政道が帰ってくる前に仕上げないと。 今日この日、そのためにメニューを考えてきたんだ。
なかなか切れない硬い骨に苛立ち、何度も何度も包丁を振り降ろす。 もう……肉は柔らかくて加工が簡単な分、骨には苦労するし面倒に思ってしまう。 だが諦めるな。骨は噛み砕いて食感を楽しむもの……そう月山さんは教えてくれた。 喰種に関する食に疎い私にとって、美食家の彼の意見は重要。 政道の為なら、例えCCGを敵に回しだっていい。というか法とか関係ないわ。 空腹で苦しむ政道のお腹に少しでも入ればいい。少しでも満たされればそれでいい。
なんとか骨をざく切りにして、裂いた肉と共にボウルに入れておく。 次はメインのジャムだ。 切れ味最高の丸鋸を取り出し、電源を入れる。 いい?集中よ私。 脳は傷つけないように……慎重にね。 火花と血飛沫が部屋中に飛び散って悲惨な事になっている。後片付けが大変そう。
「たァだいま〜っと。うっわ、いつもより汚れてんな」
「あっ、帰ってきちゃった」
リビングの窓が開いて、政道が帰宅。 丸鋸の電源を切って「おかえり」と笑うと、彼は私を後ろから抱きしめて頬に付く血を舐めとった。 腹減ったと繰り返す政道に切り取った頭頂部を渡すと、嬉しそうに受け取って直ぐに食べてしまった。
「ジャム、ジャムくれよお」
「今すぐだから待って、ね」
今日はエトさんの所で大人しくしていたらしい。 戦闘、及び捕食をしている日は、かなり気が立っていて興奮しているし。 そんな様子がない政道は、理性のある喰種の一人にしか見えない。 ただ異常な空腹と強すぎる赫子の力を持った、普通の喰種だ。 こんな姿では二度とCCGは戻れないけど……私は。
「はい完成。ハロウィンだからジャックオーランタンみたいにしたかった」
「見た目なんか気にしたコトなかったけど……美味そうだな」
「食事はなんでも美味そうに見えるクセに」
「まあな」
大皿の中央に鎮座する頭。 その頭頂部は切りとられ、脳みそが丸出しになっている。 頭を囲うのは食べやすく千切られた肉と、カットした骨。 指や眼球はデザートとして別のお皿に盛り付けた。 あとは二人分のグラスを出して、二福から貰った血酒を注ぐだけ。
「乾杯、政道」
「ああ」
グラスがぶつかる。 澄んだ音が響く。 揺れる影は部屋を照らす蝋燭が生み出したもの。 血酒をあおる二人のヒト。
彩る血はオレンジ色に。 私達の片目は真っ黒に。
並ぶ食事に夢中で喰らいつく政道を眺める私は、どんな顔をしているだろう。
例えCCGを敵にまわしても。 世の法律を破っても。 Vとそのきょうだいを捨てても。 私は政道を守り、助け、生かし続ける。
「うめえな……最っ高……」
「よかったあ」
私は不幸を生きる彼を幸せにしたいだけ。
2016.10.25
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