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【 ロイの過去 】
あらゆる場所を探し回った。
スズネは足が速い。見失うとどこにいるか分からなくなる。
だが私よりもスズネと長く居るカゲトラさんとタケルは心当たりというか、ここじゃないかと思う場所があったらしい。
もうすぐでウォータイムが始まる。
校舎内に生徒の姿はないから、人にぶつかることもない。
先生だっていないから廊下は走り放題。バタバタと階段を駆け上がり、扉を思い切り開ける。
気分とは真逆の爽やかな風が吹いて、私達を包んだ。
ついたのは屋上。その一番奥で、スズネはうずくまっていた。

「どうしたんだ?急に」

いつもよりかなり柔らかい優しい声で、カゲトラさんがスズネの前にしゃがんだ。
気持ちを落ち着かせるように肩を撫で、背中をポンポン叩く。

「……ウチが、間違うとるんやろか」

重なる。デスワルさんと港でお別れした時の会話が。
スズネはただLBXバトルを楽しみたいだけだって、そんな考えは間違ってるかって悲しそうに言っていた。
そして私とタケルは、間違ってないよって返した。
心の傷を癒せるのは時間だけ。悩みも、大半は時間が解決してくれる。
スズネがこの悩みから、傷から解放される日は来るのかな。

「お話中、失礼します」

そこへやってきたのは、浅黒い肌の少年。さっき司令室で見かけたジェノックの生徒だ。
タケルが頭を捻り、「えっと……ロイ君、だよね。どうかしたの?」と振り向いた。
ロイくんは真っ直ぐ歩いてきてスズネの前にしゃがむ。

「僕なら、スズネさんの疑問に答える事が出来るかもしれません」

「え、本当に!?」

「はい。なぜなら、この僕はウォータイムによって祖国を分断された人間だからです」

ま、マジか!ロイくんの人生、どうなってんの。
彼は静かに話し始め、私達は真剣に聞いていた。

曰わく、ロイくんの生まれ育ったイグアニアという国は、移住してきた人達と、古くから住んでいる人達との間で、土地の問題を巡る戦争が日常茶飯事となっていたとか。
一度戦争が始まると、銃声や爆発音、そして悲鳴が街中に満ち溢れていたらしい。

「そんな絶望的な日々の中、戦闘のない僅かな時間……友達とLBXバトルをする事が僕にとって最高の楽しみでした」

LBXの話をするロイくんの表情は酷く優しい。
本当に、LBXが大好きなんだ。

「そんなある日の事です。いつものように友達とバトルをして、家に帰る時……突然、フェンスが目の前に敷かれていったんです」

後で聞いた話ですが、イグアニアは二つの別々の国になってしまったんです。
悲惨だな。なかなかに。
ロイくんはその日からその友達とバトルする事が出来なくなったと言った。
そっか、友達は敷かれたフェンスの向こう側に住んでた人なんだね。
だけどロイくんは、フェンスが敷かれてからはイグアニアで戦闘が起こることはなかったと、続けた。

「僕たちを長い間苦しめた土地の問題とそれによる戦闘は、知らない間に解決されていたんです」

「……」

「正直なところ、今も戸惑いはあります。それでも昔と比べれば、ずっと良かったと思っています」

銃声、爆発音、悲劇、それを聞かされる毎日よりは遥かにましな、平和な生活を送れたと。
あの一件がなければ僕はこの学園に来る夢も叶えられなかったと、ロイくんは優しい笑顔を見せた。
そんな彼の、セカンドワールドに救われたという境遇。前向きに生きる姿。
なにか影響を受けるものがあったのか、スズネはフッと笑い顔を上げた。

「セカンドワールドって、そんな悪いもんじゃないのかもしれへんな」

タケルが手を差し伸べ、スズネはその手をがっしり握る。
そのまま引っ張られ立ち上がると、スカートについた埃を払いながら「おおきに、ロイ」といつもの笑顔を見せてくれる。

「おかげで学校辞めんですんだわ」

「いえ」

「アユリ達も堪忍な。ウチ、ちょっと周りが見えんようになってたわ」

「まあ、お前らしいがな」

「いいんだよスズネ。いっぱい迷惑かけてよ」

「そうそう。いつもの事だから気にしないって」

「なんやソレ!?」

いつもの調子を取り戻したようで良かった。
カゲトラさんを先頭に、司令室へ戻る私達。
ロイくんに小声でお礼を言えば、少し顔を赤くして「お役に立てたのなら、良かったです」と笑っていた。

2016.05.28
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