小説 | ナノ

「お前の故郷でも見物しにいくか」
 そう言った。あなたならどうする?「最高だった……」と言わせないと自分が死ぬかもしれん。


DIO×港区


 午後五時四十二分、羽田着。荷物を受け取り迎えに来ていた車に乗り込む。私の隣を歩くのはもちろんDIO様……だけではなく。同僚と言っていいのかわかんないけど、まぁとにかく私と一緒に本来カイロのDIO様の館に務めている数人のスタンド使いがいた。
 とくに今回のDIO様ジャパンツアーご一行の中で重要な任務を引き受けているのはアレッシーだ。何せウチのボスは日光がダメなもんだからどうやって移動すんべって話になり、ダメ元でセト神の能力を使って吸血鬼ではない頃のお姿に戻っていただければいいのではという結論に落ち着いた。く
 で、やってみたらこれがまぁうまいこといったわけだ。体は別の人間とか言ってたけどその辺の不具合はどうなってんだろう。スタンドの理屈もよわかってないのだから他人の能力や体の仕組みなんてもんも分かるはずない。
「だから貴様ら!一体何者なんだ!僕をどうするつもりだ!」
「アレッシー、もう完全に日没は過ぎてる。そろそろ戻してくれ」
 子供になったと言えどDIO様は不遜だった。しかも厄介なことに日本に行きたいとかいう記憶もないわけだからどう見ても我々誘拐犯。
 押さえつけるための数人の男手と、面白そうだから・経費で旅行したいという女子三人の大所帯で手配した車に乗り込む。車内で男共がDIO様の服を脱がせていつものお姿に戻して服を着てもらう。ミドラーとマライアがガン見しているところをネーナが嗜める。
 元のお姿になったDIO様は全てに合点がいったというふうな顔をして、どかっとシートに座りなおした。
「ふむ。この移動方法はお前達に相当な負担をかけるようだな」
「えぇ。偽造パスポート作るところ辺りから時間外手当つけていただきたいものですね」
「で、どこまで運転すればいいんですか」
「リッツ」
 これまた偽造免許証で借りたレンタカーを駆って、我々は一路今宵の宿を目指した。

「もー!来日するだけで体力全部使い切ったわ。どんだけ犯罪重ねりゃいいのよ」
「公子ってば、殺し屋集団らしからぬセリフね」
 長期滞在となるため宿はとにかくいい所を選びたかった。金なら出所はよくわからないが腐るほどあるのだ。
「で、何部屋とってるの」
「予約は全部ダービー弟任せだったんでなんとも。まぁここ二人部屋しかないから、女子は女子で部屋割り決めようか」
「何言ってるんですか公子。あなたはDIO様のお部屋ですよ」
「はっ!?」
「直々のお達しです。ほら、スイートの鍵」
 テレンスは右手に持っていた部屋の鍵を私の手に滑り込ませ、左手で強めに私の腕を叩いた。
「まぁ我々もスイートですがね。では、がんばって」
「何をがんばるんだよ……」
「色々です。私は明日から秋葉原で買い物がありますので早めに休ませてもらいます。兄さん、いきましょう」
「あぁ。私は日本のギャンブルを色々試すつもりだ。公子は昼は出歩けないから観光できる場所も制限されるな。でも君は日本人だし、観光の必要はないか」
 ダービー兄弟はボーイに荷物を持たせ、さっさと行ってしまった。ネーナ、マライア、ミドラーの女子三人は代官山にいくか表参道にいくかでキャーキャー言い合っている。アレッシーはヴァニラにつままれるような形で部屋へ行った。フロントに残ったのは、私とDIO様。
「ぼさっとするな。行くぞ」

 その日はホテル内のバーで飲み明かし、明け方近くに部屋に戻って寝た。起床時刻は午後三時。まだ太陽の光はあったが事前にホテルに完全遮光カーテンを取り付けるようオーダーしていたようで、窓の光はDIO様の体を侵すことはなかった。高い金を払っているだけあり、部屋全体が広く窓からベッドまでの距離があるのもよかったのだろう。
 起きたDIO様は風呂に入り、女の私以上の時間をかけて身支度を整える。あのさらさらの金髪はこうやったたゆまぬ努力が生んでいるのかと思うと、なんだか親近感を覚えた。なにもしないでも完璧に美しいわけではないのだということを初めて目で見て知った。
 その身支度が終わる頃にはすっかり日も暮れ、これから夜の東京が目覚める。
「さぁ公子、今日はどこへいくんだ」
 手配していたレンタカーに乗り込む。運転は当然私だ。DIO様にこんな楽しいおもちゃを与えたら歩道を歩く日本人が大勢死ぬことになる。
 絶対に金に糸目をつけるなと旅行前にテレンスから口酸っぱく言われていたので、よくわかんないけど高いヤツという理由でロールスロイスのファントムをレンタルした。成る程、これはVIP専用車の顔だわ。
「まずはレインボーブリッジを渡って台場へ行きましょう」
「観覧車か?」
「えっ、何故ご存知なのですか!?」
「下調べは抜かりない。あとは六本木ヒルズにも行きたいところだな」
「まじすか……」
 いつの間にやらDIO様の隣にるるぶ的な雑誌が置かれていた。このファントムの車内でるるぶを読むのはこの人くらいのものじゃないだろうか。
「食べてみたいものもたくさんあるのだが、昼でないと店が空いてないようだな。どれ、ヴァニラをけしかけて夜に店を開くように命じてみるか」
「DIO様、何を召し上がりたいのでしょうか」
「このエッグスシンクスのパンケーキと、ドミニクアンセルベーカリーのドーナツと、アイスモンスターのカキ氷」
「乙女かっ!あ、いえ、ソレ全部日本の企業じゃないので今度各国旅行して食べましょうそうしましょう」
「このDIOにツッコミを入れるのは日本人くらいのものよ……承太郎にも色々言われたな。あの殺されかけたとき」
(余裕あんじゃねぇか……)

 もちろん有料道路を通って夜景を眺めながら車を進める。そういえば世界各国の国際線パイロットに素晴らしい夜景はどこかというアンケートだかランキングだかをとったときに、一位がトーキョーだったらしい。果たしてウチのボスはお気に召すのだろうか。
 ピロリン♪ピロリン♪
(写真撮ってるぅぅぅ!)
 思った以上に気に入ってたわ。よかったわ。
「DIO様、あちらがフジテレビ本社でございます」
「あれが! ピロリン♪ 回転するのか!?」
「しません」
 お台場に到着して早速観覧車に乗ろう乗ろうとはしゃぐDIO様を嗜めながら、乗り場付近へ向かった。が、既にそこは長蛇の列。十代や二十代前半のカップルの中に混ざるのはすごく勇気がいるが、ここまで楽しみにしているDIO様の希望にそぐわないわけにはいかない。
「ふむ。蹴散らすか」
「勘弁してください!そ、それに日本ではこうやって並ぶのも楽しみの一つなんですよ!美味しいものや楽しい場所には何時間でも並んで待つ日本人気質があるんです、郷に入っては郷に従うのも旅の醍醐味ですしそれに並んでいる間に親睦を深めるのがジャパニーズスタイルデートなんです!」
「……デートと言ったな」
「え?あっ」
 やっべ。周りがカップルしかいないからつい妙な単語を口走ったかもしんない。
「つまりこのDIOと親睦を深めたい、と」
「左様でございます」
「ならばその口調をやめるんだな。やるならテレンスくらいきちんとやれ。お前のは中途半端だ」
「すみません……」
 だがお台場無差別殺害事件は未然に防げた。観覧車乗車前に写真を撮りますというのを無理やり断り、ゴンドラに乗り込んだ。
「公子、向かいではなく隣へ来い」
 言われたとおり隣に座る。前のゴンドラのいちゃいちゃっぷりがモロに視界に入り私の苛立ちを募らせる。
「折角二人きりの空間だ……」
 長い爪のついた指が私の顎を持ち上げる。私の視界は腹立たしいカップルからDIO様の顔だけに切り替えられた。夜景に浮かぶ姿が妖しさを倍増させている。ここまで至近距離に迫れてるってことはつまり……
「いったぃ!」
 もちろん、吸われるわけだ。
「キスされると思ったか?」
「その方が幾分マシなくらいに痛いです。ぶっちゃけ涙止まりそうにないです」
「なんだ、キスしてもいいのなら最初から言え」
 ん?今……キスというより口の中身を吸われたというか……まぁ、キスされた。
「これで涙は止まったか?」
「いや、更にに出てきました」
「貴様……」


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