小説 | ナノ

 願望は、今の自分と反対のことというのはよくあること。よく風俗店に女を買いに来るということは、当然普段女に相手をされていない男ばかりだ。
 忙しいから手軽に済ませたいだけ、出先だけどそういう気分になっただけ、という男ももちろんいるだろう。だが、奴隷になりたいと思っている男は普段の生活でも奴隷であるということはまずない。
 会社の奴隷でない、つまりある程度の支配層に属するような男が、夜になると突然甘え、弱い立場である女に支配されてみっともない姿を晒したいと望んでしまう。よくある話だ。
 だから承太郎がそう依頼してくることは、珍しい話でもなんでもなかった。ただ昼の生活の一部になりつつあった男のこういう姿を見るのは、少しドキっとするものがある。
「ん……」
 こういう、というのは、パンツ一枚とトレードマークの帽子以外の着衣を許されず、足首と手首をつなぐ手錠がかけられた状態で開脚させられていることだ。
「アタシそこまでハードなプレイしないわよ?」
「構わない、アンタの好きにしろ」
「こんな偉そうな喋り方する奴隷初めてだわ」
 今まで相手にしてきた男とは違う、屈していないような表情と声色。だけど視線が持つ熱は他の連中と同じ。早く性器に刺激が欲しくてたまらないといったような淫靡なものだった。
「しっかしイジメがいのない顔と体ね。みっともない顔ねー、とか、だらしないお腹ー、とか言えないわよこれじゃ」
 四十代とは思えないほどの逞しい肉体。多くの女性は一目で彼に抱かれたいという気持ちを持つはずだ。しかし、抱かれたいのは彼の方だとはなんとも皮肉である。
「どうしてアタシにしたの?他にもこういうことしてる女、いくらでもいるでしょうに」
 公子もシャツを脱ぐと、レースを多めにあしらった黒の下着が胸元を飾り立てていた。一般的に女王様が着ているようなボンテージではない。公子は女王様業の中では割とライトな部類で、本人も男をイジメて楽しんでいるのではなく楽そうだからとこういうスタイルでいっているだけなので本当の欲しがりならば公子を指名することはない。
「こういうことをした後、同じように毎朝コーヒーを買いに行く。いい刺激になるだろう」
「はぁー、そういう」
 この夜のプレイというよりも、秘密を共有する者同士が一瞬陽光の元で邂逅するのにスリルを感じるのだろう。それはそれでなかなかの変態趣向である。
「学者センセーなんてやってると、刺激が欲しくなるものなのかしら?」
「ああ。こっちも刺激してやってくれ。そろそろ……我慢が……」
「早い」
 承太郎が腰を浮かせて下着越しに膨らんだそれを差し出してくるが、公子のつま先が軽くそこを蹴った。それでも勃起したその部分には痛みを伴う程の刺激だったようで、小さくうめくと尻を床につけた。
「そんだけしか耐えられないのによく奴隷やりたいなんて言ってきたわね」
 靴裏でぐりぐりと膨らんだそこを踏みつける。体重をかけるというより表面で擦ってやっているので今度は気持ちよくなってきたようだ。仏頂面だった承太郎の顔がとろりと溶ける。
「ん……ふ……」
「もっとはしたなく泣いて?」
「男のそんな声で興奮するのか?」
「しなきゃこんなことやってないわよ」
「……っ、あ……もっと、もっとだ……いじってくれ……」
「イジメて、でしょ」
「あ!う……イジメて、くれ……俺の………………を」
(でも偉そうな喋り方)
 ため息をつきながら煙草に手を伸ばした。が、この妙に生意気な態度、本職の女王様からしたらお断り案件なのかもしれない。そうなればソフトSMの公子のところに来るのもまあ頷ける。
「俺の何をイジメてほしいの?」
「っ……言わせる気か?」
「言いたくないなら別にいいのよ。確かに今アンタは奴隷ではあるんだけど、金を払ってる立場なんだからやりたいことだけやったんでいいのよ」
「……アンタがそれで興奮するのなら」
「そのアンタってのもやめ。女王様とお呼び、とは言わないけど、アンタ呼ばわりはフツーにムカつくわ」
「じゃあ、何と呼べば」
「公子よ」
「公子」
「呼び捨てか。まあいいけど」
「なあ、やりたいことをやれと言ったな。じゃあ、本番はさせてくれるのか?」
「ウチは本番はナシよ」
「じゃあせめて、公子にも触りたい。手錠を取ってくれ」
「あのさ、SMの意味なくない?まーだ早いわよバカ」
 引っぱたいてやろうと近づくと、太ももを舐められた。手で触れられないのならと届く範囲の公子の素肌を舐めまわす。
「くすぐった……」
「下着、脱いでくれ」
「はー。ま、そのプレイは好きだからいいけど」
 やはり手錠はつけたまま、承太郎は床に転がされた。そのまま足を開くように命じられ、オムツ換えを待つ赤ん坊のようなポーズを取る。屈辱のあまり歪ませた顔の上に、下着を脱いだ公子が座る。
「むっ……」
 閉じようとした足は公子が手で持っているため動かせない。だが視界には公子の臀部しか映っていない。恥ずかしさよりも口の中に女王の体液が落ちてくることに興奮し、さらに性器が固くなった。
「丁寧に奉仕しなさい」
 見えはしなかったがその言葉は自分のペニスを見つめながら言ったような気がした。浮き出る欠陥を細い指がなぞる。触れられて呼吸は荒くなるのに口は公子の下半身で塞がれている。鼻息を荒げながら承太郎の舌は丹念に割れ目を濡らしていった。
「どうやってイカせてほしい?」
 ペニスの先端から汁が滴ってくると、公子は口を解放してやった。しばらく酸素を取り入れるため言葉を発せなかったようだが、我慢汁を舐めとられるとうめき声をあげながら返事をする。
「うっ……ぐっ……あ、本番、が、だめなら……フェラ……で」
「えー。アンタのアナルは?」
「……さすがにケツは勘弁してほしいんだが。そうしたいのか?」
「まあね」
「……わかった」
「え、マジで?別に嫌ならいいのよ本当。まあ今日は初めてみたいだし?割とノーマルな方法で出させてあげるわよ」
 今承太郎は仰向きの状態で寝そべっているのだが、上半身はそのままで膝が床に届くほどに足を持ち上げられる。勃起して完全に皮がむけている亀頭部分がよく見える体制だ。承太郎は嫌な予感がしたのかじろりとした視線を公子に向けた。
「このまんま擦ってあげる。自分の顔に発射して」
「あっ……やめろ」
「このやめろは「もっと」の意味でとるわよ」
「うっ……ん」
「図星だったようね。ほら、もっとだらしないこえ出して」
「ふぅっ……あ……き、気持ちいい。もっと、強くこすってくれ」
「しょうがない子」
「あっ、ああ、そうだ……俺は、公子にこうやってしてもらわないとイケない男なんだ」
「やっと素直になってきたじゃない。ほら、もっともっと」
「ぐっ、うっ……み、見ててくれ。俺が、出すところ……ああ、出っ……う、あ……出るっ、出るっ、出そうだ!」
「出していいわよ」
 そう言いながら軽く玉を舐めると同時に承太郎は身を震わせ、自身の顔を自身の体液で白く汚した。手錠を外してやると手足をばたんと投げしてぼんやりと天井を見たまま動かない。精液で汚れた顔で公子を見つめるその顔は、妙な色気があった。


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