雨の日の迷い猫



学校も始まり、少し経った日曜日のことだった。
ザァァと、とても憎らしくこれでもかってくらいに降っている雨。

それでも、営業している珊瑚礁。

だが、この雨の中わざわざ海辺の珊瑚礁まで来てくれる客なんかほとんどいない。

珊瑚礁の店員である佐伯瑛は、見事に着こなした制服に、いつもキメテいる髪型の姿でグラスをただただ拭いていたが、はぁと佐伯の口から溜め息が漏れる。

今日何度目の溜め息なんだろうか。
両手の指では足りないくらいはしているであろう。


「じいちゃんも今日はいないし、客も来ない。店閉めてもいいよな…」


そう呟いて、入口に向かって行く途中に佐伯の足が止まった。
その理由は扉の向こう側に人がいたからだ。


「(何時から居たんだ?入るならさっさと入ればいいのに)」



背中を向けて立っている人影。
時にゴソゴソとたまに小さく動くのは分かるが、店に入る気配は更々ないようだ。


「(入らないなら邪魔なだけだ。営業妨害にもなるしな。雨宿りなら別の所に行けよ…)」


佐伯は、営業スマイルの顔で入口に歩き出した。

カランカランと音がなり、外に立っていた人へと目を向けた佐伯は思わず声を漏らすと、立っていた人物も声を漏らしてしまった。


『「あ」』


入口に立って居たのは名前だった。
名前も佐伯も無言が続いた。


『あっはっはっ。よっ!』
「お前何してんの?」


罰が悪い顔をしながらも、笑いながら挨拶する名前に、呆れながら名前を見下ろす佐伯。
そんな佐伯の質問に名前は、あっけらかんと言う。


『雨宿りだ』
「だったら、中入れよ」
『無理だ』
「はっ?」


入口を少し開けながら、入れと誘った佐伯を一刀両断した名前。


『聞こえなかったのか?』
「よく分からなかったから、聞き返しただけだろ」
『聞こえなかったんだろ?だから白髪なんかになるんだよ』
「これは地毛だ!」
『知ってる』
「もういい。名前といると疲れるから、店に入るな」


佐伯の言葉で、軽く涙を拭う真似をする名前

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