから大したもんはあげられねぇけどよ」
「や、やめてよ。物だと気を遣うって話からこういうことになったんでしょ」
「んじゃあやっぱ『お誕生日おめでとう』って言葉か?」
「誕生日でもないのにそんなんバカでしょ。いいってなにもしなくて。あたしだって何もしてないというかマジでスルーしてたわけだし」
「いや」
 飲み終わった空き缶を地面に置いて、億泰は学ランを脱ぎはじめた。この肌寒い時期に何をしているのかと公子がポカンとしていると、脱いだそれを公子の肩にかけた。
「こんな俺と一緒に文化祭フケてくれたわけだからよ。何かしてーって思った」
「……これから誕生日まで毎日何か言葉をかけてくれるの?」
「やれっつんならいくらでもやるぜぇ」
「だったら……」
 好きと言ってよ、の一言がどうしても出ないまま、返事は波音にかき消されたことにした。


prev / next
[ back to top ]


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -