12
時刻は昼前。
ナマエは、街外れの森の入り口に立っていた。
「う〜ん。どうしよう。このまま適当に行って、あいつに逢えなかったらすっげぇ悲しいよな」
とりあえず立っていても仕方がないと思ったナマエは、宛てがあるわけも無くズンズンと森の中を突き進んでいた。
「ま、いっか。体力があるだけ歩いてみよう」
そう言って歩いてから、すでに4時間。
山も1か2つは越えた。
ちょっとずつ削られていた体力は、思ったよりも無くなっていくっていうか、もうすでに無い。
ずいぶん疲れてしまったナマエは耳を澄ませ、微かに聞こえてくる川の音に誘われるかのように、川に向かって残りの体力を使って歩き出しすと、目の前には大きくて、水がすごく澄んでいる綺麗な川が流れていた。
ナマエは、ここで少し休憩をしようと思って、足だけを川につけるように川辺に座ると脱力した。
「だぁぁぁ〜〜。冷たくて気持ちいい」
さすがに紙袋を持ちながらの山越えはキツイ。
体を倒して、青い空を仰ぎ見ると、何もない静かな時間でナマエは自分の世界の事を考えていた。
今どうなっているのか、自分がいなくなって騒がれたりしているのか。
だが、今のナマエにはどうすることも出来なくて、帰りたいなど何度も思い、何度も願ったが、叶うはずもなく日々は過ぎていく。
どうすることも出来ず、何をしていいのかも分からない。
そんな自分の無力さを振り切るよう、自分の世界の歌を口ずさんでいた。
「♪♪〜〜〜〜♪〜〜♪♪〜〜♪〜〜〜〜♪〜〜♪」
自分の一番好きなアーティストのバラード。
今の自然の中では、特にとても綺麗に似合って聞こえる。
そんなナマエの歌声に誘われるかのように、森にいた動物達が、岩や木の陰から姿を覗かせ始めると、まるで歌を聞いているかのように、ナマエの歌にあわせて尻尾を振ったりする動物も中にはいた。
目を瞑って歌っているナマエは、動物達の中に動物とは違う一つの影も動物と同じように集まってきた事に気付かずに、最後まで歌い続けていた。
全てを歌い終わったナマエは小さく息を吐くと、声をかけられ、まさか人が居たことに驚きを隠せずに、倒していた上半身を勢いよく起こした。
「おめぇ、スッゲーな」
「っ!!・・・・・(しゅ、主人公が出た!)」
そこにいたのは、橙色の胴着だろう服を着こなした、この世界の主人公孫悟空がいた。
ナマエは、やはりどう歩いてもキャラと関わってしまう運命なんだと、少しだけしか関わらないようにしようとした決意に、いっそのこと諦めてしまおうと思い始めた瞬間でもあった。
「オラ、あんな綺麗な歌聞いたの初めてだから、すげー感動したぞ」
「ど、どうもありがとう」
目をキラキラと、今の大人は忘れていった純粋な笑顔で言う悟空に、素直にお礼をいってしまうナマエ。
「オラ孫悟空だ。おめぇの名前は?」
「・・・・・ナマエ」
「ナマエか、いい名前だな」
「それは、どうも」
「な、な、もう一回聞かせてくれねーか?」
「えっ」
「頼むよ。オラすげー気に入ってさ、もっかいだけ」
このとーりと言って頭を下げる悟空を目の前に、たじたじになるナマエ。
とりあえず、話題を変えようと思ったナマエは、どうしてここに悟空がいるのか気になったので聞く事にした。
「それより、こんな人のいない場所にどうして悟空さんはいるんですか?」
「オラか?オラは晩飯のおかずを探していたんだ」
そうですかと言いながら悟空の周りを見渡すが、おかずらしいものは何一つない。
そんなナマエの視線に気がついたのか、悟空は苦笑いをして、頭を掻いていた。
「ここの川で、でっけー魚を取ろうとしたら、人の気がしてな、近寄ったらナマエが歌っていて」
その歌が綺麗でつい聞き入っちまったと、言いながら笑う悟空に、ナマエは本当に純粋に育ったんだなと思っていた。
「そうだナマエ!」
突然いい考えが思いついたと、ナマエの名前を呼ぶ悟空に視線を向ければ、また輝かしい笑顔で見てきた。
「もうすぐ夜だし、オラん家に来いよ。んで、さっきの歌をチチにも聞かせてやってくれ」
「いや・・・・・」
「よし、そうと決まったらオラ魚獲ってくるぞ」
決まってないと言いたかったナマエの言葉を無視して遮った後の行動は早く、川の中に飛び込んだ悟空を呆れた目で見ていた。
今のうちに帰ろうかな?と思ったナマエは、川から立ち上がった瞬間、とても素晴らしいタイミングで川から悟空が帰ってきた。
「獲るの早くね?」
「ん?どうしたんだ?」
「いえ」
ついツッコミを入れてしまったナマエはなんでもないと悟空に笑顔を向けた。
「よし、行くぞ」
「え、もう?」
いきなり言った悟空は何をと問うより早く、獲った魚を3匹とナマエと、ナマエの持っていた紙袋を抱きかかえるように持ち、空を飛んでパウズ山へと向かう。
「ちょ、冷たっ!!や、待て待てって!!あたしは、ここ高所恐怖しょっっぅぅぅうう・・・・・」
が、川から上がったばかりの悟空の服はもちろん濡れたまま。
そんな悟空に抱きしめられるように抱えられたナマエは、もちろん言うまでもなく滴ってくる水滴に、水気を吸いに吸っている服のせいで、いらない被害と恐怖を味わうだけ味わっていた。
パオズ山に着いた悟空は、笑顔でチチの待つ家の中に入っていた。
ナマエは真っ青な顔をして、地面に膝と両手を着いて、ゼイゼイと息をしていた。
「おーい、チチー!魚とナマエを持って帰ってきたぞ」
「悟空さ、ナマエってなんだべ」
「ナマエは、外にいるぞ」
ちょっとのん気な悟空に、ナマエと知らない単語を聞いたチチは、ナマエを確かめるために外に出てきて、ナマエと目が会った瞬間に叫んだ。
「ご、ごごご悟空さぁぁーー。どうゆうことだ、浮気だか?ナマエって、女じゃないけ。どうゆうことか、説明してもらうだ!!」
「ちょっ、落ち着けチチ」
「これが落ち着いて入れるわけねーべさ」
「なぁ、ナマエ助けてくれよ」
「知るかよ」
こっちの意見なんか無視したくせに、自分だけ助けてもらおうなんて甘えるんじゃねぇと、心の中で思ったナマエだった。
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