小説 | ナノ

「娘さんにプレゼント、ですか?」
「ああ。娘は君よりはいくつか若いが、他に若い女性の知り合いがいないから聞く宛てがなくてな。君だったら何が欲しい?」
「そうですねぇ……」
 職場の上司である空条博士が、珍しく仕事と関係のない話題をふってきた。彼の口から挨拶以外に指示や伝達くらいしか聞いたことがない公子は珍しいと思いながら考えをめぐらせた。
(パッと出てくるのはそりゃ土地だのマンションだのだけど、そういうことじゃなくて……)
 一番いいのは実用品だ。しかしこの男が娘の日用品を知っているとは思えない。
「誕生日プレゼントですか?」
「ああ、まあそんなところだ」
「だったらケーキでいいんじゃないですか?十代なら他の子にお菓子とかもらってても、ぺろっと食べちゃえますよ」
「成る程」
 承太郎は表情筋を一切動かさずに返事をした。仕事上とはいえ長い付き合いだから分かる。これは納得いかないときの返事だ。中途半端な内容で誤魔化した報告書を提出したときはこういう顔をよくされた。
「娘さんの趣味とかご存知ですか?」
「いや、まったく」
(えー……)
「ちなみに君の趣味はなんだ」
「え、私ですか?」
 急に話題が飛んだと思いつつ、言っても差しさわりのない趣味を急いで探す。
「そうですね、まあ月並みですが読書とか音楽鑑賞ですかね」
「どういったものを読むんだ」
「私の好みを聞いても参考にならないと思いますよ」
「……すまなかった。実は娘の件を出しにして君へのプレゼントを探っていた。もう回りくどいのは面倒だから直接聞こう、何がいい」
 その言葉に公子は目を丸くした。先ほども言ったとおり、何せこの男とは付き合いだけは長いがお互いのプライベートは一切話したことがない。娘がいると知ったのもついさっきだ。
「えっと、何故私に?」
「君がここに来て来月で三年になる。今までの感謝とこれからもまたよろしくお願いしたいと言う気持ちだ」
「あ、ありがとうございます。でもそんな、お気遣いいただかなくても」
「私が送りたいと思ったから聞いた。それとも迷惑か?彼氏に疑惑を持たれるとか」
「いえ、そういうわけでは」
「彼氏はいるのか」
「え?え?いえ、いませんが、えっと……じゃあ、仕事で使うペンを一つ、いただけますか?」
「……」

 三日後の金曜日、ロスに出張に来ていた花京院と食事の約束を取り付けていた承太郎は、待ち合わせの店ののれんをくぐった。
 日本の居酒屋そのものといった内装とメニューの揃うこの店は、和食を離れて久しい承太郎の行き着けである。
「お疲れ様ー」
 久々の友人の顔はあのときの傷も何もかも変わっていないが、そう言うと「それはこっちのセリフだよ」と必ず返される。
「で、聞き出せたのかい?例の女の子」
「ああ。ペンが欲しいと言われた」
「……僕の作戦使った?」
「使ったが、なんだかんだで直接聞いた」
「ちょっと待て」
 事の筋を簡潔に語ると、花京院は手で顔を押さえてうなだれた。その後一気にビールをあおる。
「それじゃ意味ないじゃないか!大体それでペンって、完全に気を使ってるだけだよ!まさか1ドルのペンをラッピングしたなんてことはないだろうね!」
「245ドルだった」
「それはそれで重いよ……高いよ……」
「モンブランのペンだ」
「女性に贈るのにモンブラン……?ま、まあレディースもあるのかな」
「俺と揃いにしたかった」
「だから重いよ!」
「三年も堪えたんだ。月日に比例して気持ちも重量を増すさ」
「君は仕事も気持ちも溜め込みすぎなんだよ。今まで全然話さなかった会社の上司から急に告白されたら驚くだろう。三年分の距離を一気に埋めようとしたら、多分逃げられるよ」
 承太郎とは二十年以上の付き合いになるし、一度結婚から離婚まで見届けてもいる。そのときと相変わらずの不器用ぶりに花京院はため息が出た。
(変わらないな、てのは、やっぱり僕のセリフだな)


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